第10話 トラ転王子、『試練の洞窟』前哨戦(1)
討伐に行ってから3日後。
オレは王都の中央広場に面した大教会へやってきていた。
馬車を下りると入口の階段前に待っていたシスターが寄ってくる。
「お声をかける失礼をお許しくださいませ。ユリウス・シャスラン様でいらっしゃいますか」
「はい、そうです」
「私はシスター・ハリエットと申します。大司祭様がお待ちになっておられますので、こちらへお進み下さいませ」
シスター・ハリエットに導かれるまま、大聖堂の横にある扉から奥へと移動する。貴賓室のひとつに通されて茶の供応を受けていると、程なくして年配の男がやってきた。金糸で縫い取りをした立派な司祭服を纏い、貫禄と重量のある外見だ。なんだかイラッとくる笑いを張り付けている。
「お待たせいたしましたな、ユリウス様。大司祭を賜っておりますギャレット・オーガンディと申します。本日は『試練の洞窟』へ挑みたいと、王宮から連絡がありましたが」
「はい。そのとおりです」
「失礼ながらまだ相当にお若いですな。『試練の洞窟』は気ままに入る場所ではございませんが、その辺りの事はまだお勉強されておられませんかな?」
どうしてさっきイラっとしたかわかってしまった。
この野郎、オレが我儘を言い出したんだと決めつけやがったな。
「その御年齢での挑戦はいささか無謀ではないかと愚考いたします。なに、陛下には儂の方からうまく伝えておきますよ。うっかりお入りになると戻ることができませんからな」
くっそう、イライラする! 後ろの二人からも殺気が漏れ出しているが、ここで暴れたらまずい。それにしてもこの男、オレを完全に見下してるな。
「ご心配をおかけしたようで申し訳ありません。ですが、これは陛下から許可が下りていますので問題はないかと思います」
気付かない風でにこやかに返す。文句があるなら父さまに言えよな、と暗にほのめかしてやった。
「『試練』を受けるのは王族としての務めと心得ています。陛下にもその旨をお伝えしまして、十分に覚悟を決めてこちらへ伺いました。大司祭様のお心遣いは陛下にもお伝えしたく思います」
国王の意向を無視するんじゃねぇよ、お前の言葉そのまま、チクってやるからな!(意訳)
オレが反論したこととその内容に顔色が変わった。今言った言葉が不敬罪に当たるとようやく気が付いたんだろう。へへん、ざまぁみろってんだ。
「お、おお、誠に、王族の気概を、お、お持ちでいらっしゃいますな。で、では、こちらへ」
「お手数をお掛けします」
噴き出した汗を手拭いでしきりにぬぐう大司祭に先導されて地下へと下る。
『試練の洞窟』。それはどこにあるか。
言葉だけ見れば、どこかの山奥にでもあるのかと思うだろう。
オレもそう思っていた。
だが、実際は教会の地下に在る。
なんでやねん、と突っ込みたくなったのはお約束としても、その理由がある。
能力の発現が、王侯貴族だけではないからだ。
数は多くないが、平民にだって発現する。
そのために、各地にある教会の約半分に、『試練の洞窟』は存在する。
どうやら独立したものではなく、不可思議な連携を保っている、らしい。
確認できたわけではないので、はっきりとは言えないが。
『試練』の度合いによって、そのなぞはある程度分かる、らしい。
らしいらしいばかりでもどかしいけれど、それは個人の技量に関わってくる、と、ギル兄さまがこっそり教えてくれた。
要するに、オレが能力を使いこなして『試練』を達成すればおのずと明らかになるって事みたいだ。
なら、頑張らないとな。
地下へ続く長い階段を下りながら、オレはそう決心していた。
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