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第七十六話 目覚めたる魔界の王|散紫水明

 水中に潜って数分。彼がどこにいるのかはわからないが、確か潜って行ったのを目にしたがために、俺達は暗い水中をひたすら下っていく事にした。


 やがて光が届かない深海へと到達した。


 水に遮られ、深海には光が届かない。だが不思議な事に、数刻前にイヌーンドの背中に揺られた時もだが、キラキラと何かが輝いていた。それは目である。魚族の、深海に適した体へと進化した者達の餌を見る目。生きのいい、本来深海にないはずの餌がやってきた事に歓喜している目であった。


 先程はイヌーンドがいたからか襲われる事はなかったが、二人しかいない今、邪魔するものはいない。徐々にその目がこちらへと近づいてくる。俺が身構えると、何かが下の方から迫り上がってきた。それを波で感じ取ったようで、光る目はどこかへと散って行った。


『どうだぁー?考えたぁー、結果はぁー。』


 俺達が近寄ってきた事を察知したイヌーンドが、他の魚族に割り込むようにやってきたのだ。


『どういうぅー、結果でもぉー、怒らないからぁー、聞かせてくれぇー。』


 そういう彼に対し、俺達は考えた結果を述べた。もしかしたら出来るかもしれない事。それには大地の力が不足している事。


 一通りの話をした後、俺は補足した。


『ただ、何れにせよ、空間を増やす事が出来ても出来なくても、この現状は改善させてもらう。つまり、上がった水位は元に戻すという話だ。魔界の環境を無理矢理改変して、そのままでいいよという訳にはいかないからな。そこは理解してくれ。』


 それに対しイヌーンドは肯くような動きを見せた。体が大きすぎてよく見えないが。


『うむぅー、それはぁー、仕方ないぃー。ワシもぉー、無茶をぉー、承知でぇー、言ったからなぁー。それよりもぉー、ワシらの事をぉー、考えてぇー、最善のぉー、案をぉー、提示してぇー、くれたことぉー、感謝ぁー、するぞぉー。皆々にもぉー、魔王の事はぁー、伝えておこうぅー。悪い奴ではぁー、無いとなぁー。』


 内心相変わらずまどろっこしいなと思いつつも、理解を示してくれた事には感謝していた。これで納得してもらえないと中々困った事になる。


『それで、一時この場を離れる前に、あの洞窟と水位だけは元に戻したい。何か方法はないだろうか。』


『うむぅー、それならぁー、ワシの力をぉー、使うが良いぃー。』


 するとイヌーンドが体を震わせ、力を込め始めた。その力が頭のツノの先に集中し、何かが形成されていく。それはバロットレット、プロトタイプのそれであった。


『ワシの力をぉー、持ってすればぁー、水を逆流させたりぃー、何したりぃー、自由自在ぃー。お主ならぁー、信用出来るぅー。いずれ来るぅー、例の化物にもぉー、使ってくれぇー。』


 俺はそのバロットレットを握りしめて出来る限り強く頷いた。


『ではぁー、洞窟にぃー、連れていくぅー。捕まるがいいぃー。』


 俺達は再びイヌーンドに捕まった。彼の背に再び揺られ、海溝の奥へと深く潜っていった。




「オゲェェェェェェェェ。」


 俺は再び吐いた。


『相変わらずぅー、汚いなぁー。』


「いい加減慣れたらどうですか。」


 放っておいてくれ。慣れないものは慣れないのだ。


『ともかく…俺達は、洞窟の外から水を操作する。終わったら思念を送るから、そのタイミングでぶつかって洞窟を閉じてくれ。』


『わかったぁー。任せてくれぇー。』


 俺の心の声にイヌーンドが頷き応える。飛ばされそうだからやめてくれ。


 俺達はその勢いに流されるように、洞窟の奥へと進み、そして聖域の外へと出た。ここならいいだろう。


「では魔王様。」

 ジュゼの言葉に俺は、うむと答え、そしてイヌーンドから貰った「ケトスタイダル」と書かれたバロットレットを折りたたんだ。


 [洪水!!]


 そしてヘルマスターワンドにデュアルボウトリガー、そしてアウェイクニングバロットレットと、ケトスタイダルプロトバロットレットを装填した。


 [アウェイクニング!!][ケトスタイダル!!]

 [[Hey!!Let's Say!! Calling!!]]


