第5話 トラ転王子、観戦する(2)
そのミャウを相手に、カインもまた一歩も引いていない。
彼の操る武器はミャウとは対照的に細く反り返り、今にも折れそうな刀身なのに迫ってくる大剣をいともたやすくはじき返している。しかもいつの間にか、もう片方の手にも同じような剣を持っていた。両手剣からの斬撃を二本の刀がいなし、弾き、カウンターを入れる。
騎士の剣技と比べようがない荒々しさだが、実戦で磨かれてきた動きとタイミングが剣筋に凄みを与えている。
いつの間にか、訓練場が静まり返っていた。他の鍛錬をしていたものたちすべてが動きを止め、カインとミャウの立ち合いに目を奪われている。
二人が最初この訓練場に現れた時、周りの反応はひどいものだった。無視するのはまだ穏やかな方で、あからさまに見下した視線を寄こすものが大半だったのだ。
まあ、騎士の自分と傭兵を比べたくはないと思うよ。
でもさ、相手の技量も知らないうちから鼻を鳴らすのは身の程知らずだと思うんだけどな。
ミャウに聞いたら、こういった反応は珍しいものでもないらしい。国にしろ領主にしろ、己の主君のみに忠誠を捧げる騎士にはままあることなのだという。
それも分かるんだけど。
オレが気分良くないんだよな。
で。見せつけることにした。二人の戦闘能力を。
いつもはオレの住む部屋の裏庭で日々の訓練をしているんだが、週に2回はここで対戦させることにした。結果は見ての通りだ。
当初はうすら笑いを浮かべていたのがすぐに硬直し、目玉が落ちんばかりに見開かれるとか。
への字に結んでいた口がだらしなく垂れ下がり、プルプルするとか。
人間の顔色がああも変わるものだとは思わなかったな。いや本当に。
今では二人が対戦する様子を喰いつかんばかりに凝視する人間が多くなったよな。
これで城内の騎士や兵士の練度が上がるなら儲けものだよね。
・・・それにしても、一向に終わらないな、今回は。いや、今回も。
ミャウが頑張ってることもあるし、カインの能力が高いってのもあるんだろうけど・・・そろそろ限界、かな。
オレがそう考えてたら、置いてあった魔道具から薄く煙が立ち上り、
パキッ
小さく音を立てて壊れた。
「よし、終了!!二人とも、魔道具壊れたからこれ以上は危険すぎる!今回は引き分けだ!」
パンパンと手を打ち鳴らし、武器を引くように促す。がっちりと組み合った二人がギリギリと音がしそうなくらいに睨みあった後、どちらからともなく後ろへ飛び退って得物を収めた。
「くううぅぅ~~っ、今日こそは一発かっ飛ばせると思ったのにぃぃ・・・」
歯噛みして悔しがるミャウにふっと鼻息ひとつ漏らしたカイン。『まだまだ及ばんよ』とでもいうのかな、すっごい上から目線を感じてしまった。
見ていた周りの者からも力が抜けたようで、あちこちで座り込んだり興奮した口調で話し合っている人影がある。
オレは足元に転がった魔道具を拾いあげ、これで幾つ壊したんだろう、と考えていたが。
「おや、もう終わってしまったのかい、残念だったな」
見知った声が注意を促した。
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