第19話 トラ転王子、『試練の洞窟』の後始末
『試練の洞窟』後のお邪魔虫退治。
目を開けるとそこは入口の膜の前だった。抜けようと足を動かしかけたが。
「まだお戻りにならぬようですな、若様は」
一番聞きたくない声に足が止まる。
「時間がかかっておられるようだが、大丈夫ですかな? 中で怪我をして動けなくなっておられる、そんな事態でないといいですなぁ」
こいつ、5歳児のオレに言い負かされたのが気に障ったんだろう。小物だけど執念深いな。
「最初に言ったとおり、ここへは許可を得た者しか入れぬ。逆に言えば、許可を取り消されれば出ることも叶わぬ、とも言えるわけですよ、はっはっは」
「・・・坊ちゃんを閉じ込めようという事かにゃ、それは」
ミャウの声が怒りを帯びている。だが、大司祭はそれに気づかぬようだ。
それにしても、こんなのがよく教会のトップになってるな。父さま、しっかりしてくれよ。
「ふん、獣人風情が何を言う。ワシは決まりを話しただけ、何もしてはおらぬ、そうじゃろ?」
「このっ!」
いかん、ミャウが暴発する! 思わず動きかけた、が。
「ミャウ・・・放っておけ」
金属的な響きを伴った声が一言。それでミャウは静まった。
「ほうほう、放っておけ、とはまたたいそうな言いようですな、護衛殿は」
今度はカインを標的にしたようだ。あいつ、本当は死にたいのかな。
「ワシを誰だと思っているのですかな、護衛殿? 怒らせてよい相手ではないですぞ」
「・・・」
「おや、だんまりとは。ワシの言葉が正しいと認めましたな?」
決定。こいつは馬鹿だ。それも特大の。
自分の権力が一番だと周りに押し付ける最低のゲス親父だ。
その理屈が通らない相手だぞ、目の前にいるのは。
「俗物は相手にしない。それだけだ」
「わ、ワシを俗物とぬかすかっ! この、傭兵風情がっ!」
「・・・間違えた。無価値だ」
うわぁ。普段無口なくせに、口を開いたらこれだよ。
恐るべし、切り込み副隊長。
「っ!この、無礼者がぁっ!」
大司祭が腕を振り上げた気配を頼りに、オレは洞窟を抜けた。
「先ほどまでの言葉、このユリウス・シャスランに向けたものと解釈しますが、よろしいか?」
「ユ、ユリウス、さまっ・・・!」
「その振り上げた腕、どうされるので? 参考までにお聞きしたい」
二ッと笑って追及する。
あれほど警告したってのに無視したんだ。それに見合うだけのお返しはさせてもらう。
許す気はないからな。
「こっ、これはっ、護衛どもが、いや、あの、ワシに侮辱を・・・」
「この中で聞かせていただきました。許可を取り消されるとはどういうことでしょうか?」
「うっ・・・!」
「大司祭ともあろうお方が私情に振り回されるのは、万にひとつもあってはならないこと。個人の感情を大切にできる地位をお望みなのだと受け取りました。さすが『神聖な、虚言を許さぬ』場所ですね。率直な意見をうかがえた事、神に感謝を捧げましょう。末席ながら私も王族に連なる身です。貴方のお考えを陛下に直接お伝えして、適切な対応が取れるよう進言いたしましょう。では、これにて失礼」
その席、あんたに相応しくないんだと父さまに言ってやるかんな。
覚悟するんだな、この俗物が! (意訳)
「ちょ、待っ、ユ、ユリウス、さまっ!」
真っ赤な顔色を紙より白くして袖に取りすがろうとする大司祭をペイッ!と振り払い、地上に向かう。後ろのミャウはプププと笑いをこらえるのに必死な様子。
『試練の洞窟』には結構な時間いたようだ。すでに陽が傾きかけている。
出入りに時間差は無い、とギル兄さまは言っていたけど・・・これはユグじいとの話が予想以上にかかったと考えるべきか。いや、『三の試練』が妙に長かったと言ってたような。
あれこれ考えつつ、馬車に乗ろうとしたらカインに呼び止められた。
「我が主。お休みになる前の数分、手前に頂戴できませんでしょうか?」
ん? つまり、何か話したいことがあるって事かな?
「わかった。今夜でいいか?」
「はっ。ありがたく」
・・・ここしばらく、何か言いかけてたからな。これはひょっとすると・・・
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