第26話 トラ転王子、狂喜する(2)
そうは思うけど、オレが会いたいのはそうじゃない。
「どうしてそう焦ってるかにゃ、坊ちゃんは?」
「焦ってる、ってなぁ・・・」
「我が主は心配しておられる」
「心配? 何をかにゃ?」
「≪魔力喰らい≫の能力を持っているかいないか・・・ですな?」
カインの指摘に体が震えた。
そう、そうなんだ。
オレの恐れていることは。
その時。
「ユリウス様、もうよろしいですよ、おいでください」
振り向くと、ドアのところでマリオン先生が手招きをしている。
オレは先生に駆け寄った。
さっきは拒否されたドアを、今度は先生が開けてくれる。
まっすぐ進むと、ベッドにかけられた白い天蓋を、侍女のミリィが持ち上げた。
「ユリウス様、どうぞ」
「ありがとう・・・母さま、具合はどう?」
白いシーツの中に母さまがいた。疲れて、でも、とても輝いた表情の。
「ユリウス。やっとあなたに弟妹を差し上げられたわ。遅くなってごめんなさいね」
「ううん、遅くないよ。二人もくれたんだ、母さまありがとう!」
「ユリウス・・・」
「もうゆっくり休んで。ボク、見ていいかな?」
「もちろんよ」
天蓋の中から出て、そばの小さなベッドに近寄る。
小さなベッドに、それぞれお包みに包まれた、ちっちゃな、ちっちゃな命。
オレの、弟妹たち。
ひとりは母さまによく似た淡いミントグリーン。
もうひとりは父さまと同じスターレッド。
オレはそっと手を伸ばし、ふたりの頭をなでる。
触れた瞬間、むずかるように顔をしかめ、そして小さくあくびする。
もごもごと口を動かし、何かを求めるしぐさ。
そのまま、また寝入って。
うん、これは。
(か、か、可愛い~~っ!!)
叫ばないように口を押えて眺め続ける。
後ろから遠慮がちに、フラウが退室を促しているが。
可愛すぎて離れられ~~ん!
「主、眺めすぎです」
「よだれが垂れそうだにゃ」
結局、護衛の二人に連れ出された。
元の部屋に戻ってお茶を一服。
はぁぁっ~~、感激だ~~・・・
「落ち着かれましたか、主」
「うん。もう、大丈夫だ」
「いかがでしたか?」
「・・・大丈夫。二人とも違ったよ」
カインの問いに自信をもって答える。水色の瞳が笑みを返してくる。
「坊ちゃんもカインも何のことを言っているんかにゃ?」
ミャウが首をひねっている。そうだな、分からないかもしれないな。
「二人とも、魔力は持ってる。でも、≪魔力喰らい≫ではないよ」
「ふぇっ? どういうことかにゃ?」
「魔力を『吸う』感覚がなかったから。だから違うよ」
さっき触れた時にわずかに魔力を発してみたが、それは普通に流れていった。
そうだな・・・ボールの表面を水が流れる感じというのが近いかな?
二人の中に、魔力が吸い込まれることがなかった。
それは、オレにとってこの上ない喜びだった。
もっとも、あの髪の色を見た時点で分かっていたけどさ!
自分の髪をつまむ。きらきらと輝くプラチナゴールド。
誰にも似ていない、オレだけの色。
今までオレは自分の髪が何色か、気にしないようにしてきた。
それは色が変化するから。
生まれた時には、この色だったそうだ。
それが成長するにつれて、変わった。
輝きがなくなって、くすんで。所謂、黄土色って奴だな。
それもオレがどつかれる原因でもあったんだが。
黄土色が悪いってわけじゃないんだ。その髪の人だっているし。
その上にオレは≪無能≫だったから。
≪魔力喰らい≫が発現してから、魔力を『吸う』ごとに髪の色が変わっていった。
今は生まれた時、いや、それよりももっと輝いている、んだそうだ。
侍女たちが教えてくれた。
控室でどんな話してるんだ、キミたちは?
この髪の色は、オレの能力に関係してるんだろう。
シリルノートに書いてあったもんな!
あ、シリルノートってのは、カインから受け取った小包の中身のことだ。
いろいろ書かれている十数冊のノート。
今、順番に読んでいるところさ。
でもさ。なんて言ってもオレの弟と妹なんだ! すっげぇ可愛いっ!
絶対、ずぇったい、守ってやるから!
読んでいただき、感謝です^^




