第32話 トラ転王子、画策する(5)
「怪我をしたそうだけど、もう治ってるよね」
ギル兄さまが尋ねる。
その顔、分かってて聞いてるよな。すっごく悪い顔だよ?
「当然です! 我がホッヘンバウアー領の治癒魔法は最高ですから!」
フンス! といった感じに胸を張った側近君。
そこはあんたが威張るところじゃないと思うけど。
「治ったならそれでいいじゃないか。それくらいの事なんだしねぇ」
にこやかに言うギル兄さま。でもオレには聞こえる。
・・・いい加減にやめないと無事に帰れないよ?・・・
兄さまの真っ黒けな心の声。今も冷気が漏れてるってのに、気が付かないでやんの、こいつ。
「いいえ! 第4王子に手を挙げた、その事実は譲れません!」
そこまで大上段に言わなくてもさぁ・・・引っ込みつかなくなるよ。
「事実、ねぇ。では、それが間違っていたとしたらどうなんだい?」
「それはありません! 第一、誰がそのことを証言するのでありますか!? その瞬間は我々とそい・・・ユリウス、様と護衛しかいなかったんですから!」
第二側室のところじゃ、オレはこいつ、そいつ呼ばわりされてるんだろうな、日常的に。
こういう時、普段の生活が分かっちゃうんだ。気を付けようっと。
「そう。じゃ、第三者の証言があればいいんだね?」
「は?」
「なら、話が早い。キミ、あれを」
「はっ、ただいますぐに」
護衛が頷き、部屋から脚立を出してきた。え、脚立?
それを広げて通路の天井にある、ライトを仕込んだ飾りに手を伸ばす。数秒、何やらいじってから降りて来て、兄さまの手に何かを渡した。
「ご苦労様。さて、第三者の証言を見てみようか」
「「「「「?????」」」」」
「ここだとその壁がちょうどいいかな。そこのコックと侍女のお二人、場所を移動してもらえるかな」
「あ、は、はい」
「これで、よろしいでしょうか」
「うん、十分だよ。じゃ、始めよう」
そう言うと、兄さまは手に持ったそれに魔力を通し始めた。
すぐにそこから壁に光が走り・・・映像が映った。
「っ!! こ、これは!?」
「そう。数分前のこの場所の映像だよ。よく見ることだね」
確かに、オレとダリッドが出会い、交わした内容が流れていく。
『おい、≪無能≫! そこをどけ!』
『横を通っていけば?』
『お前が退けばいいんだよ、≪無能≫のくせに邪魔するな!』
『ここはそれなりに広いから通れるだろ。そんな大人数で動かなけりゃいいのに』
「あれなら問題なく通れるよな」
「第一、退かす意味ないじゃんか」
見物人がひそひそとささやき交わす。
『おい、それは『試練』の証じゃないのかっ?』
『ああ、そうだよ。もう終わったから』
『ど、どうして≪無能≫のお前にそんなものあるんだっ!』
『そりゃ、≪無能≫じゃないから』
『嘘だああっっ~~!』
「ユリウス様が能力発現したの王宮に居たらみんな知ってるぞ?」
「ああ。それに魔獣討伐にだって行ってるからな」
「ダリッド様はまだ行ってないよね? 聞いたこと無いもの」
「そうだな」
『王族は『三の試練』まであるんだぞ! お前、行ってないんだろ!』
『いいや、ちゃんと済ませたよ。でなきゃこれもらえないさ』
『そんなの偽物だっ! お前がいけるはずないっ!』
『じゃ、陛下に聞いてみたら? 教えてくれるからさ』
「うん、ちゃんと陛下に確認するよう言ってるね。間違いない」
「はい、確認した旨、記載しました」
『俺より上なんて認めてたまるかぁっ!』
「あ、転んだ」
「あれで怪我させてるってよく言うよ」
『大丈夫ですかダリッド様!』
『あ、膝をすりむいておられる! 早く治癒を!』
『この≪無能≫殿がダリッド様に怪我をさせたぞ! すぐに連絡を!』
「え、あれくらいで治癒魔法使ってるの? うっそ~」
「あんなの、あたしたち仕事してたらしょっちゅうよね」
「厨房でもよくケガするけど、唾つけときゃ治るぞ」
「う、う、うるさい煩い煩い~~っ!!」
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