第13話 トラ転王子、『試練の洞窟』に挑む(2)
「・・・巨大迷路・・・?」
廃墟の中の扉をくぐったら、またしても風景が変わった。
入口の高台で立ちすくむオレ、今ココ。
目の前の階段を下りた先にあるのは、白い壁とつる草で出来た、曲がりくねった道。
その中を魔獣が徘徊し、唸り声をあげている。
正面の奥を見れば、荘厳な扉がひとつ。『でぐち』と書いた紙がでかでかとこれ見よがしに貼ってある。
これって俺の見た目に合わせた、のかな。
危うく座り込むところだった。
とにもかくにも、ここを抜けなくてはいけないらしい。
オレは迷路を眺め、解答の道筋を頭に叩き込んだ。
まったく。
誰がこんなこと考えだしたんだか。
分かったらただじゃおかない。
階段を降りつつ、オレは何度目かになる決心を繰り返していた。
巨大迷路に踏み込んで角を回る。
ひとつ目の角を右、次を左、まっすぐ進んで左に右2回。
それで抜けられるはずなんだが、そう簡単に行かないか。
敵性反応が近づいてきている。今度は右、か。
強さは・・・レッドボア程度。あの速度ではすぐに出てくるな。
「ブヒイィッ」
「おっと!」
突進してきたのを、かろうじて身を横にして避ける。
そして目の前を通過する弾丸にフックを突き立てた。
「プギイィィッッ!」
「ウプッ」
生きた魔力がオレに雪崩込み、その圧倒的な満腹感に思わずゲップ。
マナーの講師が居たら間違いなくダメ出しの注意が飛ぶだろう。
どうしてこんな能力が付いたんだか。クレーム先はどこだ。
レッドボアの魔核を手にして、迷路をさらに進んだ。
またしてもレッドボア。今度は正面か。
「ブギブギブギィッッ!」
「よっと! で、お返しだ!」
フックを突き刺すのではなく足払いする。当然その結果は・・・
「ブゴオオォッッ!」
ドッカーンン・・・
「おお、見事な大穴が、ととっ、見つかっちまったか」
壁に突進をかけたレッドボアは昇天したが、壊れた壁の向こうに居たクラッシュラビットに気づかれた。
「ピュルルルッ」
「ピキイィッ」
「ピュイピュイッ」
あいつらはいつも集団で、おまけに足が速いと来てる。背中を見せようものなら飛び掛かってくるだろう。
「ええいっ、仕方ない! これでどうだっ! 『反転ネット』!」
飛び掛かってくるクラッシュラビットたちの前面に展開ッ!
ポヨ~ン ぽよぽよ~~ん・・・
「ピギュッ!?」
「ピュルル!」
「ピキュルルゥ~!」
可愛らしい鳴き声だけを残し、その勢いのままポーンと跳ね返されて。
飛び出てきた壁のもう一つ向こうへ消えていった。
うん、かなり気の抜けた技だけど。
結構使えるんだな、これが。
能力が発現した時に、後ろの魔獣が放った焔を防ごうととっさに張った防御膜。
あれの変形技。
あの時はとにかく固くして跳ね返したんだけど、込めた魔力以上の力だったら壊れるに決まっている。
じゃあどうするか。
ここでも前世の言葉がヒントになった。
『柔能く剛を制す』・・・長い歴史を持つ国の兵法書にある言葉だ。それを実践してみるのはどうかと考えたのがこれ、『反転ネット』。
受け止めて耐える、のではなく、運動エネルギーを逆向きにしてやる、そんな機能を持たせた。
ついでに強化して。
つまりだ。
こいつにぶち当たると、今まで向いていたベクトルが逆さになるうえに、およそ2倍になって自分に返ってくる。
そのまま、さようなら、が可能なんだ。
優秀だろ?
命名は・・・勘弁してほしい。
オレにネーミングセンスを期待しないで。
本当は『ピッチャー返し』にしたかったんだけど・・・ここ、異世界。
野球がないんだ。無念。
何はともあれ、出口の扉にたどり着いた。
これで『二の試練』は終了したと思う。
残るは『三の試練』。精神系の攻撃だと言うが、さて。
行くしかないよね。
両手を握って気合を入れなおし、扉を押した。
向こうは真っ暗で、そして・・・
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