荒廃した無限回廊で耽美な夢を追憶す
昔出会ったお話の供養に即席で創ったもしものお話です。元ネタ作者様には勝手に使った事を深くお詫び申し上げます。
自己満足作品です。ご了承ください。
もう、20年振りになるのか。
ふと古い友人を思い出してかつて妖しくも美しかったこの場所へ足を向けてみたが、今はすっかりうらぶれていた。無理もない。彼と彼の最愛の少女はもう、この世の何処にも存在しないはずなのだから。
古びた回廊をゆっくりと進み、柱や壁や床に少しでも友が実在した証は残っていないか探し回る。彼は完璧主義だった。消える時もきっと何の跡も残していないだろう。解っていても実体の有るモノが欲しくなってしまう。
ここが残されていたことだけでも良しとしなければならないのかもしれないな。
しかしこの『無限回廊』は精神世界に存在する領域。私が知っているからこそ存在し続けているとも言える。彼ら主従の存在の根拠とするには弱い。
「叢雲さんが消滅するとは思えないんだけどなぁ」
そう、主である闇に住まう異質な存在であった彼は只人ではなかった。それが只人の少女を見初め、従い、愛したから…。
「あら、お懐かしいこと」
ふいに背後から声がかかり勢い良く振り返ると、そこにはたおやかな女人の姿があった。まじまじと観察し面影を探す。
「まさか、貴女が?」
「えぇ、私です。居てはいけませんでしたか?」
「…貴女にはもう会えないと諦めていましたよ。ご主人であれば或いは、と期待していましたが、ね」
「叢雲を憶えている人間がまだ居たなんて、私も信じられませんでした。でも、貴方がここにいて、私はここにある」
「まさか…貴女もこの無限回廊と同じ?」
「さあ? どうでしょう。貴方はどう思われます?」
もう、名前も思い出せないというのに、あの時の少女が成長した姿でそこにあった。しかし、それさえも私の精神より生じた空想の産物なのかもしれない。
ここでは最早、事実も現実も亡く、全ては夢、幻を繋ぐ廊を廻るが如し。
そっと瞳を閉じて、深呼吸を1つ、瞼を開けば目の前の美女はあの頃のように穏やかに微笑む。
「ありがとう。貴女に《貴方に》会えて《逢えて》良かった《善かった》」
お互いの声がぴったりと重なり回廊に木霊した。
瞬き1つ。
辺りは日常の喧騒に包まる。腕時計を見れば僅か1分の邂逅。体感的には数刻を過ごしたような疲労感を感じる。
首を巡らせ、足を進めた。
過去を懐かしんでばかりは居られないのだから。