第11話 トラ転王子、『試練の洞窟』前哨戦(2)
大教会の地下二階。
そこは地下蔵となっていて、壁も鑿やつるはしの跡がそのまま残されていた。
その奥に、白く輝く膜の張られた穴がひとつ。両側に在る松明が唯一の光源であるのに、その膜自体が光を放っている。それも呼吸をするかのように強弱をつけて。
初めて見る光景に、オレはしばし見入ってしまった。
さすが異世界。変わったものがまだまだあるんだなぁ。
だがこのオヤジ、それを躊躇いと取ったようだ。
「足が前に出られませんかな。今ならまだ引き返せますよ?」
嘲笑を含んだ猫撫で声がオレの耳元でささやかれる。
「強がりも時には必要ですが、素直になられるべきでしょう。ここは神聖で虚言を許さぬ場所ですぞ。退く覚悟も持たれた方がよろしいかと」
オレの頭が一瞬で沸騰した。何が『虚言を許さない』だ!
思わず殴りつけたくなったが、それよりも早く動いた者が居た。
「ひぅっ! な、何をなさる・・・」
「我が主を見損なうな」
のどに詰まった声と地を這うような声が交錯し、冷たい殺気が振り撒かれた。
見れば、カインが大司祭の後ろから喉元に刀を突きつけている。大司祭ののどぼとけが上下するたびに、その切っ先がわずかに触れているようだ。
ミャウも大剣に手をかけているし、目つきそのものが怖い。この視線だけでも確実に死んでるな、こいつは。
それを見て、オレの頭は冷えた。
軽く深呼吸して怒りを払い落とす。ここで揉めるのは悪手だ。
「カイン、引け」
オレの制止に、カインが応じた。のどから離れた刃に、大きく安堵する大司祭。
「あまりにきれいな現象なので思わず見惚れてしまいました。ではここが入口なのですね?」
ここで謝る必要は無い。元はといえばこの男がオレを侮っていたからこそ、あのような発言になったのだ。王族をなんだと思ってやがる。
だからオレはスルーした。お前の発言を見逃す代わりに、喉元への刃を黙っていろ、と。
どうやら通じたようだ。のどを抑えながらしきりにコクコク頷いている。
「ここを通ることができるのは許可を得た者のみ、そうですね? では行ってまいります」
そう言って一歩踏み出す・・・ように見せて、振り返った。
大司祭の表情には屈辱と侮蔑、そして怒りがちらついていた。だが、オレが振り向いた一瞬後、そのすべてを消し去って頭を下げる。このタヌキめ。
こいつ、まだ懲りていないな? ならば。
「カイン、ミャウ。この入口にて待つように」
「承知」
「了解だにゃ」
「大司祭殿。この二人は母の故郷から借り受けた精鋭です。忠誠心がありすぎて暴走するかもしれませんので、あまり刺激されませんように。では」
これ以上何かやったら知らんぜよ、ごらぁ! (意訳)
内心で巻き舌になりながら、オレはゆっくりと膜の向こうへ足を進めた。
読んでいただきありがとうございます!
いよいよ『試練』(?)開始です。




