第1話 トラ転王子のモノローグ
短編「≪無能≫扱いのトラ転王子は大往生を願う」を再度練り直して連載版といたしました。短編の時から1年後を設定してあります。執筆速度が速くないのでゆっくりの更新となりますが、気長に気楽にお付き合いください。
本日は初回特典で3回分投稿します。
現代日本でトラックに轢かれ、お約束の転生をしたオレこと甲斐凪隼人。
死んだショックで記憶が吹っ飛び、ここアケンドラ王国の第三側室ミケイラ妃の子として転生してから4年間、《無能》と蔑まれていた。
それというのも・・・ここアケンドラ王国では魔力がすべてに影響してくるからだった。
とあるきっかけで前世の記憶がよみがえり、同時に異能《魔力喰らい》が目覚めて今に至る。
あの時いじめてくれた兄弟たちには正直何の感慨も持っていない。今でも出会うたびになんやかんやと突っかかってくるが、相手にすらしていない。そんなことをしている暇があったら自分の能力を使いこなせるようにしないとな。なにせオレの父親カイラス・シャスランは尊敬できる人で、偉大な王だからだ。
力ある王族としての自覚を持ち、国民の命と生活を守るために国の内外を見極め、外交に国策にと大量の仕事をこなしている。
毎日多くの文官たちが執務室を出入りして書類が山積みとなっていくのに、なんてことない顔で片っ端から処理していく。そうかと思うと、魔獣が現れた報告ひとつで真っ先に現場へ奔り仕留めてしまう。
その力はぶっといレーザー光線そのものだ。歴代の王の中でも抜きんでた力を持ち、平和と安寧の象徴として讃えられている。
そんなけた外れの力を持ちながらも、日々の鍛錬を欠かしたことがない。己に厳しく、ゆるみが出ないように律しながらも、きちんと目を配ることを忘れない。まさに男の中の男、『果断なる英雄王』の二つ名に相応しい美丈夫なのだ。
そんな人を親に持ったからには、オレだってうかうかしてられない。
記憶回路が吹っ飛んで《無能》呼ばわりされた4年間が何とも悔しい。オレにはどうすることもできなかったのだが、その間かばってくれてた人達・・・今世の母親とその周辺の侍女たちに随分と心配をさせてしまってた。母親の地位が低かったのもオレの所為ではあったのだから、何とか挽回したいところだ。
そうは言っても、以前の出来事・・・能力が発現した時に、結構注目を浴びている。
オレの能力≪魔力喰らい≫が稀少例で、どう使うのか、どのような発展をするのか、王国の魔術師にも分からない部分があるため、らしい。オレの母方のノードス家・・・高祖母に当たるシリル・ノードスの実家へも問い合わせが行ったようだ。
本当に≪魔力喰らい≫という能力は少ないんだな。
高祖母のシリル・ノードス様は12歳といういささか遅い発現だったらしいが、かなり長生きされたようで、その晩年の姿を母様は話してくれた。
「ワタクシの大大御祖母様に当たるのだけれど、銀髪を束ねて背に流した、小柄で小粋な方だった。騒々しいことはお嫌いで、いつも庭の手入れをなさっていたわ。あの方が世話をしていた時の庭園は、それはもう生き生きとして、大好きだったの。いやな勉強の先生から隠れるとき、そこへ逃げ込んでいたのよ」
そう言って笑う母さまの顔がとても柔らかだったのがオレの心に残った。
今、オレは毎日訓練場に通っている。
能力が発現してから1年たち、オレは遅れていた発達を取り戻すかのように成長していた。元々の年齢に追いついた形だが、それでもまだ弱々しい感じは否めない。だからこそ、≪魔力喰らい≫の能力を磨き、他の奴らに侮られることのないようにしたかった。
何せ、オレはもうすぐ兄貴になるのだ。
稀少能力が発現したことで父さまがオレに注目するようになり、何かと目をかけてもらえるようになった。必然的に住まいも格式のある大きな部屋に変わったし、何より母さまのところへやってくる回数がダントツに増えたんだ。ま、その結果が現れただけではあるけど。
オレとしては純粋に嬉しい。
前世では一人っ子だったし、今世は孤立化してたし。
弟でも妹でも構わない。お兄ちゃんが必ず守ってやるからな!
というわけで、訓練にも一層力が入るってもんです。
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