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第六十七話 振り返り

 ユート脱走の翌日、俺は玉座に座り現状を整理しようと試みた。


 俺の任期は残り三年半程度。支持率は約50%。これは各種族・属性の神々の口添え等もあっての事で、実際の選挙で果たしてどこまで有効かというのは分からない。ただ他の候補者はまだ名乗り出ていないため、他の候補者の政策次第ではなんとか再選させて貰えそうなところではある。


 他方、内政における課題は幾つもある。まだ住居が足りていない。食料の安定供給も必要だ(城内の者達にさえ十分な食料が行き渡っているとは言えない)。移動・輸送手段が発展し始めてきた事で、街の人口や産業も増えつつあるが、これはまだ竜族と狼族の集落に限った話であり、しかも大きめの集落にはまだ到達していないため、まだまだ改善の余地がある。これが改善出来ない限り、俺への信頼は落ち、支持率も下落傾向へと転化するだろう。


 更に外政、あるいはそれに関係する課題も散在している。一番大きなものが、謂わばテロ組織である「混沌の魔界」の首魁ユート・デスピリアを取り逃したままだという事だ。あの後国中を探し回ったが見つからなかった。透明化等の魔法で逃げられてしまったようで、それはつまり極めて大きな火種を残したままにしてしまったという事である。奴は元は自然界の勇者でありながら、魔法、特に闇の魔法ーーー即ち精神強制操作の魔法に長けている。過去には自然界全土を巻き込んだ紛争を起こしかけた。下手に動かれれば危うい。早めに見つけなければならない。


 加えて、それによる自然界との関係悪化も課題となる。こうなった一因には、自然界側でユートの取り扱いを決めかねていたという事もあり、表面上はそれほど気にしていない様子ではあった(こちらから防備の兵を送るという約束をした事もあるだろうが)。だが、王達の腹積りがどこまでかは分からないし、加えて自然界の住人からの魔界に対する反感は間違いなく上がってしまうだろう。これは更にもう一つの課題へと繋がる。


 そのもう一つの課題というのは、空から来るであろう怪物、デアーラ及びその眷属に対しどのように対処するかという点である。というのも、魔界の上に自然界があり、その先に宇宙からあるという地理関係上、迎撃に際しては自然界との協力が不可欠なのである。自然界を盾にするという事を考える者もいるかもしれないが、俺としてはその案は論外である。どれだけの犠牲を払う事になるか分かったものではない。避けるべきなのは間違いない。だが、変に自然界に軍備をおけば、魔界への不信感は増していく。自然界側との友好関係は、自然界を守るという意味でも大切なのだが、前述のユートの件もあり、俺個人はともかく、「魔界」「魔法」に対する不信感は根強い。


「はぁ。」


 この世界に来て何度溜息を吐いただろうか。頭が痛い。やる事は山積みで、崩せる気配がまるで無い。辛い。


「どうされました?」


 ジュゼが冷静な表情のまま尋ねてくる。心配そうな声色等は無い。ある程度彼女も何故俺がこうも溜息を吐いているか理解しているからだ。これはポーズというか、「今更何に対して溜息吐いているんですか」的な意味合いだ。それに対する俺の答えも決まっている。


「お前のせいでロクな目に合ってないなぁってさ。」


「いつもの事ですね。死ぬよりマシでしょう?」


「まぁな。」


 そう、俺がここにいるのは、この女のせいであり、俺が今もなお生きているのもまた、この女のお陰であった。


 もう半年以上前になるか。俺はこの女、ジュゼの儀式により、元の世界から意識だけを転移させられ、今の体、魔王エレグ・ジェイント・ガーヴメンドとして転生させられた。その前は選挙カーに轢かれて死にかけていた。もし転生していなければ恐らく今頃、天国があれば天国に、そうでなければ永遠の暗闇の中に閉ざされていただろう。死ぬ経験なんてしたくない。この間したけれど。あれは何というか、こちらの世界、魔法のある世界ならではの体験だ。元の世界、俺が元々生きていた、魔法の無い世界で、死後どうなるかというのは、かつて生きていた時点において未だ結論が出ていない難題であった。それに答えを出す立場にはまだ成りたく無かった。それに、こうやって悩まされてはいるが、同時に少しだけ楽しくなっている自分も居た。好きなシミュレーションゲームで、突然隣の国が宣戦布告して来た時のような、そんな緊張感がある。何よりこの世界には魔法という、今まで見たこともないものがある。ファンタジー世界の体験なんて、元の世界では到底出来るものではない。この魔王という立場に置かれ、無理難題を押しつけられたとしても、これはこれで得難い経験だと感じるようになってきた。…俺がただマゾなだけかもしれない。



 さて、この後どうしたものか。


「ユートの件はどうなってる?」


 俺はトンスケに尋ねた。トンスケは死霊族スケルトンであり、俺に対し特に素直に言う事を聞いてくれる頼もしい奴だ。問題は飄々としているというか、多少ボケているところなので、振るべき仕事を考えなければならないところである。主にこの手の軍事関係の仕事には優秀なので、それを担当して貰っている。今主にやっているのは、各都市の防衛と、何よりも例の脱走者、ユートの捜索である。


