ほんとうの始まり
「でも、せっかくみんなで色々なところに行きたいねって作った部活なのに、お菓子とか食べてるだけじゃ味気ないっていうか、、、茜はどうなの?いつか世界中の世界遺産巡りたいねって言ってくれたの茜じゃん!」
ついさっきの妥協とは反対に、今度は感情を高ぶらせて涼音ちゃんが言う。この3人の約束みたいなものはよくわからないけど、それでもさすがに世界遺産は現実的に無理なんじゃないかなと思う。
「あの~、ところで3人はどうしてこの同好会作ろうと思ったの?」
思い切って聞いてみた。まだみんなのことを知って間もないけど、私もこの3人のことをもっと知りたいと思った。みんなこんな私にも優しく接してくれるいい人たちだから!
「いや~、中学卒業が近づいてた時期、たまたまテレビ見てたら世界遺産を紹介してる番組やっててさ、なんか圧巻の景観っていうかさ、世界にはこんな街並みや建造物が広がってる場所があるんだと思ってさ、それを、音羽と涼音に話したら2人ともいいねって言ってくれてさ、だから、高校とか入ったら一緒に世界遺産巡ろうみたいな約束してさ。あたしバカだからさ、お金とか時間とか全然考えてなくってさ、さっきは涼音にバカなんて言ったけど、あれは自分に対してにもっていうかさ、部活とかつくってみて、形だけは一丁前に、全部今になって気づいてさ、なんかほんとにバカだよねあたし。」
しゃべり終えるころには三色さんの目は涙で潤んでいた。なんか悪いことしちゃったな私。これだけ感情を高ぶらせるようなことを聞いておいて、だんまり決め込んでしまうのはあまりにも気が引けて、話を聞いてる間に頭に浮かんだことを言ってみることにした。もちろん、根本的な問題を解決なんかできない気休めにしかならない提案なのは重々承知しているのだが、この静まり返ってしまった部屋で聞きだしっぺの私が黙っていることはできなかった。たとえ、三色さんの気を逆なでしてしまうかも知れなくても。三色さんは私のことを友達だと言ってくれた。本当の友達っていうのは、こういう落ち込んでいるときにも思ったことを素直に言い合える、そういうものだと思う。私は中学まではそんな友達には巡り合えなかった。だからこそ作るんだ、この高校で、本当の友達を!
「あのさ、私思ったんだけどさ三色さん、うちの学校ってさ、タブレットがみんなに支給されてて、それを学校内のWi-Fiに接続して自由に使えるじゃん。今はいろんな動画サイトとかも活発だし、きっと世界遺産を紹介しているものもあると思うんだ。そういうものを見て、みんなで一緒に行った気になる活動なんてどうかなって思って。もちろん気休めに過ぎないけど、それでもただ、ここで何もしないよりはましかななんて。気に障ったならごめんね。私、みんなのことよく知りもしないくせに。」
「う、うん、私すごくいいと思う。」
まず、音羽ちゃんが先陣を切って私のアイデアを肯定してくれた。
「私もいいと思う。それ面白そうだね~。全く思いつかなかったよ。」
続いて涼音ちゃんも。
「うん、うん、ありがとう、彩、でも友達なんだから“さん”付けなんかしないでよ、バカ。」
「うん、ごめんね、茜。」
泣き笑いしながら最後に茜もそう言ってくれた。