第4話 トラ転王子、観戦する(1)
出会ったときの事を思いながら二人の方へ移動する。
すぐにミャウがタオルとコップを持って傍へ来た。
「はい坊ちゃん。汗でも拭くにゃ」
「ああ、ありがとう」
特に体を動かした覚えはないが、集中していたようで軽く汗ばんでいる。
タオルで汗を拭きとり、コップを傾ける。冷たい水が美味い!
ほっと息をつき、腰を下ろすと、その横にミャウがしゃがむ。
「それにしても、王都の騎士様たちはきれいな剣筋ですにゃ。やっぱお家流ですかにゃ?」
「そう、なんだと思うよ。まだ習っていないからよく知らないけどね」
「ふみゅふみゅ。坊ちゃんもいずれは先生が付くんでしゅか?」
「どうだろうな。身体がしっかりしないうちは無理だろうね。それより」
オレはミャウを横目で見ながら何気なく切り出す。
「二人とも、鍛錬してきたらどう? こっちは少し休憩しているから」
実はさっきからミャウのしっぽと耳がせわしなく動いているのだ。身体を動かしたくてうずうずしているのが良く判る。
ミャウの瞳が輝き、しっぽが激しく揺れる。
「い、良いかにゃ坊ちゃん?」
「ああ、いいとも。またカインとの対戦を見せてくれたらうれしいな」
「ぼ、坊ちゃんがそう言うならやりますぅ! カイン、今日こそ勝ってみせるにゃ!」
勢いよく立ち上がってウォーミングアップを始めるミャウと、それを無表情で眺めるカイン。
今日で何戦目だっけか?
「さあやるにゃ! 決着つけちゃる~!」
ミャウ、それはフラグだよ。
それにしても、母さまの実家はすごいと思う。
ノードス家は南の辺境地域を抑える要であり、そのための傭兵部隊を抱えている。
部隊は青・黄・赤・黒の4つ。新規参入者はすべて青に組み入れられ、厳しい選定と訓練が連日繰り返される。その中で見込みありとされたものが次の黄部隊、そして赤部隊へと移り、更なる高みを目指して訓練を重ねていく。黒は頂点であり、ひとりでも青の部隊全員を相手取って乱取り稽古を行うことができると聞いた。そこの、しかも切り込み副隊長と殲滅担当がオレの護衛に付くなんて。
あの日からどうにも信じ切れていないのだが、現実はココだ。
自らの大剣を抱えて挑発するミャウを見やり、ため息をひとつ落としたカインが壁から身を起こして歩き出す。ミャウの正面に立つと腰の刀を捧げ、一礼。同じようにミャウも一礼した。
「行くにゃ!」
身の丈を超える大剣を両手で構え、ミャウが吼えて一閃する。その剣先から迸る焔が形を変え、牙をむき出した蛇となってカインに襲い掛かる。
迎え撃つカインは低く腰を落とし、飛び掛かってくる焔の蛇を見据える。あと少し、あともう半秒で届くかと思った瞬間、銀色の光が奔り・・・チン、という音とともに、蛇は寸断されて消滅した。
「もうひとつっ!」
再度大剣が空気を裂き、今度は複数の焔の蛇が生まれた。しかも微妙に時間差をつけ、角度を変えて殺到する。蛇の包囲網、そんな感じでカインを押し包む!が。
シャイイイィィ・・・ンン
金属的で、どこか涼やかな音が響いた後、カインの姿は上空にあった。蛇の包囲網はズタズタにちぎれ、消えかかるところ・・・
「もらったぁっ!」
声を残してミャウもまた上空に居た。カインより更に上を取り、思い切り大剣を振り下ろす!
その先にはカインの姿が・・・一瞬ぶれたかと思うと、離れた位置に移動したカインから、今度は銀閃がまっすぐにミャウ目掛けて突き入れられる。
「!っその、手は!知ってるにゃ!」
両手持ちの大剣を片手で振り回し、銀の光芒をはじき返す。そのままカインとの距離を詰めて打ち合いとなった。
本来の大剣なら接近戦は不利になる。が、ミャウはそれこそを得意としていた。自身を覆いつくすほどの剣を、ある時は攻撃にまたある時は盾にしつつ、周囲の敵すべてを屠っていく。殲滅担当の面目躍如だ。
おまけに無詠唱で焔を操る。初めて見た時はビックリして、思わず聞いたんだ。
『無詠唱って、どうして?』
そん時のミャウの返答が笑えた。
『戦闘中にちんたら詠唱してたら負けるにゃ!』
お説ごもっとも、だよ。
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