第21話 トラ転王子、過去と向き合う(1)
「お時間を頂き、感謝いたします」
部屋に入ってそうそう、入口で片膝ついて頭を下げる。あれだ。最初の顔合わせの時に取っていた動作、あの時と同じ行動をしている。
「何か話があるようだが、そのままでは気詰まりだ。顔をあげてくれ」
「はっ。ではお言葉に甘えます」
そう言ってゆっくりと上体を起こす。浅黒い顔の中、水色の瞳がオレの顔をしっかりと見つめた。
そう言えば最初もそうやって見られたっけな。
「まずは『試練の洞窟』を終えられ、王族としての義務を果たされました事、その力を示されました事、誠に喜ばしく。この場を借りて祝着申し上げます」
「あ、ああ、ありがとう」
堅苦しい挨拶を受けながらオレは内心驚いていた。
護衛についてからこっち、カインの声を聴くことが異常に少なかったのは事実だ。だから、話すのが好きじゃないんだろうと思ってた。思ってたんだけど・・・この挨拶を聞く限り、かなりな教養も身に着けてるんじゃないかな。
忘れてたよ、最初の顔合わせの言葉。あれもほぼカインが話してた。
話せないんじゃなく、話さなかった、それが正解みたいだ。
じゃあ、今のこの状態は?
オレは心の中で覚悟を決めて、カインの次の言葉を待った。
「そして、お詫びいたします。当初からお話すべきことを貴方様の資質を見極めたうえにしようと独り決めして、今日まで持ち越してしまった手前の不見識をどうかお許しいただきたい」
んんん・・・下手な貴族より格式高い言葉をこうも流暢に使いこなすとは。
うはぁ、オレの翻訳機能が爆発しそうっ!
「黒の傭兵隊は、他国にまで知られた勇猛果敢な部隊と聞いている。そこの要職を務めていた者が王族と言えど末席の、しかも子供の護衛に行けと言われれば面白くなかっただろう。その気持ちを表に出すことなく今日まで遂行してくれた事、うれしく思う。許してほしいのはこちらの方だ」
軽く頭を下げ、今の言葉が真実だと行動で表す。
くう~、王族の言葉って重いんだよな、こういう時。
「あ、頭をあげていただけませんか。手前は選ばれたことを名誉に思っておりますれば・・・!」
おお、カインが焦ってる。めっずらしい~
でも、これではらちが明かないな。こちらから切り出すか。
「それで、護衛の任を外れたい、という事だな?」
「は?」
「え?」
あれ、違った?
予想が外れて思わず口が開いちまったぜ。
見ればカインも同じ。これもめったに見られない顔だな。
ア~ホ~ア~ホ~、と啼く鳥が頭の上に居たような・・・
「・・・えーと。話がある、んだよな?」
衝撃のあまり、言葉遣いが普段に戻っちまった。
「あ、は、はい。そうです」
「それは護衛をやめる、という事ではなくて?」
「滅相もないっ! 我が主は貴方様おひとり、他に仕える気はございません!」
うおっ、なんかやけに力が入ってる。
「あ、そ、そうなんだ・・・では、それとは別で?」
「もちろんです。むしろ、何故手前が離れるとお考えになったのかお聞かせいただきたいくらいで」
「・・・それはまたこの次にしよう。で、何の話だ?」
「単刀直入に申し上げます。シリル・ノードス様から貴方様宛に手紙と荷物を預かっております」
シリル・ノードス。オレの母さまの高祖母で、≪魔力喰らい≫の能力保持者。
能力が発現して以来、何かと耳にする名前、その生き方。
『試練の洞窟』を終えた今、オレの持つ≪魔力喰らい≫についてもっと深く知る必要があると切実にわからされた。
ただでさえ稀少で、研究するのも困難な能力。そんなのがどうしてオレに出たのか、いまだにわからない。
ましてや≪魔王喰らい≫なんて。
不穏、としか言いようがない。
どこかに何か手掛かりがないものか、どう探索したらいいのか。
そう思っていたところに、降って湧いたようなこの言葉。
誰か、狙ってやってませんか?
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