第28話 トラ転王子、画策する(1)
大事な人達のために腹黒兄ちゃん頑張ります(笑)
父さまが帰った後、オレは蔵書室へ向かっていた。ここ暫くで読了した書物を返し、新しい分を借りに行くためだ。
いつもなら午前中は蔵書室にこもっているんだけど、ここ暫くは通うしかない。
何故かって言うと、馬鹿がいるから。
オレを目の敵にして、更に対象を広げかねない奴らが居る。
「主。前方から」
「ああ、そうだな」
カインに言われるまでもなく、気づいていた。
敵意を持った人物がこちら目掛けて動いてきている。
まあ、誰かは想像がついてるけどね。
角を回ってその敵意が姿を現す。総勢8人。
先頭に立ってこちらを睨んでいるのは、ダリット・シャスラン。第二側室シェルリィ様の第二子、第4王子だ。
オレを散々どついた相手でもある。
通路いっぱいに広がって何やってんだこいつ。
オレは足を止める。向こうも止まった。
素直に行かせて・・・くれないだろうな、これは。
オレが無言で見ていたら、
「おい、≪無能≫! そこをどけ!」
そう、怒鳴ってきた。
こいつの中ではまだ≪無能≫のまま、か。
「横を通っていけば?」
「お前が退けばいいんだよ、≪無能≫のくせに邪魔するな!」
「ここはそれなりに広いから通れるだろ。そんな大人数で動かなけりゃいいのに」
「なんだとぉ!」
めんどくさいなぁ、こいつ。どうしようか。
頭をかいていたら、急にダリッドが血相を変えた。
「おい、それは『試練』の証じゃないのかっ?」
え? あ、そう言えばそんなのもあったっけ。
今までは手袋してたり長袖に紛れたりしてたから、こいつ気付かなかったんだ。
「ああ、そうだよ。もう終わったから」
ほらほら、と見せつけてやる。
「ど、どうして≪無能≫のお前にそんなものあるんだっ!」
「そりゃ、≪無能≫じゃないから」
「嘘だああっっ~~!」
こいつ、オレより5つは上のはずだ、それで地団太ふむ?
なんつーみっともない。ただのわがまま坊ちゃんだな。
その癖、オレを見下して何かと因縁つけてくるんだ。
ホント、成長しない奴。
「どんなズルしたんだっ!お、俺だってまだ許可されてないのに!!」
「そうか? それはそれは」
「王族は『三の試練』まであるんだぞ! お前、行ってないんだろ!」
「いいや、ちゃんと済ませたよ。でなきゃこれもらえないさ」
「そんなの偽物だっ! お前がいけるはずないっ!」
「じゃ、陛下に聞いてみたら? 教えてくれるからさ」
そう言ったらぐっと詰まった。こいつ、父さまの前に出ると話せなくなるらしい。あの圧力に耐えられないんだろうな。
「どうして、お前みたいなのが行けるんだ・・・」
今度は恨み節か。
「俺は第二側室の息子で、発現も早かったのに・・・なんでお前が俺より先に『試練』を済ませてるんだっ!」
そんなの知るかよ。≪魔力喰らい≫なんて能力、どうして発現したんだかオレの方が聞きたいね。
おまけにユグじいなんて訳の分からん管理者からも化け物扱いされてるんだから。
どうでもよくなって聞き流していたら、
「俺より上なんて認めてたまるかぁっ!」
いきなり殴りかかってきた。
けど、そいつはなってないぜ。踏み込みが足りないし、腰が定まっていない。
何より、そんな大振りで腕を振って・・・避けろって言わんばかりじゃないか。
わずかに後ろに下がれば当たりもしない。
逆に相手は態勢が崩れて転んでる。あ、後ろでミャウが吹いた。
「大丈夫ですかダリッド様!」
「あ、膝をすりむいておられる! 早く治癒を!」
「この≪無能≫殿がダリッド様に怪我をさせたぞ! すぐに連絡を!」
何なんだ、この騒ぎは。自分で転んでおいて怪我させたもないだろうに。
読んでくださり、感謝です!




