止心堂
「じゃあ、それぞれが順番におすすめの世界遺産を紹介するってな形にするか。」
あれからしばらくして、学校内の自販機で飲み物を各々買い、みな部屋で一息ついてから茜がそう言った。でも、私世界遺産なんて日本のものしか、いや日本のものでさえもあまり知っている自信なんてない。
「あの、私世界遺産全然知らないんだけど、どうしたら、、、」
「ごめん、ごめん、そうだよね。彩はしばらくは聞き手で大丈夫だから、あたしたちがやってるのを聞いて興味がわいたら、その時はなにか調べて紹介してよ。」
よかった。それならしばらくは大丈夫だなと思った矢先、突然なにかに気づいたように涼音ちゃんが口を開いた。
「この部屋って、すごいね、見てみて!一面畳だよ!本当に仏像もあるし!思ったより小さいけどかわいいね!ゼリーとか供えてあるし!さっきまではあまり気にしてなかったけど、いざこう見てみるとすごいよ!」
「急だな、おい涼音、急すぎてびっくりしたわ、でもそうだな、あたしと音羽は一度下見にここ来たことあったけど、涼音と彩は初めてだもんね、びっくりするのも無理ないわ。」
本当に涼音ちゃんはマイペースっていうか、急に話を転換してくるな。でも、なんだろうこの3人といると退屈しないっていうか、楽しいな!それに、確かに止心堂いいとこだな。なんか丸っこくて黒いクッションみたいなのも部屋の隅に積んであるし、畳に障子の部屋ってのも、純和室って感じでいい!なんだか当初言ってたお菓子食べて、話して、ごろごろみたいなことするにはもってこいの場所かも知れない、、、なんて先生に怒られちゃうな。
「エアコンもあるから、夏でも冬でも空調もバッチリだよ!」
音羽ちゃんが極めつけにそう言う。ここは天国か?
「そういえば、ここ以外にもう1つ物置みたいな部屋もあったな、ちょっくら何かないか見てみよっか。」
そう言って茜はこの部屋につながる通路の途中にある、位置的にこの部屋の入口の真後ろあたりの物置らしい部屋へと入って行った。しばらくした後、茜は見るからに嬉しそうに戻ってきた。なにか見つけたのかな?
「どうしたの茜?」
抱いた疑問を茜に投げかけた。
「見てよこれ、何だと思う?」
なんだろう?大きな白い紙?というかシート?
「もう、みんな鈍いな。スクリーンだよ!プロジェクターで写したりするあの!みんなも先生が何度か授業で使ってるの見たことあるでしょ?」
あ~、言われてみれば確かにそうだ。クラスとかにあるスクリーンだ。
「でも、これがどうしたの?」
涼音ちゃんが質問する。確かにスクリーンが一体どうしたというのか。
「じゃーん、スクリーンを立てかける三脚みたいなのも発見しました。これで、タブレットつないでスクリーンに映したら、臨場感のある映像にならない?」
なるほど、世界遺産紹介をこれからするにあたって、これを活用しようってわけか。タブレットは決して携帯なんかと比べたら小さなものではないが、4人で一緒に見るには小さすぎる。かといって、みんな別々のタブレットを使うっていうのは、バラバラ感というか、なんか寂しい。どうせなら、みんなで同じ映像を一緒に楽しみたい。その点スクリーンに映し出すっていうのはまさに名案だ。
「でも、肝心のプロジェクターはどうするの?」
音羽ちゃんが聞く。すると茜は一瞬、まるで考えてなかったといわんばかりに、困った顔をしたが、すぐに晴れやかな顔をして、
「部活の活動でプロジェクター使いたいから貸してくださいって言えば、貸してくれるでしょ、きっと。ちょっと待ってて、今借りに行ってくるから!」
そう言って、茜は止心堂を飛び出していった。ほんと行動力すごいな茜は。