閑話1 ~ その頃二人は ~
本日2話目の投稿です。
『試練の洞窟』遂行報告を受けた陛下とギル兄さまの内緒話。
「父上、これで最後です」
「うむ・・・よし、漏れはないな。これ、誰ぞある」
「お呼びですか」
王の求めに応じて文官が入室してきた。
「この書類を各部署へ。すぐに処理を行うよう取り計らえ」
「・・・はっ。直ちに動きます」
この執務室に詰める文官は誰もが優秀だ。王の意向を間違いなく遂行していく。
文官が下がり、二人はやれやれと一息つく。
ギルバードがベルを鳴らして侍女を呼び、醒めた茶を入れなおしてティータイムの続きとなった。
「ふぅ。これでまたひとつ案件が片付きましたね」
「そうよのう。ユリウスが発現して以来、あちこちでぼろを出してくる。与し易しとでも思うのであろう。最も歳を考えればそれも当然ではあるが、な」
半ばあきれ顔の王。だが、実際のところ、ユリウスが動くたびに不穏分子が焙り出されてくる。王に就任以来の忙しさではあるが、着々と体制が固まってきているのも事実だった。
「当然すぎますよ。何せまだ5年しか生きていないのに・・・自分の身に置き換えてもあれだけの働きができるかどうか疑問です」
「ほう、王太子のお前がそこまで言うとはな。だが、あまりにも賢すぎるとは思わぬか」
「? 父上、どういう意味ですか?」
「言葉通りだ。あれは真実5歳の子供なのだろうか。≪魔力喰らい≫という能力と言い、身の処し方と言い、どうしても不思議に思うのだ」
父王は思う。あれは本当に余の子供なのだろうか、と。
やや遠い目をする王に、ギルバードが突っ込む。
「父上。いくら何でもお言葉がひどくありませんか」
「・・・・・・」
「ここにアルティシアが居たら、今頃父上の頭に特大のつららが何本か生えてますよ?」
「た、確かに、な」
アルティシアはユリウスが大のお気に入りだ。不当な扱いをする輩には苛烈なしっぺ返しが待っている。両手に氷の槍を出現させて迫ってくる娘を幻視した父王は慌ててかぶりを振った。
「確かにユリウスは講師も驚くほど優秀ですし、能力の使い方も見事です。ですが、それはすべて努力の結果でしかありません。人より多く本を読み、訓練場へ通って研鑽を積む姿は誰もが見ております。第一、ユリウスには二心などございません。それは父上が一番ご存じのはずです」
能力の発現があったあの日。おぼつかないやり方ではあったが、父王の前に片膝をつき、回らぬ口を懸命に制御しながら宣誓した姿は目に焼き付いている。あの場に居た者は皆、ユリウスの真摯な言葉に本気を見たのだ。
「そうであった。あまりの優秀さにふと心が迷ってしまったのだ」
「そのお気持ち、わからぬことはありません。ですが、ユリウスの想いは変わらないと思いますよ」
ギルバードもあの場に居たからわかる。言葉を飾るなにものもなく、ユリウスは真実を吐露したのだ。あの時から規格外の子だったよな、そう思う。
「実は、≪魔力喰らい≫について何かわからぬかと、ノードス家へ人をやって確認したのだ。ミケイラの高祖母が同じ能力を持っておったらしいから、それについての研究がされているかと考えてな」
「そうでしたか。で、結果は・・・?」
「うむ。領主付きの魔術師がかなり熱心に調べておったが、あまり芳しい結果が出なかったと聞く。本人の書いたもので残ったものも引き上げさせたが、何も見当たらなかった」
「何も、というのはおかしいですね。日記とかノートもなかったんですか」
「そうだ。高祖母殿は筆まめな方だったと尋ねた者は口をそろえていたが、見つからぬ。ご自分の能力についてもいろいろと考えておられた、そうだが。このことを聞いたソルビュイがひどく落胆しておった」
「ファルダニモ魔術師長ならそうでしょうね。あの方は今でもユリウスを狙っているようですよ」
ソルビュイ・ファルダニモ。アケンドラ王国の宮廷魔術師長。王族を除いた能力者の頂点にある方で、本人の能力も高いが、その情熱は大部分が研究に注がれている。
「≪魔力喰らい≫という珍しい能力に興味津々でな、研究したいと泣き付かれたが一喝しておいた。あ奴に任せるとユリウスが気の毒でな」
「賢明な判断だと思いますよ、父上」
・・・アルティシアに聞かれなくて幸いだった・・・
二人が心に呟いた言葉は見事にシンクロしていた。
読んでいただき、ありがとうございます!
章管理はしていませんが、ここでひと先ず終了。
次は王宮内部のあれこれに入ります。




