第八十四話 風は再び吹き荒れる
「ありがとう、ありがとう。アータ達ならきっと連れ戻してくれると思ってたわ。」
俺達がウィーウィンドのねぐらへ戻り、オーブを見せると、セラエノは額に汗を掻き、ぜいぜいと息を荒げながらそう言った。大分限界が来ているらしい。ここに来るまでにも幾つもの浮島が沈みかけているのを目にしてきた。
「早くこれを。…おや?」
ジュゼがオーブを差し出すと、それは自然とセラエノの胸元へとふわりと浮き上がった。
「力を…意思を感じる…。ウィーウィンド様の…。」
するとセラエノの体の周りに、緑色の風の魔力のオーラが漂い始めた。それはそのオーブから発されているようであった。オーブが激しく輝き始める。
「ああ…。これなら…。」
セラエノが瞳を閉じて集中し始める。いつの間にか額の汗は消えていた。息も自然な状態へと戻っている。彼女の体力が回復しているのだろうか。
セラエノが念じ始めると、外に見える浮島が目に見えて動き始めた。重力に引かれて沈み始めていたそれらが、上昇気流に乗って空へと浮き上がる。
やがて聖域全体に風が吹き始めた。強い風が。横に上に下に、縦横無尽に駆け巡る。これが本来の風の聖域なのだろう。
「もう大丈夫。ウィーウィンド様のお力で元に戻せた。アータ達のおかげよ。」
セラエノが念じながらも俺達に声をかける。
「すべき事をしただけだ。」
「それがありがたいっつー話よ。ま、アタシ達が見込んだ魔王様なんだから、これくらいはしてもらわないと困るわけだけど。」
言ってくれるものである。だが少し嬉しかった。
「とりあえず、また変な奴が来ないようにしておく。何日くらい掛かるんだ?」
『恐らく三日程度かかると思うんね。すまんけれども、よろしゅう。』
オーブから声が聞こえた。ウィーウィンドの声だ。
『セラエノはんが力を貸してくれるもんで、アタシも何とか話せるようになったんよ。改めてありがとうな。』
「いいっていいって。三日だな?」
俺は確認しながら、シールドモードを発動、今度こそねぐら全体を包み込むように、氷の障壁を作り出した。風の属性に抵抗出来るようにだ。力を十分に込めたので、三日間守るのには足りるだろう。
『ありがとな。これで安心やわ。』
「アタシからも礼を言うよ。ありがと。」
「気にするなって。それより、もし万が一何かあったら言ってくれ。」
「ええ。通信は可能ですか?」
ジュゼの問いに、セラエノが肯く。
「大丈夫。多分魔王城まで届くと思う。それと、土の聖域までも。」
『せやね。今のセラエノはんの魔力なら大丈夫やと思うわ。』
ウィーウィンドがそれに同調した。
「…土の聖域か。」
そういえばそれが本来の目的だった。正確には、土の聖域で力を借りて、大地を作り出す事が目的であるが。色々…というかアエイローの襲撃で吹っ飛んでいた。
「ええ。行きましょう。」
ジュゼが促す。そうだな。とっとと済ませよう。大分遠回りしている気がするし。
『コリズィーオはんに会いにいくん?』
ウィーウィンドが尋ねて来た。誰それ。
『アタシらと一緒に戦った八大魔獣の一匹やねん。土の聖域守ってはるはずやわ。』
そんな名前なのか。…変な名前だと思ってしまったのは内緒だ。
『気ィつけてな。あの方、ちょっと神経質なところあるさかい。』
だから何弁なのよ。神経質か。…神が神経質かぁ。また不思議というかなんと言うか。
「分かった。気をつける。忠告ありがとう。」
『気にせんといて。それより、頑張ってな。魔王稼業。応援しとるで。またアタシが元気になったら見に来てや。』
「うむ。そうさせてもらう。」
そう言って俺達は、再び風に乗り、時にはガルダストリームの力で風の流れを作り出しながら、風の聖域を後にした。聖域の入り口には強風が渦巻いていたが、ガルダストリームが生み出す自身を纏う気流の前には無意味であった。
風の聖域から出て、一息つく。
「慌ただしいが、このまま行くか。」
まだ日は暮れていない。謁見する時間は十分にあるはずだ。
「ええ。大丈夫です。行きましょう。」
ジュゼは再び転移魔法を唱え、先程の長老の家の近くへと転移した。そこから歩いて数十分。切り立った崖の先にある、土の未開拓領域ーーー聖域へと辿り着いた。




