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プロフェッサー怪奇学のB級オカルト『怪』体新書 ~ぬっぺふほふの嬰児 11年周期の奇祭~  作者: 雪車町地蔵
第六章 プロフェッサー怪奇学の仮説推理

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第二話 伊賦夜島連続巫女失踪事件

「これは、何事ですか」


 騒然とする民衆を割って、つかつかと歩んできたのは褐色の肌の美丈夫。

 勇魚宮司が、襟元をただしながら、やつれた顔でこちらを見た。


「……まさか」


 一瞥して状況を理解したのだろう、彼の顔が青ざめる。


「馬鹿な、あり得ない。ありえては、いけない──」


 譫言のように呟く勇魚宮司。

 だが、これで終わりではなかった。


 すべて、ここから始まった。


「た、たいへんじゃ! 赫千菊璃の遺体が派出所から消えてなくなった! それに、笄十郎太の遺体も消え去って、か、代わりに、訳のわからん白いぶよぶよが──」


 突如駆け込んできた田所巡査が、取り乱しながら叫ぶ。

 彼によれば、菊璃巫女の遺体は派出所の方で保管していたが、気味が悪くて出来るだけ見ないようにしていたらしい。

 それが、今朝になって忽然と消えたというのだ。


「鍵はかけちょった! じゃっどん、毎日見とったわけじゃなかけん、いつ消えたかまでは……」

「田所巡査、十郎太さんがどうこうとも、言っていましたね?」


 ぼくはなんとか立ち上がり、彼に尋ねる。

 すると巡査はコクリと頷き、


「ここに来る前、もしやと思ってカジロブネの落ちた場所に行ったんじゃ。そしたら──」


 言葉に詰まった彼を押しのけ、ぼくは走り出す。


「あ、学者先生! わしらもいくぞ」


 触発されたように、鬼灯翁が。

 そして勇魚さんたちも、後に続く。


 祭祀堂の反対側、貌無岩の直下にあたる場所へと駆け込んだぼくが見たのは、衝撃的な光景だった。


 同じだ。

 同じだった。


 それは、祭祀堂で見たのと同じもの。

 人間の水死体のような肌を持つ、肥え太った異形が、下半身を巨岩に押しつぶされて横たわっていた。

 ……昨日まで、十郎太さんがいた場所にだ。


 くらりと目眩がして、思わず頭を押さえる。

 やさしく、背中を支えられた。


「思慕くん」


 振りかえると、厳しい表情をした彼女がいて。

 そして、追いついてきた島民達が、騒然とし始める。

 誰もが顔色を悪くして、


「アワシマ……」

「祟りだ」

「堕歳児の祟り……」

「十郎太はアワシマに成り果てたのか」


 などと、口々に言い始める。


「もどせ……」

「……もどせー」

「もどせぇぇ、ながれぇぇ」


「ええい、静まれ!」


 口々に呪文のような言葉を発しはじめた島民達を、勇魚さんが一喝する。

 だが、彼らはやめない。

 勇魚さんは舌打ちをすると、取り巻きたちを呼び集めはじめた。

 そうして、ちらりとこちらを向く。


「稀人、逃げるぞ」


 背後から聞こえたのは、酷く小さな声。

 次の瞬間、ぼくは思慕くんに思いっきり手を引かれていた。


「逃がすな、追え!」


 勇魚さんが叫ぶ。

 島民達が目の色を変える。


 そこではじめて、恐怖心が湧き出した。


「ひっ……」


 喉元まででかかった悲鳴を飲み込み、力の萎えかけた足に活を入れ、思慕くんにひかれるまま、森のなかへと飛び込む。

 背後では、放たれた猟犬のごとく、島民達が走り出している。


 なぜだ?

 何故ぼくらは追いかけられている?


「自分で考えろ、莫迦!」


 考えろと言われたって、さっきから頭が働かない。

 何をしているのか解らないし、何をしたらいいのかも解らない。

 ただ、振り向けば鬼のような顔をした島民達がいて、それが、無性に恐ろしくて。


「し、思慕くん、どこへ!?」

「さあな! とにかくいまは逃げの一手だ!」


 メチャクチャに森の中を走り回り、獣道を滑り降りて、そのまま横合いに飛び込む。

 寸前まで自分たちがいた場所を、ほんの僅かな時間のあと、勇魚さんの取り巻きたちが、凄まじい形相で通り過ぎていく。


 彼らの手には、いつの間にか刃物があった。

 おそらく、眞魚木細工に入れてあったものだろう。


 いや、そんなことを悠長に考えている場合じゃない! 明らかにぼくは混乱している。

 これは異常事態だぞ、逼迫した緊急事態だ。

 このままでは、ぼくらは。


「あるいは、殺されるかもな」


 押し殺した声で、思慕くんが笑う。

 その額には、珍しくも冷や汗が浮かんでいた。

 走っている間に脱げたのだろう、フードが外れて、彼女の烏羽玉色の髪の毛が、びっしょりと雨の雫を吸っている。


「逃げるしかないとしても、この島から出る手段がない。それに、こんなところに隠れていたんじゃ、すぐに見つかって──」

「それなら、あたしがお役に立てると思いますがね」


 虚を突いて後ろから聞こえた声に、ぼくらは飛び上がりそうになった。

 拳を構えながら振りかえれば、そこには、


「おっと、その体力はとっておいてくだせぇ。へっへっへ、なぁに妖しいもんじゃありませんよ。あたしは──」

「ひ、蛭井女史!」


 蛭井遙香。

 びっしょりと雨に濡れた、ルポライターがそこにいて。


「教授さん、協力してくださいよ。いまこそこの島の──非道を暴くときですぜ」


 酷く真剣な表情で、そう言ったのだった。


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