第23話 トラ転王子、過去と向き合う(3)
遅くからの訪問を謝罪して、カインは出ていった。
「はぁ~、護衛をやめる話だと思ってたんだけどな・・・予想外だ、この展開」
寝台に倒れこみながらオレはため息をついた。
何といってもオレはたったの5歳。腕利きの傭兵にとっては退屈極まりない仕事だったはずだ。それなのに『我が主』とまで言われてしまった。どこをどうしたらこうなるのか。
カインの眼に分厚いフィルターがかかっていたんじゃなかろうか。
「母さま、実家へのお願いに何と書いたんだろう・・・?」
能力が発現したと喜んで、大袈裟に自慢しまくったのかも。
それで実家が奮発してエリートを送ってきた・・・?
「うわぁっ、オレ、傭兵隊に恨まれる原因作っちまったってか? まっすぐ死亡フラグじゃん!」
どーすんだこれ。むちゃくちゃマズい状況を作ってしまった。
頭を抱えて寝台を転げまわる。挽回、できるのかなこれ・・・?
しばらくの間、唸りながら考えてみたけど・・・諦めた。
今の俺じゃどうにもできないって結論に落ち着いた。
はぁ・・・情けない。
まあ、母さまの実家だから、いきなり刃物向けられるって事にはならんだろう・・・ならないよな?・・・ならないと良いな・・・なってほしくないっ!
思考がどんどん危ない方向に走っていくのを無理やり止める。
うん、この問題は目の前に来てから考えよう。
で。次の問題。目の前の手紙と小包だけど。
もう遅いから、手紙だけ読んでしまおう。
ペーパーナイフで封を切り、中身を出す。
柔らかい上質な紙が数枚、折り畳んで入っていた。
『 顔も名前も判らない、未来のあなたへ。
初めまして、わたくしはシリル・ノードス。あなたの先祖に
当たる人間です。
この手紙を読んでいるという事は、あなたがわたくしの代わり
に世界を背負わされたのですね。
あなたを巻き込んだこと、許してください。』
・・・・・・どうしてオレ、謝られているんだろう?
『≪魔力喰らい≫・・・この能力を持つ者は長寿を約束されます。』
わぁお。オレにとっては願ってもない力だな!
『ですが、その代償として提案されたことに、わたくしは耐えられ
なかった。あまりにも悍ましい・・・痛ましい事でした。
世界が存えるための道具、そのための長寿とは・・・!』
道具、って・・・どういうことだよっ!!
『・・・このようなことをいきなり聞いても、あなたは何の事か
わからないでしょう。わたくしも最初は分からなかったのです。
今、あなたはどういう状態でしょうか。
もし『試練の洞窟』を終わって、世界樹様とお話された後なら、
忠告いたします。
世界樹様のお言葉を信用してはなりません』
信用するな、とは。またきっつい一言だな。
『いえ、これは言いすぎですね。丸ごと信用しない、そう解釈して
ほしいのです。
世界樹様は世界の安寧と均衡を保つ役目を持っておいでです。
それが一個人の幸福と引き換えなら、ためらわれないでしょう。
わたくしには、受け入れられなかった・・・』
うん、まあそうだよな。世界と個人、比べられない・・・でも、それが自分の事だったら無理、無理無理無理っ!
『≪魔力喰らい≫とは≪魔王喰らい≫・・・そう、聞かされた後、
わたくしは必死に昔の文献を読みふけりました。その結果・・・
正しい情報なのだと、理解してしまったのです。』
そう、なんだ。
『≪魔力喰らい≫は危うい能力、そう気づいてからは使うことに
恐怖が募り、人との交流を恐れるようになりました。
外との関わりが無ければ大丈夫だと、愚かにもそう信じ込んで。
何事もなく消え去っていくのだと・・・昨日と同じ明日が来るのだと、
根拠もなく考えておりました。あの日までは。』
おいおいおい、まだ何かあるのかよ・・・
読んでいただき、感謝です^^




