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第42話 トラ転王子、メランコリックになる?(4)

身分差別的な表現があります。ご注意ください。

 地面を転げまわっているミャウを放置したまま、話しを進める。


流行病(はやりやまい)の特定と治療法を探すのにかなり手間取った。『魔の森』にある特殊な薬草が効くってわかったのはいいけれど・・・」

「流石に『魔の森』では簡単に行けない、と?」

「ああ。薬草も日持ちしなくて残りがほとんどなかった、らしい」


「それでも騎士団なり魔術師なりに命令して取りに行くべきでは?」

「実際にそう動いてたはずだ。父さまなら」

「ならば尚の事、ラルフィ様のような幼い王子が踏み込む理由はないと言える」

 そう、普通ならそれでいいんだけれど・・・

「セレネ様が危なかったんだ」




 夏の暑さに加えて、急激な気温の落差。どれほど気を配ろうとも、弱い者から先にやられるのは火を見るより明らかだった。

 それと。


「正妃さまや側室様の身分、それとセレネ様の経緯が絡んで拗れたんだよ」

「拗れた、って、どういうことかにゃ?」

 ミャウが復活してきた。


「身分関係について知ってるか?」

「かんたんなものなら」

「アタシは知らにゃいにゃあ」


 ん~、じゃあ教えておくべきかな。


「まず。正妃アデリーン様は隣国ヘイワード皇国の第二皇女。第一側室ライラ様は東のトルカイス公爵の長女。第二側室シェルリィ様はホッヘンバウアー伯爵の二女。そしてオレの母さまは」

「ハヴィシャル辺境地域を統括する辺境伯様の長女さまですにゃあ」


「そう。で、第四側室ルーミィ様はレイザック子爵の三女で、正妃アデリーン様付の侍女だった」

「うえぇっ? ホントですかにゃ!?」

「アデリーン様が婚姻してからこの国に馴染むまでお仕えしてたのを気に入られて、そのまま侍女になおされたと聞いている」

「流石はカインだな。じゃ、第五側室セレネ様はどうだ?」

「その方だけ情報が隠されていた」


 だよな~。あれは隠すよ、どう考えても。


「セレネ様は父さまの乳母の孫で乳兄弟なんだ。年齢は13~4違ったんじゃないかな」

「乳兄弟に手を出したんかにゃ、陛下は!」

「なんという・・・勇者だ・・・」


 このふたり、どういう想像してるんだ、一体?


「あ~、悪いけどおかしな妄想はやめにして? オレが泣けてくるから」

 そんなことないだろ、という表情で二人がオレを窺っている。


「自分が死んだら一人になる事を心配した乳母が父さまに頼み込んだ結果、側室扱いになったんだと教えてもらった」


 母さまからこっそりとな。


「父さまも年の離れた妹のように思っていたけど、実際のところセレネ様は父さまが好きだったみたい。なんやかんやで父さまも流されたんじゃないかな」


 男ならすがってくるかわいい子を突き放したりできないよね?


「やっぱり手をだしてるにゃあ・・・」

「陛下は勇者だ。間違いない」


 こ、こいつらは~~っ。 でも、否定できん・・・(泣)


「セレネ様は元々病弱だったんだ。子供を産むのも反対されたらしい。それでも構わないと言い切って、ラル兄さまを産んだんだと」


「なるほど。そういう経緯なら、他の側室様からは良く思われませんな」

 合点がいったとばかりにカインが頷く。


「ああ。順位も一番下位で、奥宮でもない離れの屋敷なのもそれが関係してるんだ。逆に公式行事なんかは一切出席が許可されてない」

「気楽な生活だにゃ」

「まあ、そうとも言えるな」


 確かに、公的な場に出ないならマナーなんかも必要ないし、最低の礼儀さえあれば十分だ。

 それを良し、とするのなら。


「ラル兄さまは不満だったんだろうな」

 いわば日陰の身だ。存在を認められない飼い殺しの立場に納得していなかったんだろう。

 母の身体を健康にして表舞台に引っ張り出したい、そう考えていたのかもしれない。でなければ、あの年であれだけの知識を身に着けるほどの執念は生まれない。


 オレをかわいがってくれたのも、打算はあったはずだ。


 でも、たとえそうであっても、オレはラル兄さまを恨む気にはなれない。あの時、兄さまがいてくれたからこそ、オレは心を死なせることなく、今につなげられたのだから。




読んでいただき、感謝です^^

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