第34話 トラ転王子、画策する(7)
「坊ちゃん・・・暇だにゃあぁぁ~~・・・」
「・・・・・・」
「暇で暇で・・・はわわあぁ~~・・・体が鈍るにゃ~~」
「・・・・・・・・・」
「その蔵書、そんにゃに面白いかにゃ? 訓練場へも行かなくて退屈じゃにゃいかにゃ?」
「・・・・・・・・・」
「はぁぁ~~~。聞いてにゃいにゃ・・・」
「諦めろミャウ。こうなったら終わるまで何も聞こえんぞ、我が主は」
「そうだったにゃぁ・・・」
横で何か騒いでいるが、オレは目の前の文字から目が離せない。
蔵書室から借りてきた書物の中に変わった研究誌があったのだ。
『世界文明の興亡と魔力推移の考察』。何ともはやあいまいな題名だが、中身は今までにあった文明の興亡史を魔力の多寡や推移の方面から見直している、なかなか画期的な資料なのだ。
この世界でも過去いくつもの文明が興り、そして衰退しているが、その時の魔力総量がシンクロしていると、この筆者は主張している。
『文献が辿れる最古の文明はイシュドラン帝国の地下深くにある、イシュー文明であろう。
ここは今から3200年ほど前に栄えた文明だが、ある日急に滅びたと各地の文献に記されている。その滅びは手の打ちようがない速さで進み、人も獣も砂の人形のように崩れた、とある。
実際の進行度合いは今の時代において計るすべを持たないが、その兆候は数年前からあったらしい。
あるところでは魔物の氾濫、他では農地の砂漠化、また別の地域では火山噴火の頻発等が起きていた。どれをとっても個別の案件ではあるが、ただ、魔力の総量が異常を示していたという事実のみ共通している。
これは何を意味するか? 私はその真なる理由を明らかにするためにこの身を賭して研究する。』
この世界の成り立ちやら文明史やらを神話以外の接点から解析しようと四苦八苦している筆者の努力が何とも面白く、下手な冒険小説よりも興奮して読みふけっていた。
ではあるけれど。
どうやら中断することになりそうだ。
オレの張った索敵網に引っ掛かった。
どれもが敵意で真っ赤っか。
この王宮であんなにも燃えてる(笑)奴らは初めてだ。宮廷魔術師たちに咎められても仕方ないな。自己責任としてもらおう。
当然、カインとミャウも気づいてる。
「カイン、どこも先触れは無いよな?」
「ないですな」
「ミャウ?」
「知らにゃいにゃ~」
「奥のフラウたちに聞いてみてくれ。念のために」
「了解にゃ」
「そのあとは打ち合わせの通りに頼む」
「あいにゃ」
「承知」
こういう事態になることは予想済みだった。
カインたちにも相談し、いくつかのパターンを編み出している。今回は白兵戦になるのかな。
以前のオレだったらどうしようもなくて縮こまっていたけれど・・・今は戦う方法を手に入れている。腕力でも、そのほかの方法でも。簡単に泣き寝入りなんてするもんか。
まったく、次から次へと押し掛けて。
以前は鼻もひっかけなかったくせに、今になって何しに来るやら。
何にしても、母さまたちを今度はオレが守らないとな。
お兄ちゃんは頑張るぞっ!
読んでいただき、感謝です!




