第36話 トラ転王子、画策する(9)
5歳児に詰め寄る女の子・・・う~ん。
書いている間、悩みました。誰得?
そうやって引っ張り続けること約5分。二人とも顔を真っ赤にして息切れしてきたようだ。頃合いを見てオレは『無効ネット』を『反転ネット』に切り替えてやった。
その結果。
「「きゃあぁっ・・・ぐえっ!」」
二人そろって通路にぺったり伸びた。
「お、お嬢様!」「大丈夫ですかっ!?」「お怪我は、お怪我はございませんかっ」
途端に周囲は阿鼻叫喚の騒ぎとなった。
侍女たちの手で助け起こされた二人だが、倒れた時に打った腰とかわき腹が痛むのか、頻りに撫でながら般若の顔で睨んできたよ。おおこわ。
「あんたっ、私たちにいい度胸じゃないの! スルト、ミズラン、バラス! こいつに思い知らせてやりなさい!」
「ハティスもゾグドもウェルチも! 全員でかかるのよっ!」
名指しされたのは・・・こいつらの護衛騎士だね。でも、それはどうかな。
「え・・・お嬢様、ユリウス、様に何をしろ、と?」
「何をぐずぐずしてるのよ! こいつを痛めつけなさいって言ってるの!」
「自分の身の程をわからせないとこの馬鹿、動かないんだから!」
「で、ですが、この方も、王族、ですよ?」
「何言ってるの! 第一側室の第1王女サンドラが命じてるんだから大丈夫よ!」
「ええええ、お姉さまの言う通りだわ! 第二側室第3王女キャリンも命じる! あの者を排除しなさい!」
「は、はいっ、直ちに!」
そう言うと、オレの方に身体を向ける騎士6人。今度は大の大人だ。どうやって退けようか。勝算はあるけど、ここをあんまり荒らしたくないしな。そう考えながら見ていたら。
「あなたがた、なにをやっているんですのっ!! 『極寒の平原』!」
言葉と同時に冷気が奔り、オレに向かってきていた騎士たちの足元が凍り付いた。
声の方を向くと・・・アルティシアが立っている。
駆ける一歩手前の足運びでオレの傍までやってくると。
「さっきからみっともなく騒いでいたのはなんですか、サンドラ、キャリン。おまけに小さな子を相手に腕ずくとは、普段からどんな躾を受けているんですの!?」
あらら、アルテ姉さまからも教育に疑問を持たれてるよ。これは致命的だよな。
対する二人は。
「あ、あら、アルティシア様。御機嫌よう。私たち、ミケイラ様に挨拶に来ただけですの」
「そ、そうですわ。新しく兄妹ができたと聞いて、お祝いしてあげようと思ってたんですの。そうしたら、こい・・・ユリウスが意地悪してきて」
「そうですわ、お姉さまも一緒に行きません事? 可愛い兄妹でしょうね、ぜひ拝見したいわ!」
「ええ、そうしましょう、アルティシア様もまだでしょう? 行きましょうよ!」
何を勘違いしたかきゃいきゃい騒ぎだした。そんな二人に眉をしかめ、
「あなたたち、気は確かなの? 今はまだ親族以外に会うことができない時期ですのよ。2カ月後にある命名式でお披露目されてから、と習わなかったのかしら?」
どうやら両側室には再教育を申し入れる必要があるようね、とのつぶやきに、真っ青になる少女二人。
「あ、いえ、そ、そうでした、わね。私ったらうっかりして。キャリン、教えてくれなきゃ困るじゃない」
「ええ!お、お姉さまこそ、乗り気だったじゃないの! 私は止めたのに」
「何言ってるのよ! 顔を見て笑いものに・・・あ、あら、ごめんあそばせ」
「わ、私だって・・・大体誘ったのは、ユ、ユリウス、でしょっ!」
「そ、そうよ、アルティシア様、ユリウスから誘われたんですの! だのに、こうして来たら入れてもらえなくて! ユリウスが悪いんですのっ!」
アルテ姉さまに正論を突きつけられ、苦し紛れに矛先をオレに向けてきた。こいつらアホか? アホなんだな?
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