第20話 トラ転王子、捕獲される?(2)
そのあと、王宮に戻って父さまに右手の印を見せて完了の報告をした。
併せて大司祭とのあれこれを全部ぶちまけたところ、父さまは無表情となり、ちょうど居合わせたギル兄さまの笑顔が恐ろしいことになった。
「そうかぁ。あの男、私の前では神妙にしていたけれど、遂にぼろを出したね。『神聖な、虚言を許さぬ場所』での話だから本心なんだ。そりゃあ希望を実現してあげないとね」
「ふむ。我とて望まぬものを無理強いすることは本意ではないからな。さっそくに叶えようではないか。これ、誰かある」
大司祭については前々から問題視していたようで、父さまはすぐに次期大司祭を任命にかかったし、ギル兄さまは任地先への指示を手紙にしたためている。
因みに行くのはハヴィシャル辺境地域。そこの教会を巡回する名誉大司祭にするんだとか。
名称はすごいけど、実質的には更迭の扱い。おまけに、魔獣に襲われること確実なんで、体の良い死刑判決なんだとさ。父さまもギル兄さまも怒りゲージが振り切れちゃったみたいだよ。
お仕事モードに入った二人に遠慮して・・・ホントは二人の放つ威圧に耐えられなくなって・・・オレは挨拶もそこそこに執務室を出た。
奥宮へ戻る途中、
「ユリウス! 戻って来てたのね!」
声と共に前が見えなくなった。
うはぁ。気持ちいいけど、いきなりはやめて・・・。
「ね、姉さま・・・ただ今、戻り、ました・・・あの、苦しい、です」
「あ、あら、ごめんなさい。私ったらつい、・・・」
アルティシア・シャスラン。正妃の子で第二王女。ギル兄さまの妹になる方だ。
父さま、ギル兄さまに次ぐ力を持っていて、しかも勉強熱心だ。アケンドラ王国はこれからも安泰だよな。
オレの事を何かと気にかけてくれる、数少ない味方でもある。何せ、他の奴らはオレを蹴落とすことしか考えてないしな。
「『試練の洞窟』に行ったって聞いたけれど本当なの? もう、お父様も兄さまもどうして無理させるのかしら!」
アルテ姉さまは裏表のない人だ。オレを実の弟のようにかわいがってくれる。
その分、過保護気味ではあるのだが。
「姉さま、ボクが行きたいって我儘言って、それを父さまが聞いてくださって・・・」
「いくらしっかりしてるからって『試練の洞窟』はやりすぎよ! 限度ってものがあるわ! 今から行って問い詰めてやるんだから!」
わわわっ。これは何とかして止めないと!
「姉さまアルテ姉さま、心配してくれたんですね! ボク嬉しい、大好きです!」
笑顔を全開にして抱きついた。
あざとい? ほっとけ。カインもミャウも笑うんじゃないっ!
「あらまあ、可愛い事言ってくれるのね。ユリウスは頑張り屋さんだけど、無理するから心配だったのよ。怪我してないのね?」
「はい、だいじょぶです。これ見てください。しるし、頂きました!」
「まあ、本当! 偉いわユリウス! あ~ん、こんな弟が欲しかった~っ!」
「ぎゅむ~~っ」
姉さま・・・ハグは望むところだけど、成長著しいお胸がオレを窒息させてるよ・・・。
「恐れながら姫様。坊ちゃんが白目をむきかけてますにゃ。解放してもらえますかにゃ?」
「あ? あらら。ごめんねユリウス、大丈夫?」
「ぷはっ・・・だ、だい、じょうぶ、です。姉さま」
「今日はゆっくり休むのよ。また今度話を聞かせてもらえるかしら」
「はい、姉さま。失礼します」
やっと放してもらえた。う~、目の前がちらちらする~。
『試練の洞窟』よりアルテ姉さまのハグの方が疲れるってどういうことだよ。
そのあとは無事に何事もなく母さまのところに戻って報告できた。
母さまはとても喜んでくれて、オレも親孝行がひとつ出来たんだとホッとした。
その夜。
寝る前の読書をしている時間に、カインが入室の許可を求めてきた。
読んでいただき、感謝です^^