 ヘルマスターワンドとデュアルボウトリガーが叫ぶ。すると天からヘルマスターギアと、もう一つ、イヌーンドの小型版のような、角の生えた鯨を模した鎧が現れる。


 [目覚めたる魔界の王!!ヘル・マス・ター!!]


 ヘルマスターギアを装着後、その鯨型の鎧が俺の周りを青い光で包み込む。


 [Featuring!!]


 デュアルボウトリガーが叫ぶと、その鯨型の鎧は頭上で分解し、ヘルマスターギアを包み込むように装着された。


 [ザブザブバシャバシャ全て流す海嘯!!散紫!!水明!!ケトースタイダル!!]


 音声と共に、前部分の胴体が肩アーマーとしてくっつき、脚に尾ヒレ、腕のアーマーの上にヒレがついた。そして俺の額にツノの部分がサークレットのように装着された。


 [[降臨!!]]


 その音声と同時に、ケトスタイダルギアの装着が完了した。


「おー。」


 ジュゼが水中でパチパチと拍手の音を鳴らす。


「よし、いくぞ。」


 俺は水中洞窟の出口に向けて杖をかざし、水のアイコンをタップした。


 [Tidal-Water!!][ヘルマスター!!][タイダル!!][ウォーターワンド!!]


 そして水の流れをイメージする。洞窟から流れ出る聖域の水が元に戻るイメージ。上がった水位が元に戻るイメージを、頭の中で描きながら、俺は唸り声をあげる。


「うむむむむむむむ…。」


 するとそのイメージ通りに水が流れていく。水は高いところから低いところへ流れていく。だが今起きているのは逆。本来高いはずの聖域へと、水が流れ戻っていく。


「むむむむむむ…。ジュゼ…抑えててくれよ…。」


「勿論です。ですが…水の勢いが…。」


 俺の体が水で流されそうになる。そこをジュゼが重量増加の魔法などを駆使して何とか踏ん張る。


「我慢してくれ…。」


 何せ信じられないほどに上がった水位だ。戻すとなれば相当の魔力、時間、そして何より水勢を要する。それでも今やり切らなければ、一帯を囲う山々にも大きな影響を与えかねない。いや、既に与えている可能性がある。一気にやらねばならない。


「んぐぐぐぐぐ…ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 俺が力むと、更に勢いは増し、やがて水位は元の量と思われるところまで戻った。


『今だ!!』


 イヌーンドに思念を送る。


『りょーかぁーい。』


 ズゥゥゥゥゥンという音とともに大地が揺れた。イヌーンドが岩盤へと体を叩きつけたのだろう。俺達はバランスを取るので精一杯となり、水の操作が一時止まった。


 だが水がこれ以上増す事はなかった。元の水位へと戻ったまま、洞窟からも水が溢れ出る事もなかった。周りのマリーネ達がキョトンとしている。だがやがて、元に戻った事を受け入れて元の生活へと戻って行った。切替早いな。


『ありがとう、何とかなったよ。』


 俺はジュゼと一緒に、海岸線に戻った場所へと座り込みながらイヌーンドに語りかけた。


『気にするなぁー。元を正せばぁー、こちらのぉー、落ち度だぁー。そのぉー、力がぁー、あればぁー、聖域のぉー、水壁もぉー、超えられるだろうぅー。ではぁー、また後でぇー。大地の力がぁー、手に入ったらぁー、会おうぅー。』


 そうしてイヌーンドは再び水中へと潜っていき、思念が届く事も無くなった。


「…ふぅ。」


 俺はようやく一息つくと、ヘルマスターワンドを解除し、元の姿へと戻った。


「お疲れ様です。」


「全くだ。予想外の一日だったよ本当。」


「ですが、イヌーンド、水の神の力を得られたのは幸運でした。少しは支持が上がるかもしれません。」


「だな。だが、その前に。」


「ええ。住処の問題を解決しなくては。…ですが魔王様にはやる事があります。」


「よいしょ、なんだ?」


 俺は立ち上がってそう尋ねたが、


「あ、お?」


 脚に力が入らず、フラフラと砂場に倒れた。


「ふぎゅ。」


「魔力の使いすぎです。今日はもう帰って休んで下さい。」


 そう言うとジュゼは転移魔法を唱え始めた。苦労かけるね、全く。俺はそう思いながらも、この水の聖域でのドタバタで体力を浪費しすぎたのか、落ちてゆく目蓋を抑える事が出来なかった。


「…ぐぅ。」


 そして俺は眠りについた。

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