第29話 トラ転王子、画策する(2)
「一体何をしているのかな、キミたちは」
唐突に後ろから声がかかった。
「こんな通路の真ん中で転ぶとはどういう運動神経なのかな、うん?」
「ギル兄さま」
側近や文官を引き連れたギルバードがそこに居た。
って・・・どっから現れたんだ? 今まで気配もなかった気がするけど。
ほら見ろ、ミャウを。後ろを取られて臨戦態勢になってるじゃないか。
あ、でもカインは平常だな。気が付いてた?
「王太子殿下は右手横の扉から出てこられた」
あ、なるほど。という事は狙ってた、かな?
「で、殿下っ!」
おお、復活したなこいつ。
「こ、こいつが『試練』を終了したという大噓をついてるんです! そ、それを咎めたらせせら笑って・・・っ!!」
おいおい、今のやり取りを明後日の方向に歪めてるぞ。
笑うどころか呆れかえってるだけだってのに。
お前らの耳、すンごい変換機能(笑)が付いてるんだな。
黙って見ていたら、後ろの連中まで一緒になって騒ぎだした。
曰く、オレが睨んだ。ケンカを売ってきた。挙句にイカサマの印を見せびらかして煽ってきた。
・・・オレ、どんだけクズなんだよ。893じゃないか、それは。
これだけの人数がしゃべるともはや騒音だね。
パン、とギルバードが手を打った。
それだけで騒音がなくなるのはすごい。さすがギル兄さまだ。
「なるほど。それだけ聞くとユリウスが悪いことになるね」
「そ、そうです、殿下っ!こいつは性悪で、クズで、≪無能≫なんです!」
「じゃ、僕が判断を下してもいいね?」
「ええ、ええ、もちろんです! お願いしますっ!」
ギル兄さまがオレとダリッドの集団を等分に見る位置へ移動する。
ダリッド。
お前、本当にわかってんのか。
得意気に鼻を鳴らしてるけど、それでいいのか?
兄さまの立ち位置よく見ろよ。あれ、簡易な法廷の形式踏まえてるよ。
後ろの文官は速記の準備万端だし、その横の護衛はいつでも飛び出せるように重心ずらしてる。
ここで話したことは公文書扱いにするつもりなんだ。
あ~あ。こっから先、どうなっても知らね~ぞ?
「さて。ダリッド君の言い分は十分聞かせてもらった。今度はユリウス君の言い分を聞きたい」
「はい」
ギル兄さま・・・裁判官になり切ってる。オレの事、『ユリウス君』なんて呼んだことなかったってのに。
ギル兄さまがそう来るんなら合わせないとな。
「ここを歩いているときにそちらの人たちに会い、『退け』と言われました」
「ふむ。『退け』とは、ここを封鎖していたのか?」
「いいえ。このように左の端を進んでいました」
「ではこの右側は?」
「開いていました。だからそちらへ寄っていくように伝えたんですが『お前が退け』の繰り返しで、それ以上はなにも」
「なるほど。ほかに・・・」
「殿下っ! そんな奴の言い分なんか聞いてどうするんですか! そいつのいう事なんて嘘ばっかりですよ!」
「・・・・・・」
「早くそいつを懲らしめてやって・・・ひぅっ!」
「ダリッド君」
やっちまったね、ダリッド。ギル兄さまから冷気が漏れてるよ。
「発言するな、とは言わないけどね。この場を仕切ってるのは私だよ。その私の言葉を遮るのは侮辱ととらえてもいいんだけれど?」
「い、い、いいえ、し、失礼、いた、いたし、ま、した」
「発言したいのならその旨を申告してから。良いね?」
「はははははいぃぃっ~~」
あららら、一気に向こうの敵意が沈下したぞ。
「ではユリウス君。続けて聞こう。他に何か言われた、もしくはやられたことは?」
「≪無能≫は退け、『試練』をズルした、行けるわけがない、と言われ、殴りかかられました。それをよけたらひっくり返り、すりむいた怪我をボクがやった、と騒がれました」
「ほう。自分で転んでおいて、だね?」
「はい」
「なかなか斬新な言い方をするね、ダリッド君は」
ギル兄さま。ダリッドの心、ボキボキに折ってますよ、その発言!
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