第45話 トラ転王子、あの日の真実を知る(1)
「陛下、ユリウス様がおいでになりました」
「うむ、通せ」
「はっ。・・・ユリウス様、許可がありました。お入りください」
「ああ。ありがとう」
扉を開けてそのまま支えてくれている近衛騎士に頷き、オレは部屋に入った。
カインとミャウは扉の外で待っていてくれる。
そのまま進み、執務机の前に立つ。
「陛下、お忙しい中、面会をお許しいただき感謝いたします」
最上級の礼を取り、謝意を表す。
「うむ。堅苦しい言葉は不要だ。顔をあげよ」
「ありがとうございます」
「ここにある仕事を片付けてから聞こう。そちらで待つがいい」
「はい、お待ちしております」
そう言って一人掛けの椅子に座る。すぐに茶とクッキーが目の前に供されたのを見ると、そのように準備されていたようだ。
のどを潤し、クッキーに手を伸ばしていると、やがて机から離れた陛下がソファーに沈み込んだ。
こめかみをもんでうつむく陛下に、仕事の量が多くなっていると再認識する。
「お疲れでございますか、陛下」
紅茶を口に含んだ陛下に、タイミングを計って話しかけると、
「良い。ここではそのような物言いは十分だ。父と子の会話にしてほしい」
「承知・・・いえ、分かりました、父さま」
「それで頼む」
「はい。また何か仕事が増えたようですけど」
「ああ。魔獣の発生が徐々に増えてきておるようでな。そなたにもまた頼みたい、が」
「はい、いつでも声をかけてください・・・あ、その時は部屋の前に警護の騎士を置いてくださるとありがたいです」
「・・・この前のようなことがまた起きる、と?」
「思いたくはありませんが、大切な人達を危険にさらしたくないので」
「了解した。その時は二人、部屋の前に配置しよう」
「ありがとうございます!」
「うむ」
そのまましばらくは紅茶とクッキーを消費する時間が続いた。
やがて。
「今日は何かな、ユリウス?」
「父さまに、教えていただきたいことがあります」
「ふむ。余にわかる事なら」
「ありがとうございます・・・父さま、ラルフィ様はどうしたんですか?」
質問を口にした瞬間、父さまのカップを持つ手がわずかに震えた。変化はそれだけ。
「・・・ユリウスはラルフィと面識があったのか?」
「はい。まだ≪無能≫だった時に、ラル兄さまにかばっていただきました」
「そうだったか・・・」
「あの流行病でボクも寝込んでしまい、ラル兄さまとはお会いできませんでした。回復してから皆にいろいろ聞かされて・・・今までは信じて、いえ信じ込もうとしてたんです」
「・・・・・・」
「父さま、教えてください。ラル兄さまに何があったんですか?」
オレの問い掛けに父さまは沈黙していた。拒否とは違うけれど口に出したくない、そう、躊躇と呼べる類のものに思われた。
父さまはカップに口をつけ、ゆっくりと飲み干した。そしてオレを見る。
「・・・どうしても知りたいのか?」
「父さま?」
「泣くような事態になるかもしれんぞ。それでもか?」
「はい。・・・知らずにいるよりは、事実を知って考えます」
「そうか。そこまで決めたなら・・・」
その次の言葉を発する前に扉の外が騒がしくなり、乱暴に引きあけられた。
「へ、陛下ッ!」
「何事だ」
瞬時に王の顔となった父さまが誰何する。
近衛騎士が近づいて何事かを父さまに耳打ちした途端、父さまの顔が厳しくこわばった。
「そうか、分かった。すぐに行く。誰も近づけるな」
「はっ!」
一礼して騎士はまたあわただしく出ていった。
そのあとを追うように父さまが立ち上がり、扉へ向かう。
「父さま!」
オレの呼びかけに父さまの足が止まる。珍しいことに、オレの存在を忘れたようだ。一体何があったのだろう?
「ユリウス、その話はまた・・・いや」
一瞬言葉を止め、考え込む。そして、
「・・・余の供をせよ。先ほどの答えになるモノを見せようぞ」
「はいっ!」
それだけ言って父さまは扉の向こうに消えた。オレも急いで外に出る。
左右を見回すと、父さまは奥・・・城の地下に繋がる階段に向かっていた。オレは護衛の二人に頷くと父さまの後を追う。
城の地下に、オレの答えがあるのだろうか。
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