第七十八話 オークに偏見の目を向けてはいけません
俺はティアとトンスケに業務処理を、サリアに防衛を任せて、土の聖域の近くの集落へ向かうことにした。聖域は大地が荒れ狂っているので、直接行くことは出来ない。…こういう流れもそろそろ慣れてきた。なので集落で情報収集というわけである。
「その集落って誰が住んでるんだ?」
俺の問いにジュゼは答える。
「豚族の集落なので、オークとかですね。」
「オークかぁ。」
オークやゴブリンにはあまり良いイメージがない。元の世界の創作のせいだろうが、こう…。
「ダメですよ、そういう目で見ては。実際は全然違いますからね。」
ジュゼが釘を刺した。まぁ確かに、実際に会ってもいないのに偏見の目で見るのは失礼だ。それに、この世界ではああいうウスイホンのような性格ではないかもしれない。ちゃんと実際に見てみなければ。
俺が気を付けると言うと、ジュゼは満足したように、転送魔法を唱えた。そして俺達の体は、光に包まれ、オーク達の集落へと飛んで行った。
「ぶぅー。」
家畜の豚が鳴き声を上げた。
転送先はのどかな畜産農家がいっぱいという感じであった。牧場やら何やらが建ち、そこで家畜の豚や牛が鳴き声を上げていた。一方牧場の外を歩く豚もいる。これは野生…というか魔獣か何かだろうか。
「おお魔王様。こんな辺境までようこそ。」
その豚がすれ違い様に頭を下げながら言った。
「あ、あぁ、ええ、どうも。」
俺も釣られて思わず頭を下げた。そしてその豚が去っていった後も、その後ろ姿をキョトンとしたまま見てしまった。
「あー…?」
「魔王様の元の世界とは違うのです。この世界では、元々は豚達は知性が無い物として扱われていましたが、徐々に知性を磨くことで発展していき、特に地の魔法に特化することで、酪農に優秀な種族となり、やがてこの世界の畜産物の生産を担うようになってからは、八大種族の一つに数えられるまでに発展したのです。…数万年前の話ですので私も正確なところは知りませんが。」
ジュゼの言葉を聞いてもいまいち信じられなかった。元の世界では豚と言えばその…家畜とか…悪口扱いだから…。そのせいでいまいちピンとこないと思っていると、今度はオークらしき者が二足歩行で歩いてきた。姿形はイメージ通りの緑色で豚が二足歩行しているような感じである。身長は高めでドラゴニュートの体である俺より高いくらいだ。
「おや魔王様。このようなところに何か御用ですかな?」
そのオークが極めて礼儀正しく俺に話かけてきた。
「あー、いやー、その、何か困っていることはないかなと思ってな?」
予想外の言葉に、俺は思わず適当なことを言った。
「ははは。そうですか。それはありがとうございます。最近は魔王様の政策のおかげで、少しずつ改善しておりますので、今のところ大きく困っていることというのはありませんね。数年前の魔王様とは見違えるようで、全く感心しております。ただ、他のオークは困っている方もいらっしゃるかもしれませんし、不満を抱えている方もおられるかもしれません。是非いらしてくださったのですから、長老のところでお話を聞いてみて下さい。彼は一通りの意見を取りまとめておりますので。」
「あぁー。そうかぁ。ありがとう、参考にさせて貰うよ。」
俺は偏見が顔に出ないように注意しながら答えた。
「ええ。そうして下さると私も嬉しいです。長老は集落の奥の方にいらっしゃいます。それでは、失礼いたします。」
そのオークは深々とお辞儀をすると、道を歩いて牧場へと向かっていった。
「…イメージと違う…。」
「だから言ったじゃないですか。」
「乖離しすぎだ。もっとこう…ブヒヒヒヒヒとか言うのがオークのイメージだったんだよ。」
「シーッ。聞こえたら失礼ですよ。」
俺は急いで口を閉じた。幸い周りには誰も居なかった。
「いや分かりますよ?そちらの世界の情報得ていますから。そう思われる気持ちもよく分かります。しかしこちらの世界はこちらの世界。向こうの世界は向こうの世界。切り分けて下さい。」
「はい。」
俺はシュンとなって答えた。気をつけねばなるまい。ブヒィとか言って人々を…その、アレコレするイメージを捨てねば。そんなもん口にした瞬間嬲り殺しにされても文句言えない。
「偏見の目は持たない、これ大切。」
俺は自分に言い聞かせた。
「その通りです。では長老様とやらのところに行きましょうか。何か知っているかもしれませんし。」
俺はジュゼの言葉に肯くと、道を歩いて集落の奥の方へと向かっていった。
「ちなみに、魔王様のイメージに関して一言付け加えさせて頂きますとーーー。ゴブリンの中でも下位に属する人々は、魔王様のイメージに近いと思います。ただ上位層、そうした人々を咎める立場の人々は全くイメージと違いますので、もし行く時はご注意下さい。」
混乱するからその辺は統一してくれねぇかな!?イメージと違うなら違う、同じなら同じでさぁ!!
俺は心の中で叫びながら、長老とやらのいる家の方へと向かった。




