第47話 トラ転王子、あの日の真実を知る(3)
父さまはオレの驚いた顔を見て、口の端をわずかに上げた。
「それほどに驚くことかな、ユリウスよ?」
これを驚かずに何を驚けってんですか~~っ!
声を出さずにコクコク頷くと、更に口角が上がり、隠すように手が添えられた。
つまり、笑われたんですね、オレ!? 面白がられてるんですね!?
くっそ~~っ。
ふと周りを見ると、騎士も魔術師も、そしてオレの護衛二人まで口元を抑えたり後ろを向いたりしている。
全方位で笑われてる。つらい・・・
がっくりとうなだれたが、その時。
ちりちりと首筋を走る不快感に気が付いた。敵意を持った魔獣が近づいてくる、あの警報にも似た感覚。
顔をあげて辺りをぐるっと確認。すぐに方角が分かった。
今いる場所から右手方向にある一番奥の魔法陣。そこから嫌な気配がチロチロと漏れてきていた。
父さまも気が付いたようで、同じ場所を見据えている。
「父さま、あの魔法陣はどこに通じているのですか?」
オレの問いかけに、
「あれは『東の魔の森』だ」
そう答えた父さまの顔が微かに歪んでいた。
転移魔法陣は書くだけで大変な手間を必要とする。内容が複雑なのもその一つだが、何よりも大きいのは魔法陣を描く塗料の素が高価で滅多に手に入らないため、簡単に書いたり消したりできるシロモノではないんだ。そこで、普段は陣を維持できる魔力だけで管理し、必要となった時にタイミングを合わせて機動させる。よほどの新興国でない限り、どこでもそうやって管理している。
過去にはその特性を悪用して侵略を仕掛けた国もあったという。メリットが大きければデメリットもでかいという事だな。そんなことにならないよう、それぞれの国で対応策を練っている。
常に警備の人員を配置するという人的パワーを用いているところもあれば、魔法陣をわざと最小単位にしておいて、一度に移動できる人員を制限しているところもある。
わが国では魔法陣と魔法陣のあいだを広く取り、それぞれの魔法陣を魔力のベールで仕切っている。ひとつの魔法陣から出てきた対象者は決められた道に沿って出口まで誘導され、他の魔法陣へ直接移動することはできない。
また、一度に決められた人数以上が転移してきた場合、そのベールが閉められて外へ出ることが叶わないようになっている。同時に執務室や警備室に警報が発せられ、騎士団が即座に動いて対応し、拘束もしくは捕縛していく。
このシステムを維持するには魔石が必要で、魔獣の駆除や討伐が積極的に行われているんだが・・・オレが参加するようになってから魔石の質が上がって余裕が出てきた、と、つい先日、宮廷魔術師長から感謝されたばかりだった。
そのベールがかすかに輝き、何枚も重なった奥の片隅。そこの魔法陣から立ち上る濃い負の気配。肌をちりちりと焼く、静電気にも似た圧迫感は今まで感じたことのない恐怖を伴ってきていた。
よくよく目を凝らしてみると、魔法陣の中央から、黒い靄が薄く立ち上ってきている。
「なんだ・・・?」
思わず知らず疑問がこぼれた。と、後ろから、
「『瘴気』だにゃあ」
そう、回答が返ってきた。
「『瘴気』・・・?」
「あれは辺境でもたびたび見かける。魔力ある者が余儀ない不運で死に面した時、最後に感じた苦しみや悲しみ、恨み、無念。そういった感情が魔力をゆがめ、貶め、他のものを襲うようになる。『魔の森』にはそういう『瘴気』が煮凝って存在すると言われる」
カインがそう説明してくれた。
「うむ。さすがに辺境を纏める傭兵隊は博学よの。これがあるために『魔の森』の探索は至極厄介になっておる」
父さまがオレに視線を向ける。
「ラルフィが消えた時も、あのような『瘴気』があふれてきおった」
「! ラル兄さまが、『瘴気』に・・・」
「その話はここを乗り切ってからに。良いな?」
「・・・はい!」
確かにその通りだ。オレは魔法陣から漏れる『瘴気』を睨む。
あれが『瘴気』であるなら、きっとあの方法が役に立つはずだ・・・!
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