第八十一話 風の神ウィーウィンド
「風が止んだ…。」
「つまりウィーウィンド様がお倒れになられたとゆー事。急ぐわよ。」
セラエノの言葉に俺達は頷き、地裂を渡り風の聖域へと入っていった。
風の聖域には草花が溢れ、そしてその上には大地が風に揺られて浮いていた。風の魔力が大地を浮かせているのだろうが、どれだけの魔力が必要であるか。考えるだけで恐ろしい。だが風が凪いだ事で、その大地が少しずつ地上へと落ちているように見えた。
俺がそれを心配そうに見つめていると、セラエノが言った。
「アータが気にしてる事はわかるわ。でも大丈夫。ウィーウィンド様が倒れたからといって、聖域内の魔力が無くなるわけじゃない。問題はあの方の復活に必要となる魔力をどこから捻出するかという話よ。基本的には聖域内の魔力を使うことになる。でもそうなると、一時的に魔力を余計に使用することになる。そしてそうなれば聖域内のあーいう空中島とかが落ちてきちゃう。それを防ぐためにアタシのようなハルピー族の族長が、一時的に聖域の守護と維持を行うの。」
「それでアンタが死んだりは?」
「アラ心配してくれるの?あんがと。でも大丈夫、あくまで一時的な措置よ。」
それを聞いて少し安心した。彼女には世話になった。理由があるとはいえ、別れは辛い。
「ただとにかく急がないと。聖域自体が崩れてしまうと、ウィーウィンド様も倒れたまま、魔界のバランスも崩れかねないわ。」
俺達はその言葉を聞き、足を早めた。ゴゴゴという音と共に少しずつ空中の地面が降下しつつあった。
「キュル、ウィィィ…。」
鳥の鳴き声に似た、弱々しくも大きなさえずり。それが響く場所へと俺達は到達した。その中央には声の主と思われる、羽の抜けた巨大な鳥が倒れていた。
「ウィーウィンド様!!」
セラエノが叫びその鳥の元へと向かう。俺達はそれに続く。
一面には枯れた木の葉のように、その巨大な鳥が生やしていたであろう羽が、色を無くした状態で散乱していた。
「おお…セラエノちゃん…。来てくれたんね…。」
ちゃん。"ちゃん"という年齢だろうかという疑問が頭をよぎったが、捨てた。余計な事は考えない事だ。
「そっちは…魔王ちゃんやね…。こんな時に…よく来なはったわ…。けんども…ごめんなぁ、キュルリリリリ…、大したおもてなしもできへん…。」
関西弁に近い。京都なまり?混ざってる?なんかよう分からんが色々訛っている言葉遣いでその鳥、ウィーウィンドは言った。
「い、いや、気にしないでくれ。それより大丈夫なのか?」
そっちに気を取られながらも口にはしないようにしながら言った。
「大丈夫やわ。ただ…小一日…羽代わりに時間がかかるんよ…。セラエノちゃん…、代わり、任せてええかしら。」
「承知しましたわ。ゆっくりお休み下さい。」
「うむ…そうさせてもらうわ…頼むで…。」
やっぱり色々混じってないか?いや気にしない気にしない。今は真面目な場面なのだ。
セラエノが肯くと、ウィーウィンドは目を閉じ、眠りについた。彼女の周りを繭のように緑色の光の壁が包み込み、やがて小さなオーブへと縮んでいった。
「さて…。」
セラエノはそのオーブを拾おうと近く。するとその時、セラエノや俺達に黒い影がかかった。
「ん?」
「え?」
「お?」
俺達が同時に空を見上げると、落下し始めていた大地が止まっている中、何かが上空からきらり煌めきながら急降下してくるのが見えた。
明らかにやばい。
俺はとっさにアウェイクニングバロットレットを起動した。
[目覚めたる魔界の王!!ヘル・マス・ター!!][降臨]]
そしてヘルマスターワンドをシールドモードへ変形させた。いつも世話になるなこの形態。
[Mode Shield!!]
そして風のバリアを張った瞬間、そのバリアに何かが触れた。
「グギェーギェギェギャ!!」
何かの鉤爪がバリアに食い込んだ。だがバリアを破る程までには至らなかった。その隙に俺はその鉤爪の持ち主を見た。
黒い鷲のような巨大な鳥であった。
「なんだこいつ?!」
「アタシも見た事ないわよ!?」
「まずい!!魔王様!!ウィーウィンド様のあれを!!」
ジュゼの叫びで気がついた。ウィーウィンドが変化したオーブがバリアの外にある事に。そして、その黒い鷲の二本の鉤爪の片方が、そのオーブを捉えていた事に。
「最初からあれが目当てだったのか!?」
俺は急いでバリアを外し、バスターモードへと切り替えた。
[Mode Buster!!][ヘルマスター!!][サンダーバスター!!]
トリガーを弾き、雷の弾丸を発射する。だがそれは、巨躯から繰り出される羽ばたきにより俺の体勢が崩れた事と、その巨躯に似合わぬ俊敏さから、謎の鷲を捉える事はできなかった。
「ゲギェー!!ギャッギャッギャッ!!」
明らかに嘲笑めいた鳴き声を上げ、その鷲は聖域の更に奥の方へと飛んでいった。ウィーウィンドのオーブと共に。




