第六十三話 闇を認め、闇と共に
「まァ掛けなよ。」
コスマーロの神殿に着いた。そこは荘厳な外見…かなぁ…、少し訂正しよう、少なくともネオンの看板以外は荘厳な神殿らしく見えるそれと大きく異なり、ネオンの看板やらミラーボールやらがクルクル回転し、室内を幾つもの色に染め上げていた。そこにコスマーロが指パッチンと共に呼び出した机と、椅子が二脚。片方にコスマーロが座り、もう片方をその骨となった指で指しながら言った。俺はどうする事も出来ず、ただ言われた通りにそこに腰掛けた。魂の状態で腰掛けるというのも少し変な話かもしれないが、とかくそういう事が出来たのだ。
「まぁ正確にゃぁ、欲だけじゃない。心の奥に潜む”罪”そのものが、心の力の源なのさ。」
罪が力とは、またどういう事だろうか。確かに何か行動を起こす裏には、少なからず何らかの思いが絡んでいるとは思うが、その思いが罪だというのだろうか。
「YEAH!!」
心を読んで肯定された。
「俺が心を読めないのはせいぜいアウローロのBBAくらいなもんSA!!アイツはキラキラ眩しいヴェールでキッチリ自分の心をガードしてるからな!!」
面識はないが、それなりの歳なのだろうか。その手の人?かどうかも知らないが、BBA扱いされると大概の女性は怒るのでは無いだろうか。
「イェーイェー…ご尤も…。つい調子に乗っちまった…。絶対黙っててくれよNA…。でないと俺がバラバラに解体されちまう…。」
分かった、黙ってるよ。
「Oh、流石魔王様!!話が分かるぅ。」
いいから本題に入ってくれ。
「OKOK…まぁそんな焦んなって。」
そういうとコスマーロは両手を組んでこちらを見つめてきた。
「例えばアンタが魔界を良くしたいと思うだろ?それは何の為だ?人の為?自分の為?」
まぁ…両方じゃないか。支持を得るためにやっている部分もあるし、それが魔界の住人のためになると信じてやっている部分もある。どちらか一方だけ、特に魔界の住人のためにだけ、なんて言ってしまうと嘘になる。勿論、俺が魔王でいた方が、少なくとも喫緊の問題たる例の宇宙怪獣への対応などの面から、魔界の住人のためになるという思いもある。思い上がりと言われるかもしれないが、俺はそう信じているわけだ。
「So. アンタの心の中には色々な思いが渦巻いているわけだ。自己防衛、自己顕示欲、ある種傲慢とも言える思い、一方で他者を思いやる心、慈愛。だがそれらを動かすのは何だ?根底には結局のところアンタが”ああしたい”、”こうしたい”という願いだ。謂わば”欲”だ。欲が全ての原動力ってこった。」
ちょっと無理がないか?なんでもかんでも欲ってのは…まぁでも…無くはないか。
「でも欲ってのは罪だ。強欲!!傲慢!!罪にもいろいろあるよな。でもそれが悪い事か?NO!!罪を持たずに生きる奴がいたらお目にかかりたいね!!如何なる生物だろうと全ての命は罪を背負う!!生きている限り、いや死んだとしてもな!!人は自然を食らい、魔物は人を食らい生きている。みんなそうさ!!誰かを助けたい?それはお前の傲り昂りじゃないとどうして言い切れる?言い切れない!!」
コスマーロは立ち上がり、骨しかない両手を振りかぶると、それを机に叩きつけた。机は真っ二つに割れて倒れた。
「だからどうしたァ!!そんなこと知った事か!!俺は俺のやりたいようにやる!!…それはそれで一つの罪、そして欲望。だがそれこそが人の原動力となる。それが心の闇。人は誰でも闇を抱える。それを制御する事で、心の力の源となるのさ。」
コスマーロは急に落ち着いた風になると、再び椅子に座り直した。腰から先がないので、そういう風に見えるだけだが。
「まぁそういうこった。」
「…つまり、人が何かをする、それには必ず罪や欲望が多かれ少なかれ付き纏う。それが心の力の源、って言いたいわけか。」
「Exactly(その通り)!!そして闇の魔法とは、そういった心の根底に眠る、自分なり相手なりの欲望を操る魔法なのSA。危険だろう?怖いだろう?だがだからこそロックだ。唆るというもんだ。そう思わねぇか?」
勢い良すぎて付いていけてない面はあるが、まぁ分かる。
「アンタをこういう目に合わせたのは、自分でそれを見出して貰うため、それと死霊族の生き方ってのを見て貰うためさ。どうだった、ミンナ生き生きしてただろう?」
「確かに。」
昔俺がいた世界の人々よりも自由でノビノビと生きていた気がする。
「みんな欲望全開だからNA!!ここはそういう場所SA!!死んだ身なんだZE?残った人生自由に生きなきゃ!!…ま、死霊族、つまり生き返る条件にもその辺が絡んでくるんだがNA。」
「条件?」
「世間一般じゃあ魔力持って死ねば死霊族になるなんて言われてるが、実際は違うのSA。俺はこの一万年闇の魔力と付き合ってきたからNA!!その辺はYU-SHIKI-SYAだぜ!!」
よく知っていると言いたいらしい。それは何だよ。
「欲望さ!!生にしがみ付く心!!まだ死にたくない、あれがしたいこれがしたいという願い!!それが死霊族へ導くのさ!!死の間際、そう強く願う事で、体内の闇の魔力が活性化し、消えゆく命を体に引き留める。そうして出来上がるのが死霊族SA!!樹々とかもそうさ!!口にゃしないし出来ないが、みんな切られる時に思うのSA!!「まだ死にたくないよ」ってNA!!」
それは、なんというか、悪い事する気分になるな…。樹々の伐採や土地の開発は、発展には欠かせないが、その過程で出来上がる死霊の材料は全部「死にたくない」と思っていたそれらの物質の成れ果てた姿というわけだ。机も、魔王城も、全部そう。そう思うと心が痛くなってくる。
「そうだろ?だがそれが現実さ!!アンタだけじゃない、この世に生きる全ての命は、何かの命を奪って生きている!!野菜だってそうさ、みんな命がある。それを奪う権利は誰にある?」
「誰にも…。」
無い。誰かの命を奪う権利なんて無い、そう言おうとした時、コスマーロは割り込んだ。
「NOOOOOOOOO!!"誰にだってある"のさ!!だってそうしないと生きていけないからな!!アンタ死にたいかい?」
「死にたくは…無いけど…。」
「だろ?だったら諦めな!!アンタも俺もミンナそうさ!!誰かを傷つけ生きている!!それを認めて初めて前に進めるってもんさ!!
そういってコスマーロは再び立ち上がった。
「ここにいる奴らは皆そうさ、ミンナそれを受け入れた!!だからここにいる!!自分達が誰かを傷つける。でも生きていたい。そんな罪を背負う事に自覚した連中さ!!闇の魔力を受け入れるってのはそういうことSA。」
そしてコスマーロは俺に指差して言った。
「アンタにその勇気はあるかい?アンタはどんな罪でも背負う覚悟はあるかい?」
俺はしばし考え、口を開いた。




