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第15話 トラ転王子、『試練の洞窟』に挑む(4)

流血表現があります。ご注意ください。

「言いたいこと・・・?」

「うん。・・・あのね、この前言ってくれたでしょ、好きだ、って。あ、あ、あたしも、す、好きだよ。だから・・・」


「・・・ちがう」


「これからも一緒に・・・って、違う? 何が違うの?」

「・・・おまえ、誰だ?」

「え、誰って。あたしよ、チーナだよ。どうしちゃったのハヤト?」


「チーナ、と呼ぶな。そう言って怒ったよな。『その呼び方、嫌い!』と」

 千夏。小さい時にうまく話せなくて、自分をチーナと呼んでいた。そのまま我が家では愛称代わりになっていたが、なぜか最近はそう呼ぶことを禁じられた。


 それを自分から使っている? あり得ない。


 そう、おかしなことはほかにもある。それは・・・


「『幼馴染でいよう』そう言ったよな。オレが好きだと言ったら。『それ以上には思えない』とも」

「そ、それは・・・!」


 そう、この部屋で。勇気を出して告白したら、こいつは、千夏は・・・


「『自分が好きなのはシュンだ』、『あんたじゃない』と・・・!」


 瞬間、頭が痛んだ。ギリギリと、万力に力一杯挟まれたかのように。


「そ、そんなことないよ! ハヤトは何言ってるの、あたし・・・!」

「もういいっ!」


 痛む頭と違和感ありまくりの千夏に我慢できなくなって部屋を飛び出す。階段を駆け下りる音に、キッチンから母が顔を出す。


「何やってるの隼人、静かにしなさい! え、どこいくの、もうすぐごはんよ?」

 慌てた声をしり目に、靴をつっかけて玄関を走り出る。


 なんだ? この違和感は何だってんだ? オレの記憶、覚えていることとあまりに違う、今のこの状態は?


 混乱と不安でよろけながら立ち止まる。そこはいつもの交差点だ。


 そう、さっきシュンと別れた場所。いつものように手を振りあって、「また明日」と言い交わして・・・


 いや、違う! 思い出した、あの日は言っていない! だって・・・


    パパパラララアアァァァッッ


 大音量のクラクション! 振り向いた先にはトラックの正面がそこに・・・!


    ギギィィッ  ドンッ


 ・・・・・ドサッ


 ああ・・・あの日、はねられたんだ・・・


 全身に響く苦痛の中、オレはようやくあの日を思い出した。

 



 前日に告白して振られ、意気消沈したまま学校に来てへたり込んでたオレを、サッカーの試合に引っ張り出したシュン。だけど、結果は散々だった。

 特にオレが絡んだ失点が痛くて、終わった後クラスの皆と口論になったんだ。 


 それでなくても落ち込んでるってのに無茶苦茶言われて、暴言吐かれて。

 そんな奴出さなきゃいいだろ、と言ったら更にフルボッコ。

 挙句に女ひとりに振られたくらいで、なんていう奴まで出てきた。


 そんなこと言うならいっぺん振られてみろ!


 そして極めつけに聞いた、あいつの一言。

「まあ、いつまでもグジグジするのは男らしくないよな」


 いつもならなんてことなく流せる言葉。けれど、その時はとんでもなく痛くて。


 思わず叫んだ。

「悪かったな、男らしくなくて! チーナも男らしいお前が好きだってよ!!」

 そのまま、カバンをつかんで教室から走り出たんだった。


 そして、この交差点。


 交通量が多くて学校からも家からも注意されていた場所だった。

 いつもなら、そう、いつもだったらちゃんと確認して渡るのに。

 あの時は勢いのまま飛び出して・・・轢かれたんだ。


「・・・ン! ジュン! おい、目を開けろ、開けろってば!」


 ああ、この声、シュン、か? なんだよ、切羽詰まった声で・・・


「しっかりしろ、気ぃ抜くなよっ! 今、救急車呼んだからっ! だから、だからっ、死ぬなっ! 死ぬんじゃないっ!! 頼むよ、返事してくれよっ、ジュン、ジュン!!」


 最後は泣きながら呼ぶ声に、うっすらと目を開けた。ぼやけた視界に入ったのはあいつの顔と、地面に流れた赤い、血。

 そうだ、こんなに出たんだ。オレの体から。それじゃ助からないよな。

 ほほに熱い何かが当たる。雨・・・いや、あいつの涙だ・・・


 すべてがぼやけて、痛みもぼやけてくる。足の方から徐々に冷たいものが上がってきて、これが胸に達したらオレは終わる。そう、理解できてしまった。


「ジュン、返事してくれっ、なあ、なあってっ!! 死ぬなってば!!」


 それは無理だよ、シュン。

 わずかに動く手であいつの手をつかんだ。


「ジュン!? 聞こえるんだなっ!? 俺だよっ!! ジュン!!」

 もう・・・お別れだ・・・力が、無くなっていく・・・


「ジュンっ!? おいっ!! ジュンっ!!!」


 泣くなよシュン・・・男だろ・・・?


 そう思ったのを最後に視界が暗くなり、無音の世界に戻った。







読んでいただき、ありがとうございました!

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