第41話 トラ転王子、メランコリックになる?(3)
「その方はどうされたんにゃ?」
ミャウの問いかけに現実へ引き戻される。
「・・・わからない。居なくなったんだ」
目を開けると、少し離れた場所でカインが跪いてオレを見ていた。
「公式には、『東の魔の森』へ行ったまま帰ってこなかった、と記載されていた」
「ラル兄さまの部屋に置手紙があって、『薬草を見つけに『東の魔の森』に行く』それだけ書いてあったそうだ。公式の発表はその手紙を受けて、だと思う」
「主はそのことを確認しなかったので?」
「・・・」
『魔の森』と称される場所は半端じゃない。迂闊に踏み込めば騎士団とて容赦なく潰される。
現在、『魔の森』は全部で3か所確認されている。北、北西、東だ。
まだあるのかもしれないが、探索に回すだけの余裕が騎士団にない。それほどに魔獣の発生が多くなってきている。
その中でも『東の魔の森』は他の2か所に比べると難易度が低いらしい。出てくる魔獣しかり、森の構造しかりで、慣れた者なら魔獣に出会わない経路を探すこともたやすい。それでいて薬草の効能が全体的に高いため、ちょっと攻撃魔法を使える者たちが腕試し度胸試しに入り込んだり、小遣い稼ぎに踏み込むのだという。
まぁ確かに危ないと言えばどこだって危ないのだが。
「主ならそのことが不自然だと気付くはず。何故に今まで放置されておられた?」
「・・・当時のオレが不甲斐なかった、その一言に尽きるな」
後で思い返してもそう思うのだから。
けれど。
「カイン、その言い方は間違ってるにゃ」
思いがけない反撃があった。
「何を根拠に言う?」
「その時の坊ちゃんがどういう状況だったか不明にゃ。別のトラブルもあったんじゃにゃいかにゃ?」
時折ミャウは鋭い意見を口にする。今回もオレの黙っていた部分を的確に突いてきた。
「我が主?」
こいつが問いかけてくる時の眼力、おっかないくらい迫力があるんだよな。
ため息ひとつこぼす。これは言わないと収まらんな。
「オレが動けなかった。流行病にかかってたんだ」
「オレが3歳の時って、1年通して天候がおかしかっただろ? 春から夏に変わるときもぐずぐずと雨が続いて、夏になったら今度は異常に暑くなった。普段なら適度に降る雨が無くて、雲がかからないから空気がカラカラになってひどい乾燥状態になった」
「ああ。そ~言えば2年前の夏はひどかったにゃ」
「さすがの鬼教官も訓練を2週間休みにしていたな」
「あん時の日照りでアタシの隣村、人数が半分に減ったにゃ」
「はんぶんっ!?」
それは災害じゃないのかっ!?
ビックリしてミャウを見ると、あっけらかんとした顔で、
「隣村の水源にしていた池が干上がっちゃって、そのタイミングで火事が起きたんにゃ。仕方にゃいから家を放置してあちこちの村に避難したにゃ。池の水が回復してから戻る予定が、避難した先が良いってそこに居ついた結果、戻ったのが半分にゃ」
「な、何だ、そうだったのか・・・」
「・・・・・・」
悲劇だと思ったらコメディだった。どうするよ、この空気。
カインもフォローできずに目が泳いでる。
無理やりにでも戻すか。
「ん、でだ。そのあと、気温が急激に下がって雨が続いた。天候の急変で体調を崩すものが多くなり・・・結果、流行病が出た」
ここでは2~3年の周期で病気がはやるからな。
魔法があるってのに治せないって、なぁ。
「あの病は王国に広がり、どこの治療院も手が回っていない状態だったな」
「そうだにゃ。でも獣人には影響が小さかったからそれほど心配しにゃかったけど、坊ちゃんがかかってたんだにゃ」
「夏の暑さで弱ってた子供が最初にやられたんだ」
王宮でもみんなバタバタ倒れてたっけ。
「あの、治癒魔法が得意だ~っ、って胸張ってたお家はどうにゃんにゃ?」
「ホッヘンバウアー、第二側室のところも同じだって聞いたぞ。単なる治癒魔法は病気に効かないからな」
「駄目だったんにゃ。アハハハハッ、使えにゃい魔法使いにゃ~!」
ミャウ、そんなに笑うなよ。あの時にこらえた分まで笑ってる気がするが?
読んでいただき、ありがとうございます^^
どうしてもシリアスになり切れない・・・




