第40話 トラ転王子、メランコリックになる?(2)
昨日はトラブルで投稿ができませんでした。
伏してお詫びいたしますm(_ _)m
その日以来、ラル兄さまと庭の片隅で待ち合わせて遊ぶようになった。
つまはじきにされて仲間には入れてもらえず侍女としか話せなかったのが、ふたつ上とはいっても同性の友達ができて、オレは本当にうれしかった。
言葉にしても動作にしても、同性の友人がいるといないでは発達度合いが違う。片言ではあったが話す言葉が増え、転ぶ回数も減ってきた。
「ラルにーたま」
「なんだいユリウス」
オレの呼びかけに、いつも笑顔で答えてくれるラル兄さまが大好きだった。
「それは坊ちゃんがいくつの時かにゃ?」
「2歳から3歳、だな。ラル兄さまはふたつ上だから4歳から5歳・・・ちょうど今のオレくらいだったわけだ」
「王子や王女様方の中では一番下に当たられたんですな」
「そういうことになるね」
「ラルフィ様は、その、能力の発現、は?」
「一緒だった時には特に。でも。あと、そうだな。半年もあれば確実に発現していたと思うよ。あの人、魔力を感知する力があったから」
「魔力の感知、ですかにゃ?」
「ああ。だから兄さまがいた時、オレはあいつらから逃げることができたんだ」
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「ユリウス、そっちいったらいけないよ。なんかおかしな魔法が仕掛けられてる」
「まほう? にーたま、どういうのなの?」
「うん、なんかね、ある場所に行くと水が降ってくるような、そんな感じかな。上にね、水の魔力がたまってるんだよ」
「うわぁ、びしょぬれになっちゃうね」
「そうだなぁ、だから今日はこっちに行こうね」
「うん、ラルにーたまといっしょ!」
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「うちの部隊にも確か似たようなのが一人いたな。盗賊団の隠れ家を急襲するときに、トラップを前もって潰すのがそいつの役目だった」
「獣人には結構いたにゃ、そういうの。人間で使えたとは驚きにゃ」
「ラル兄さまは頭も良くて、オレにいろいろ教えてくれた。文字の書き方や読み方、簡単な計算なんかもできたな」
「4歳でそれならすごいにゃ。アタシたちは自分の名前が書けただけで自慢できるんにゃよ」
「人間の中でもそこまでできるのはそういない、な」
「確かにね。それには訳があったんだ」
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「にーたま、いろんなことしっててすごい! どうちてしってるの?」
「それはね、いろいろ本を読んだり人に聞いたりして考えたからだよ。今から覚えておけばどんどん別のことができるようになるからね。僕は早く大きくならないといけないんだ」
「? たくさんおぼえるとはやくおおきくなるの?」
「あはは、そうじゃないよ。言い方がおかしかったね。ごめんよ」
「?」
「僕の母さま、知ってるよね。母さまは身体が弱くてすぐに熱を出してしまうんだ。だからいっぱい勉強して、母さまの身体を丈夫にする薬を作りたい、そしていつ熱を出しても僕が手当てできるようになりたいんだよ」
「ラルにーたまはおいしゃさまになりたいの?」
「そうだね。お医者様、っていうか、病気の診断ができて薬も作れて、でもって健康になる方法も知っている、そんな人になりたいな。ははっ、欲張りすぎかもしれないけど」
「ラルにーたま、しゅごい! だからいっぱいしってるんだね!」
「ありがとう。照れくさいけどうれしいな」
「ううん! にーたまはしゅごいよ! かっこいい!」
「それは誉めすぎ! 恥ずかしいよ、ユリウス」
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「大きな目標を持っていて、努力していた人だった。オレが≪無能≫だからって蔑むこともなく、自分の勉強時間を削ってもオレの相手をしてくれて、嫌な顔をしなかった。あの時は本当に楽しかったな・・・」
木にもたれかかりながら上を見る。葉を通した木漏れ日がちらちらと目に映り、あの頃へと想いをはせる。
「この木の痕は、ラル兄さまとここへ来たときにつけたんだ。『いつか大きくなったらまたここへ来よう。どこにあるか探すのが楽しみだね』そう言って、二人のイニシャルを彫って」
それ以上続けられず、オレは目をつむった。光が目に沁みた。
前世の記憶を取り戻す前のほんの一刻、優しい色に染まった時間だった。
読んでいただき、ありがとうございます!
幼児言葉のユリウスも可愛いです^^




