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第33話 トラ転王子、画策する(6)

「なんだよ、今の、一体何だってんだよっ! みんなで俺を笑いものにしようってか!」

「ダリッド様、落ち着かれませ!」

「煩い煩いうるさいいぃぃ~! 俺を馬鹿にした奴らみんな死刑にしてやる!」


「煩いのはキミだよ、第4王子ダリッド」


 無機質な声が響く。ああ、とうとう堪忍袋が切れちゃったか。

 ギル兄さまの顔から感情が抜け落ちていた。


「キミに死刑判決を下す裁量権は与えられていない。何より、今の映像とキミ達の言い分は食い違いが甚だしい。理不尽なケンカを売ったのはユリウスじゃなくキミ、陛下が認めた『試練』の印を偽物と決めつけ、現実を受け入れずに殴りかかったのもキミ、挙句に自分で転んですりむいた怪我をユリウスがつけた、と責めたのもキミだった。一から十までキミの言い分は嘘と欺瞞に染められている」


 透き通った琥珀の瞳に怒りの焔を宿したギル兄さま。その瞳で射抜かれたダリッドは歯の根が合わないくらいに震えていた。


「査定を言いなおそう。第4王子ダリッド、有責10とする。第8王子ユリウスは無罪。この判定は公文書として清書し、陛下の裁定を仰ぐ。沙汰が下るまでダリッドは自室にて謹慎するように」


「あ、ああ、あああ・・・」

 もはや何も言えなくなって座り込んだダリッドに代わり、さっきの侍従が礼をする。

「お言葉確かに承りました。失礼いたします」

 そしてもう一人に指示し、腰が抜けたダリッドを支えながら消えていった。


 野次馬兼傍聴人もどきは三々五々移動を開始している。それぞれに今の簡易裁判劇を口にしているから、噂が広まるのも時間の問題だ。


 オレたちは兄さまに促されて部屋のひとつに移動する。多分ここ、兄さまが最初に出てきたところだ。

 席に座るとティーセットが出てくる。

「お疲れ様ユリウス。いやあ、あそこまでうまくいくとは思わなかったなぁ」


「兄さま。図ってましたね?」

「ん? 何の事かな?」

 このクッキー美味しいんだよ。そう言ってにこにこ笑うギルバードの顔には、さっき見せた怒りの欠片すら残っていない。


「おかしいと思ったんですよ、兄さまが蔵書室に通う時間を聞いてきた時点で」

「そうかい? あれほど熱心に蔵書室や訓練場に通っていたキミがピタッと部屋から出なくなったことが不思議だっただけだよ? でもまぁ、ああいう人種が湧いてくるとはね」

 ここもいろんなのがいるからねぇ、て。その一言でまとめてしまうあなたが一番すごいと思ってしまうのですが。


「新しい機構の実験台になるかなと、軽い気持ちで組んだんだけど。予想以上の成果だったね」

「さっきの映像ですね。では完成したんですか、あれ?」

「ああ、まだ完全とはいかないけれど、運用は出来そうだ」


 先ほどの映像、あれはいわゆる監視カメラだ。記憶媒体として魔石を内蔵させ、必要なときに魔力を通して映像を再生させる。今のような『言った、言わない』の論争に決着をつけ、誰が見ても納得できる判断に持っていける、最強の切り札となるんだ。

 欠点はやりすぎになる事かな。転生前のあの環境は好きじゃなかったから。


「しかしまあ、キミは面白い発想をするんだね。あんな映像を見せられたら反論する気にもならないだろうし、何より確認できるのがいい。宮廷魔術師たちが狂喜して開発してたよ」

「なんか大ごとになっちゃいましたが、形になってよかったです」


 この構想を話したら、ファルダニモ宮廷魔術師長がとんでもない勢いで食いついてきたんだ。それこそ、猫がネズミにとびかかるような感じで。

 いい年こいたオヤジがドングリ目をかっぴらいて鼻息荒く迫ってくるんだぜ? 恐怖、の一言に尽きるよ。


「まだ個別にしか起動できてないけれど、将来的にはひとつのつながりを持たせて一括管理するんだっけ?」

「ええ、その考えも話してあります」


 要するに指令室みたいな感じで出来ると良いな、と思って。

 これはオレがもらったあの黄金色の魔石があるから出来るんだと言われた。あの魔石の出力は今後数十年稼働してもおつりがくるくらいあるらしい。今も魔術師長が徹夜して研究してるんだとか。


 あの人、ホントに好きそうだからな。






読んでいただき、感謝です^^

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