第46話 トラ転王子、あの日の真実を知る(2)
城の地下は子供が入り込まないよう、大きな扉で閉じられている。
そこには宝物庫があり、王家の宝が眠っている。そして、その宝を守るために、魔獣が放たれている。不心得者が宝を狙って入り込んでも、それらの魔獣がすべて始末してくれる。だから、地下への扉は触れちゃダメ、開けちゃダメ。王宮に住む子供たちはみなそう言って教え込まれる。
その扉が、今、開いていた。
周りは騎士が警戒し、開いている角度も最小限。その中に父さまは入っていった。
そして振り向き、オレを手招きする。
「陛下、よろしいのですか?」
「うむ。ユリウスには許可を与えてある。急ぐぞ」
そう言って足を速める。その先は一番端を目指しているようだ。
地下一階の端、厳重な警備が敷かれた一画まで、オレはほぼ走りづめだった。それほど父さまたちが急いでいて、子供の足のことなど気に留める余裕がなかったと言える。ホント、鍛えておいてよかったぁ。
そこにあるのは大きな扉。だが他と違うのは、取っ手に太い鎖が何重にも巻かれ、王家の紋章を表す緋色のドラゴンが彫られた南京錠が取り付けられていることだった。
周りを騎士に囲まれて父さまが懐からカギを出す。錠を外して丁寧に鎖を取り除くと、おもむろに扉を開けた。すかさず騎士が飛び込み、魔術師が壁の各所にあるくぼみに魔力を流して部屋を明るくしていった。
内部の確認が終わったのか、騎士たちが通り道に列を作る。その中央を父さまが歩き出した。
続いてオレも進もうとする。と、騎士たちが前に立ちふさがった。
「ユリウス様、ここは立ち入り禁止です。どうかお戻りください」
その声に、父さまが答えた。
「ユリウスは余がここへ連れてきた。通せ」
「は、ははっ」
戸惑って硬直した横をすり抜け、オレは奥に進む。当然、オレの護衛二人も続いている。
けれど、中の様子を見て足が止まった。
舞踏会場にできそうなほど広い部屋のあちこちに、薄く輝く魔法陣が点在している。
「父さま、ここは・・・」
「うむ、そなたの思った通り。『転移の間』だ」
各国の王家もしくは国家元首が一堂に会することがある。この大陸全土に関わる議題を話し合うことで軋轢を失くし、協調を図る意味合いが強い。そのために3年から5年に一度、議長国を持ち回りにして開催されるのだ。
当然、各国の主要な人間が移動することになるのだが・・・そうなったとき、どれほどの人力と経費と時間と手間がかかるか、分かるかな?
前世でも何たらサミットとか、首脳国会議とかで要人が動くと、そこにかかる手間と経費が半端ない。
事前の打ち合わせから始まって移動ルートのすり合わせ、宿泊所の手配、警備の人員配置から一般への情報拡散・注意喚起と、そりゃもう多岐にわたる。
おまけにテロリストの警戒や防疫関係の確認、宗教上のトラブルを起こさないための習慣確認・・・担当者が何人いても過労死しそうなくらい問題てんこ盛りだ。それをこの世界でやれ、なんて無茶な話だろ?
それを解決するのがこれ、転移魔法陣だ。魔法がある世界ならではのモノではあるけれど、これなら要人だけが動くことも可能だ。更に何回かに分ければ、必要な人員すべてをあっという間に動かせる。問題点は注ぐ魔力がかなり必要になる、くらいかな。
そんな転移魔法陣が集められているここ、『転移の間』。王と王が認めた王族のみに伝えられると言われる、ある意味伝説の場所。オレ、こんなトップシークレット知っちゃっても良かったの!?
読んでいただき、感謝です^^




