始まりの光
月日は只々無情に過ぎ去っていく。私、副島彩は晴れて高校に入学、ぴかぴかのJKになったものの、昔からの引っ込み思案で消極的な性格、また知り合いの全くいない完全アウェーな新天地のせいもあり、スタートダッシュに完全に失敗、お昼も含め、学校内では一人きり、部活動も結局勇気が出なくてどこにも見学に行けず、現在6月1日に至るまで灰のような学校生活を送っていた。ただ正に今日、そんな地の底のような日々に一筋の光が差し込んできたのだ。
昼休み、弁当を食べ終えて、ダラーっと顔だけはギリギリ前を向いて机の上を伏すようにしていた。これは、いつもの昼食後の日課であった。勉強はおろか読書の趣味もないので、こうダラーっと伏す以外することがないのだ。かと言って顔まで伏してしまうと、いよいよ外界との拒絶と見なされ、このぼっち生活をいよいよ抜け出せなくなってしまいそうで、だから顔だけは伏さずに万が一現れるかもしれない、私に話しかけてくれる人を永遠に昼休みが終わるまで待ち続けているのだ。これが昼のルーティーンであった。言うまでもなく、今日に至るまで誰一人この時間に話しかけてくれる人はいなかったのだが。現実はそう甘くはない。だだ、そう、正に今日現れたのだ!そんな私への救世主、メシアが!
「あのー、副島さん、でいいんだよね?」
急に話しかけられた。正直びっくりした。まさか話しかけられるとは思っていなかったので油断していた。顔こそ伏してはいなかったが、視線はほとんど地面と平行、さらにはボケーっとしていてほとんど意識もなかった。今私は誰に話しかけられているのだろう。声音から女の子の声なのはわかった。快活な声だった。そこまで理解してから、視線を声の主の方へと向けた。声音に違わず、快活な感じでショートカットの見るからに陽の気を纏った女の子だった。確かこの子は同じクラスの、名前はなんて言ったっけ。そんな疑問を抱きつつ、何も反応を示さない私に構わず彼女は会話を続けた。
「あれー、ごめん、名前違ったっけ?」
「い、いや、合ってます。副島です。副島彩です」
「よかったー、あたしったらいきなり話しかけて名前間違えるみたいなとんだ失礼したかもって焦ったー、ごめんね、いきなり。私同じ8組の三色茜っていうんだ。よろしく。」
「い、いや、私こそごめんなさい。いきなり話しかけられてびっくりしちゃって。あのー、どうかしましたか?」
「いやー、あのさ、副島さんいつも一人でいるからさ、ちょっと気になっちゃって。部活とか、何か入ったりはしてるの?」
「え、部活ですか。いやー、その、タイミング逃しちゃってなんにも入ってないんです。」
「あ、そうなんだ。あの、ごめんね。なんか掴めない話し方しちゃって。うん、つまりこれから話すのが本題なんだけど、あたしさ中学からの友達たちと一緒に部活作ってさ。部活っていうか、厳密にいうと同好会なんだけど、副島さん部活とか何も入ってないって言うし、もしよかったら入ってくれないかなー、なんて。どう?」
急だった。部活か。正直なんにもあてのない私にとっては願ってもない話だった。しかし、同好会とか言ってたが、何をするものなのかについて彼女はまだなにも言及していない。私は中学までもなんの部活にも入ってこなかったし、急になにか楽器やスポーツをやれと言われても正直できる気がしない。それに、数少ない彼女が話した同好会の情報によると、その同好会は彼女の中学からの同級生と作ったものらしい。つまり、内輪の同好会だ。急に部外者の私がその内輪のノリに入っていけるものか、その不安もあった。
「すみません、三色さん、同好会ってどんなことやるんですか?」
「あー、ごめん、ごめん、そういえば言ってなかったね。みんなで一緒に意見を出し合って、いろんなところに旅行しようっていうところだよ。そんなに気難しく考えなくて大丈夫。私のほかには二人部員がいるんだけど、すぐに打ち解けられるよ。というか、実はまだ正式には申請が通ってなくて、あと1人誰か入ってくれないといけなくて、だからまだ活動はできてないんだ。そういうわけでどう?後悔はさせないから!」
正直大学でもあるまいし、そんな訳の分からない同好会が認められるのかはわからないが、私でも入れそうな所だし、ひとまず入ってみるのはありかなと思った。
「私でよかったら是非入らせてください。」
「ほんとに!?ようこそ旅行同好会へ!」
こうして始まった。ようやく私の明るい高校生活が!