「残念ながら成果はありませぬ。引き続き警備を厳重にしておりますが、なかなか何とも言えないですぞ。」


「そうか…。」


 魔界というのは広い。元の世界で言うところの地球の地下部分に当たるので、幾ら人が居てもカバーしきれない程の広さを有している。


「出来る限り頼む。特に自然界との連絡口の警備を厳重に。」


「承知致しましたぞ。」


「金周りは?ジュゼ。」

「相変わらず素寒貧です。輸送手段の建造や、その後の居住施設の建築などで、物資・人員の輸送等で入ったお金がどんどん消えていきます。自然界との貿易で辛うじて赤字の額は減少傾向ですが。」


 俺の溜息の時より遥かに悲しそうに彼女は言った。ジュゼ・トーン・リマイド。金の亡者であり、俺を巻き込んだ張本人。だがそれでも一番頼れる女である。特に内政に関しては彼女の右に出る者は居ない。右に出る者は全員今の体の元の持ち主が殺したらしいが。問題は着服を良くしがちという点だが、そこはトンスケにも見張ってもらっている。今のところ着服出来る金も限られているので、そういった心配が少ないのは、喜んでいいのか悲しんでいいのか。一方で彼女は先程も言った通り頼りにはなる。俺に対しては多少の罪悪感があるのか、或いは俺の仕事振りに尊敬してくれているのか、よく動いてくれている。


「後者はありません。」


 さいですか。というか心を読むな。


「まぁ地道にやるしかないよ。のんびりやろう。」


「そうそう。ファイトー。」


 呑気な声を上げた二人は、時の賢者ティア・リピートと、当代の勇者サリア・カーレッジ。ティアは時の魔法を操る年齢不詳(一万歳以上は確定)であり、主に魔法の開発や、今後の方針、特に例の怪獣デアーラと、各属性の聖域に関する情報提供などをしてくれている。だがこいつは年齢のためか記憶を定期的に消去しているせいかボケが始まっている。それと人と時間の感覚が違うので、今みたいな呑気な事を言ってくれる。こういう時は適当に流し、危機に陥った時に頼るのが一番だろう。


「人をボケ老人みたいに言わないでよ。というか年齢については触れないでよ。」


 事実だから仕方ねぇだろ。というかお前も心を読むな。どいつもこいつも人の心をなんだと思っていやがる。


「アンタは顔に出やすいのよ。」


 サリアにだけは言われたく無い。こいつは純真無垢の塊であり、なんというか、天然というか、太陽みたいなヤツだ。これはいい意味で言っている。とかく自分が正しいと思える事に純粋に真っ直ぐに突き進む事が出来る、かといって自分が絶対に正しいとは思わず、立ち止まって考える事も出来る、まさしく勇者の鑑と言える奴だ。一方でこういう時は適当で、いざという時にしか役に立たない。そしていざと言う時は少し考えた後はとにかく突っ込むという傾向にある、猪みたいな奴である。そして顔に出やすい。何も言わなくても顔を見れば言いたい事がわかる程に表情が豊かである。


「今アタシの悪口思ってるでしょ。」


 奴がジト目でこちらを見つめてきた。こいつは魔法を使えない。どうやら俺も顔に出やすいというのは本当らしい。


「まぁそれは置いておいて。」


「ちょっと、置いておかないでよ。」


 無視する。


「ともかくだ。ユートを捕まえるのは最優先として、だからと言って何もしないわけにもいかない。…何から手をつけたらいいと思う?」


 その問いに対しジュゼが口を開いた。


「思いますに、一度各地を視察するのは如何でしょう。未だ魔王様の評判が上がらないのは、元のエレグ様の悪評が残っているのもありますので、変わった事を知らせるためにも、行った事の無い場所へ行って挨拶するとか。加えて、実際に現場に行く事で、その地に足りないものを確認して、今後の方針の決定にも活かせるのではないかと。」


「まぁ無難だよね。最近はそっちに割く人が足りなくて各集落の情報も入ってこないし。」


「軍にも限りがありますからな…。ユートの件で動けない分、魔王様に直接行って頂くのは良いかと思いますぞ。」


「うんうん。」


 ジュゼは相変わらず真っ当な意見を出してくれる。他の皆もその意見には同意のようだ。…サリアは最初からうんうん唸るだけである。本当に考えてくれているだろうか。


「それがいいか。トンスケ。ユートの件は引き続き頼む。ティア、サリア、留守は任せた。ジュゼ、移動と同行を頼む。」


「承知しましたぞ。お気をつけくだされ。」


「はーい。」


「アタシも行きたいー。」


「城に何かあったら大変だろ。お前の力を頼りにしてるんだから、ここで守っていてくれ。」


 サリアは俺が持つ「ヘルマスターワンド」と対となる「ブレイブエクスカリバー」を持っており、それを使う事で「ホープフルブレイブギア」を装着、一騎当千、いや一騎当億とも言える程の力を発揮する事が出来る。俺も同等の力を有する「ヘルマスターギア」や属性の力を高める「デュアルボウトリガー」、時間や空間を操る特殊ギアを持っている。二人で同時に出かけてしまうと、魔界の戦力が偏ってしまう。サリアには留守番して貰い、いざという時に活躍してもらうのが一番なのだ。


「ちぇっ。」


 彼女は舌打ちをしつつも、分かったという顔をした。


「じゃあジュゼ、どこから行く?」


「そうですね、今のところ支持率が芳しくない、魚族ーーーマリーネ達の集落へ向かうのは如何でしょう。


 基本的には全部周るつもりでいたので、最初はどこでも良いと思った。俺が同意すると、ジュゼは転送魔法でマリーネ族の集落へと俺と共に転移した。




 転移直後、俺達の視界は突然、水に包まれた。

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