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第48話 トラ転王子、あの日の真実を知る(4)

「扉を閉め、『瘴気』を外に出すな。お前たちは散開して周りを固めよ。あの靄に触れぬよう、触れさせぬよう、細心の注意を払うのだ」

「はっ!!」


 直ちに扉は閉められ、その前に騎士が二人、決死の表情で立つ。他のものは広く散り、どこで何があろうともすぐに連携できるよう体制を整えた。

 その間にも漏れ出る黒い靄は少しずつ濃度を濃くして来ている。肌に感じる悪寒も強くなってきた。


「魔術師たちは魔力のベールを強化し、可能ならば出入口を閉じよ」

「今、対処しております。ですが、出入口の封鎖は術式の書き換えを必要としますので、すぐには無理かと・・・」

「ならばよい。他に影響が響かぬよう、ベールの強化に当たれ」

「御意にございます」


 魔術師たちも必死に魔力を練り上げてベールに加えている。だが、『瘴気』の濃さから考えると、その壁が破られるのも時間の問題かもしれない。


「カイン、傭兵隊では『瘴気』をどうやって消していた?」

 オレは『瘴気』を見据えながら聞いた。


「辺境において『瘴気』は珍しくない。消滅させるには、感情を残したモノを見つけて破壊すれば終了する」

「うん」

「だが、今回の場合は難しい。おそらく、向こうの転移魔法陣近くに大元があり、そこからこちらに流れてきているのだろう。であれば、まずは溢れ出した分を消したうえで転移、向こうの大元を破壊する、が順当だ」

「そうか」


「『瘴気』となった魔力を消すには聖別された水をかけるか、もしくは聖魔法を浴びせるか・・・いずれにしてもここでは無理か」


「父さま、聖水を取り寄せることは・・・?」

「間に合うかどうか難しいが。誰か、教会で聖水を受け取ってくるように」

「はっ、すぐに」

 一人が扉を開けて走り去る。やはり、用意しておくに限るよな。


「カイン、『瘴気』は転移魔法陣を動かせるのか?」

「そのような事例、聞いたことはない、が」

「でも、あの陣、魔力が充てんされているように見えるけど?」


 そう、『瘴気』が流れ出てきてから、転移魔法陣が徐々に光を帯びてきている。所謂『起動準備』のように見えるのだ。

「そんな、馬鹿な・・・」

 オレの言葉を聞きとがめた魔術師が光り始めた陣を睨む。


「『瘴気』の元が魔力ならばあり得るのか」

 カインが独り言のようにつぶやく。

「だったら、こちらに漏れてきている『瘴気』をつぶせばすぐに向こうへ跳べそうだな」

「あの陣の状態を見ると確かに」

「魔術師たちよ、あの陣がどの程度まで起動しているのか確認せよ」


 オレたちの話を聞いていた父さまが指示を出す。

 すぐに何人かが動き出し、『瘴気』に触れぬよう注意しつつ確認していく。

「陛下、やはり起動しておりまする。しかも、すでに充てんが完了しておりますようで」

「うむ、ご苦労」


 こういう時なのに、新しいことが発見されるのは喜ばしいのだろう。魔術師たちが興奮しているようだ。

 まあ、あの宮廷魔術師長の下にいる人たちだしな。推して知るべし、か。


 何にせよ、今はあの漏れ出ている『瘴気』を何とかしなければ。

 聖水が効く、という事は、アレが使えそうだ。

 よし、さっそく成果を試してみるか。


「父さま、ボクの能力を試してみます」

「なに? それは・・・!」

 父さまが絶句した。

「大丈夫です。たぶん」

 そう言いおき、オレは前に出る。


「坊ちゃん、危険にゃ!」

「わかってる。注意するよ」

「主! 援護は必要か?」

「いや。多分、一撃で決まる。そこで待っててくれ」

「・・・承知」


 そのまま、ベールに導かれた出入り口に立つ。黒い靄はますます濃度を高めてきて、実体を持ったかのように濃く黒くなり、気味悪く蠢いている。


 その中心部に向けて両手を突き出し、イメージを固める。

 指先から白い光が漏れ出した。


「『セイクリッド・ランス』!」


 声と同時に白い光が矢のごとく靄の中心部に突き刺さり、そこから無数の網目状になって靄全体をからめとる。逃れようとするのかあちこちで黒い棘が突き出るが、すぐにそれも網に絡まれて中に埋もれていく。

 そうして蠢く靄の塊が白い網にすべて包まれ、動きすら制限されると。



     ギギギヤヤャャァァァ~~~っ!!!



 ガラスを爪でひっかいたような耳障りな音が辺りに響き渡る。誰もが顔を背け、耳をふさぎ、眉をしかめてやり過ごしていく。靄は網の中で徐々に、徐々に小さくなり、消滅していった。


 その『瘴気』は魔力に変換され、オレの中になだれ込んでくる。


「グッ!!」


 ただの魔力を吸収した時と違い、ガツンと堪える。気体でなく、水でもない、角のある冷たい氷の塊を飲み込んだような不快感がある。いつもなら満腹感で通り過ぎるのが、のどを通って腹に収まってもまだ存在感が残ってる、そんな感じ。


「ユリウス! しっかりせよ!」

 ふらついて膝をついたオレを真っ先に支えてくれたのは父さまだった。





読んでいただき、ありがとうございます!

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