第18話 トラ転王子、『試練の洞窟』に挑む(7)
爪先立って背を伸ばし、頑張って手を乗せると、台が薄く発光しだした。そしてその光が筋を成して正面の丸いオブジェに吸い込まれていく。オブジェがゆっくりと輝いて、その中に一本の木が浮き上がってきた。
あれか。異世界定番のあれなのか。
「・・・ユグドラシル・・・?」
(おお、良く知っておったな、おぬし。そうじゃ、儂は世界樹ユグドラシル。ユグちゃんと呼んでくれてもいいぞい)
「あざとい。ユグじいがせいぜいだ」
(ひどっ。おぬし、酷すぎるぞい)
「その話し方でちゃんはない。で? これがどうなんだ?」
バッサリ切って捨てる。戯言に付き合ってるほど暇じゃないしな。
(くう、冷たいのう・・・まずは『試練』遂行の証じゃ)
右手の甲がわずかに熱を持ち、すぐに引いた。
(次に、儂との通信手段じゃ。左の手首にするぞい)
今度は左の手首に熱が集まり、わずかに重みがかかる。
(最後はこれじゃ)
両掌に熱が集まり、何かの形が残った。恐る恐る手を戻し、見ると。
右手の甲にうっすらとユグドラシルの影が見える。
左の手首には細い金環。
そして掌にあるのは金色の魔石だった。
(その魔石はおぬしがさっき吸い込んだ儂の魔力を固めたものじゃ)
「ずいぶんときれいなんだな。ここまで透き通った魔石、見たことない」
(そうじゃろう。何せ純粋な魔力を練りこんであるからの。そうさな、純血のドラゴン種10個分相当じゃろか)
声(?)の話す内容に絶句した。ドラゴン種の10個分だってぇ!?
「じょ、冗談・・・じゃないよ、な?」
(あたりまえじゃ。知らなかったとはいえ、おぬしの古傷をえぐってしまったんじゃ。その詫びとして受け取ってくれい)
「・・・ん。わかった」
(『試練』の証はおぬしの能力を補助し、高めてくれる。儂がやったような、魔力を魔石にするやり方も追々覚えるじゃろうて。これでおぬしは立派な王族の一員となった。おめでとう、じゃの)
「ありがとう、ございます」
(おぬしもまともな礼が言えるんじゃのう。さて、最後に左手首の金環じゃが・・・)
そこで声(?)が珍しく言い淀んだ。
(実はの、≪魔力喰らい≫はそれだけが出てくるものではないのじゃ)
「え?」
(・・・≪魔力喰らい≫とは今世に知られる名称。じゃが最初に現れた時は違うての。当初の呼び名は・・・≪魔王喰らい≫じゃ)
「ま、魔王喰らいぃ!?」
な、なんだその、血塗れが確定な呼び方はっ!!
(必ずしもそうなるとは断言せぬ。実際、前回は何も起きなかったしの。それでも、万が一に備えねばならぬ。おぬしにならその意味、わかるじゃろう?)
「・・・・・・」
(それ故、おぬしに連絡手段を与えた。金環を額に当てて念ずれば儂に通じるように調整してある。何か不穏な事あらば、遠慮なく使うがいい)
「そう、なんだ。わかった、使わせてもらう」
(この先懸念するような事態になるのなら、おぬしはこの世界を巡ることになる。行った先に何があるのかどういう出会いがあるのか。不測の事態が生じたなら、その金環がおぬしの身の証となろう。それは儂とおぬしの魔力が混ざっておる。取り外すことはかなわぬが、おぬしの意思で見えぬようにすることが可能じゃ)
「・・・ホントだ」
金環に意識を集めて念ずると透明になり、触らないと分からない。
(今は分からぬことが多くて不安じゃろう。それは儂も同じじゃ。時間を、今しばらくの猶予をくれぬか)
「わかった。待ってる」
(感謝するぞい。では、おぬしを入口に届けよう。これからの人生に良き出会いを)
言葉が終わると同時に浮遊感を覚える。入った時と同じ感覚に、これで終了だと実感できた。
『試練の洞窟』終了です。ユリウス君の口調、戻るかしらん・・・
読んでいただき、感謝です!




