第12話 トラ転王子、『試練の洞窟』に挑む(1)
呼吸する膜を通り抜ける時、一瞬浮遊感が全身を包んだ。
すぐ足裏に感触を覚え、しっかりした地面に立っていると実感する。
入る前からつむっていた眼を開け・・・すぐに閉じる。光が目に入り、くらくらした。
身を低くして頭を抱え、防御膜を起動。
目が慣れるまでは何があっても対処できるようにしないと。
すぐさま知覚網を張って辺りを窺う。とりあえず敵性個体は近くにいない。
光の残像が消え、正常になった。
そっと頭を上げると、そこは崩れかけた神殿のような場所だった。
眩しかったのは、正面に掲げてあった鏡に光が反射して顔に当たっていたからだと分かる。
少し身をずらして周囲を見渡した。
あれ?
オレ、洞窟に入ったはずなんだけど。
まるっきり別の場所じゃん。
一体どうなってるのかと半ば呆然としながら、それもアリかと思い至った。
『『試練の洞窟』は本当に変わっているんだよ。異次元、とでも言えば良いかな。中でどれだけかかろうと出入りに大きな時間差がないんだ』
2日前、ギル兄さまがこっそり教えてくれた。
『まずは『一の試練』。ここは魔獣を倒せるかどうかの確認でね、最低限の魔獣と戦うんだ。ゴブリンとか、コボルトとか、あ、あとスライムとかね』
『スライムって、木の枝を刺して核を潰せばいいんですよね?』
『そうそう。しょぼい能力でも倒せるはずさ』
・・・マジか。あ、でも、スライム最強(?)というラ〇ベもあったような気がする。そういう意味ではアリ、なのか。
『『二の試練』はその発展系で、もう少し強い魔獣と賢さをプラス。森林の中で魔獣を倒しながら抜ける、とか、鍾乳洞の探索とかだね。変わったのではトラップを外しまくる、なんてのもあったらしい』
『・・・・・・』
アトラクションゾーン、の間違いじゃないんでしょうか、そこ。
『この二つでほぼ終わるんだけど、王族はもうひとつ『三の試練』までが義務だ。心の強さを試される。いわば、精神系の攻撃を受けることになるね』
『おっかないですね』
『うん。『三の試練』は人によりけりでね、うまく説明できないな。ちなみに、そこまで耐えきれないと見做されたら入口に戻されるから、心が壊れる、なんてことにはならないよ。まあ、気楽に頑張っておいで』
何やらギル兄さまの笑顔が黒かった。
そんな情報、要らないやい! そう思っても後の祭りでした。とほほ。
未だに静かな周辺に、全身を緊張させてしばらく待つ。
やがて、知覚網に敵性反応が点々と映る。
ギル兄さまからの情報が正しいなら、そう強い魔獣ではないはずだ。
反応を見ても・・・うん、これはゴブリンクラスかな。
そうこうするうちに、廃墟の陰から飛び出してきたのは、まさにゴブリン。
「グギャギャギャ~ッ」
澱んだ叫びと共に棍棒を振り下ろしてきた、が。
「あらよっ、と」
半身で避けて、強化したキックを進呈。そのまま、繁みに直帰させた。
「ギャギャギャ!」
両脇から同時に出てきたゴブリンには拳をひとつずつ。正面に居るゴブリンは頭突きで。
勢いつけて前転、後ろの奴が目算外れでよろけたところをすかさず回し蹴り!
これでおしまい、かな。
やや前かがみになって膝を少し曲げ、軽くリズムを取りながら辺りを窺う。両手は顔の両側やや下に拳で構え、攻守どちらでも取れるようにしておく。所謂クラウチングスタイルだよね。
あの程度なら、能力も必要ない。
一応鍛えてるから、さ。ちょっと強化すれば対応可能だ。
ゆっくり構えを解いて背筋を伸ばす。相変わらず静かなまま。
無音、て耳に優しくないんだな。
さて、と。これからどうするか。
そう思うと同時に、廃墟の中から軋み音が響いてくる。
古い扉がいやいや開くような、そんな音。
『一の試練』が終わったみたいだ。
それにしても、図ったようなタイミング。
ずぇったい、どっかで見てるんだろな、誰か。
プライバシーの侵害、なんて、この世界にある訳ないし。
管理者に遭ったら一発殴っちゃる。そう決めながらオレは廃墟の中へ踏み込んでいった。
読んでいただき、ありがとうございます!
いよいよ『試練の洞窟』です。




