クラクフの歴史地区①
「貸してくれたよー、みんな~。」
そう言って、茜はプロジェクターを手に戻ってきた。
「あとはこれをタブレットに接続すればー、うん、いけそうだね。じゃあ、せっかくの初部活なんだし、今日は私がとっておきの世界遺産を紹介しよう。さっき話した私がこの部活をつくるきっかけをつくってくれた、その名もクラクフ!」
クラクフ?全く聞いたこともない名前だ。地名なのは間違いなさそうだが、どこの国なのかも見当がつかない。
「クラクフって、どこの国にあるの?」
「焦らない、焦らない彩、その辺についても動画流しながら説明するから。でも、彩は聞き手なんだからなにか疑問に思ったことあったら、遠慮せずになんでも聞いてよ。私もなんでもは答えられるわけではないけど、クラクフについては結構調べたからある程度は答えられるはず。」
そう言って、茜はプロジェクターをタブレットに接続して、部屋の障子を閉め、電気を消し、万全の状態で部屋の奥、仏像の前あたりに立てかけたスクリーンに映し出す。
「うん、なんかよさそうな動画見つけた。じゃあ、これを再生してっと。」
そうして無事にスクリーンに動画が流れ始めた。幸いここは日当たりもあまりよくない場所にあるので、鮮明に動画は映し出された。
「それでは、今日あたし、三色茜が紹介させていただく世界遺産はポーランドにありますクラクフでございます。」
ポーランドか。ポーランド、もちろん名前は聞いたことはある国だが、どこにある国だっけ?
「ポーランドってどこにある国なの?」
「そこからかよ彩。ヨーロッパだよ、ヨーロッパ!さては彩もおバカか?」
う、否定はできない。言ったあと、やれやれといった表情で涼音ちゃんの方へと視線を向ける。
「なんで、こっち向くの三ちゃん!ポーランドがヨーロッパってことくらい私知ってるよ!」
「お、言うな涼音。じゃあ、ポーランドの隣の国は?ちゃんと地理わかってるか?」
「えっと、それは、、、フランス、、、とか?てか、そんなこと言って三ちゃんもほんとに言えるの?」
「げ、実はあたしもそこまでは。助けて音羽!」
「えー、そんなこと言われても困るよ。全部はわかんないよ。でも、確か西はドイツ、東はウクライナとは接してたと思うよ。」
「さすが音羽!それだけ知ってれば十分すぎるよ。やっぱ天才だな~音羽は。」
「やめてよ!全然天才なんかじゃないし~。」
音羽ちゃんが顔を赤らめながら全力で否定する。さっきも思ったが、どうやら音羽ちゃんは頭がいいといわれるのに弱いらしい。かわいい。なにはともあれ、ポーランドがドイツの隣にあるヨーロッパの国なのはわかった。
「よし、それじゃ進行しちゃって大丈夫かな。それで、クラクフっていうのはね、まず今のポーランドの首都はワルシャワなのはみんな、、、いや音羽は知ってると思うんだけど、そのワルシャワに遷都するまで1000年の頭から約600年の間、ポーランドの首都として栄えた町なんだよ。」
「ぶー、ポーランドの今の首都がワルシャワだってことくらい私知ってるし~。だって、ワルシャワも世界遺産だし。三ちゃんは私のことみくびってるよ。私だって三ちゃんがクラクフのこと話してくれたときから世界遺産についていっぱい勉強したんだよ!」
「ごめん、ごめん、わかってるよ涼音。涼音は好きなことにはまっすぐだからな。それを、勉強にも生かせれば、涼音中間テスト300位台後半だっただろ?」
「あ、頭が痛くなってきた。だって学校の勉強は歴史以外なにも面白くないんだもん!」
「まあいいや、進めるぞ。とりあえず涼音と音羽はクラクフについてある程度知ってるのはわかってるから、彩はなんかあたしの話とか動画で気になったりしたこととかあったら聞いてくれ。その当時のクラクフは、13世紀半ばには一時モンゴル軍の襲撃によって破壊されたりなどの苦節を味わってきたが、その後にまた再建されて、14世紀前半には、ポーランドの通貨はズウォティっていうんだけど、今その50ズウォティ紙幣の肖像にもなっているカジミェシュ大王のもとでクラクフ首都下のポーランドは繁栄していたんだ。」
すごい情報量。ここまでくると、一周回って質問が出てこない。ただ動画に映しだされている、白やベージュなど、そこまで明るくない控えめな色を基調としながらも、ところどころに明るい色を取り入れていて、決して隣あう建物と色が被らないような基本的に均一な高さでそろっている中層の建物のカラフルな街並みは、いかにも歴史のあるヨーロッパの街並みって感じでただただ綺麗だった。
「それで、1364年にはポーランドの最古の大学で、あのコペルニクスが通ったことでも知られるヤゲウォ大学がクラクフに創設されて、15世紀にはポーランドの北にいたバルト語系のリトアニア人たちと、ヤゲウォ朝リトアニア=ポーランド王国をつくって、クラクフ首都下のポーランドは最盛期を迎えたんだ。こうやって、クラクフの街並みを見ていると、まさに当時の栄華を感じ取れるよね!第二次世界大戦中には、ナチス・ドイツによって占領もされたりしたんだけど、奇跡的にほとんど被害を受けなかったんだ。」
そんな難しい歴史は私には感じ取れないが、でも本当に素敵な街並みで、茜が心を奪われたのも納得っていうか、いつか訪れたいなと思った。