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第六十一話 思いを叫べ、憤怒と共に

 体の上でぷかぷかと浮いているだけでは何も始まらない。ともかく前に進もう。…前ってどっちだという疑問が浮かぶ。辺りは闇で覆われ、真っ暗で何も見えない。

 俺は唯一見える俺の体の、頭の向く先へとまっすぐ進む事にした。魂で動くというのは初めての経験なので、本当にまっすぐなのかは分からない。フワフワと浮遊感が俺の体を包み込んでいるので、なんというか現実味も無い。夢の中で空を舞っているような感覚だ。それに真っ暗闇の中をまっすぐ進むというのは思いの外恐怖に襲われるものであった。手を瞑ったまま歩く感覚だ。前に何かあったらどうしようとかそういう事を考えてしまう。魂なのだからぶつかる物も無いような気はするが。

 そうこうしている内に、辺りを包み込んでいた闇が薄れてきた。どうやら境界線の付近からある程度の場所にしかこの闇は存在していないようだ。徐々に光が差し込んできた。ようやく出口だ。お化け屋敷の出口に急ぐかのように、俺は急いで駆けて行った。


 闇を抜けた先に何があるだろうか。闇の聖域という名前からして、普通は死者の国然としたおどろおどろしい雰囲気に包まれた場所を想像するだろうか。或いは荒びれた神殿、神社、その他もろもろ。爛々と紫や黄色に光る髑髏が宙を舞う。そんな印象が浮かぶ。少なくとも俺はその瞬間までそう思っていた。だからどんな光景が広がっていたとしても驚くつもりは無かった。


 無かったんだが、実際のそれは俺の予想を大きく超えて…超えて?いた。


 光の先には様々な建物があった。

 ネオンの看板、響き渡るドラムやギターの音。今までなんで聞こえなかったんだと疑問に思う程の大音量が鳴り響く。そこを行き交うゾンビやスケルトン。ノリノリで腕の骨や零れ落ちそうな指を振り回している。

 もう一つの建物はネオンの看板は変わらないが、ハートの形の看板がピンク色に輝いている。…大凡の予想はついたので、これ以上は言わない。だが疑問はある。死霊族がどうやって…こう…キャッキャウフフするのだろう。だがよく考えたら想像したくないのでやめる。

 他にもまだある。食堂らしき建物。魂にも嗅覚はあるらしく、その建物から匂いが漂ってくる。臭い。腐った肉の匂いである。

 次は…なんだあれ。椅子と机がいっぱい。そこにゾンビやスケルトン、リッチが腰掛け、ぐてーと手を伸ばして机に横たわっていたり、ソファのようなもので横たわっていたり。寝ているようである。

 その他にも色んな建物が立っている。そこには死霊族がわんさか。皆楽しそうである。


 なぁにこれぇ。


 生きている間より楽しそうなんだけど。なんだこの光景。さっきすれ違ったローテンションのゾンビは一体なんだったのか。

 困惑と共に辺りを見回しながら、地面へと降りていく。地面は先程と同様に枯れ果てている。辺りの活気とは大違いだ。一体ここで何が起きているというのだろうか。

 その時、あまりに周りに集中しすぎていたため、一体のスケルトンの接近に気付かなかった。そいつは気付くと俺の目の前に居た。気付かれたか?魔王が魂の姿で何やってるんだ?とか聞かれたらどうしよう。でもさっきのゾンビも気にしてなかったしあんまり俺って有名じゃないのか?とか思っていると、そのスケルトンは俺が居ないかのようにすり抜けていった。

 拍子抜けである。

「魂だと気付かないのかな?」

 聞こえるかどうかギリギリの大きさの声で呟いてみるが、何の反応もない。耳が遠いのか、それとも。

 魂の姿がどういう能力を持っているのか、何が出来て何が出来ないのか、その辺りがいまいち分からない。困ったものである。

 はて。

 ふと、魂の姿という単語から、ある事を連想し、掌を見た。いつも通りの鱗と肌が一体化した、ドラゴニュートの掌だった。俺の魂は、エレグの姿、つまり元の体と同じ形になっていた。少し残念だった。元の体に久々に会えるのではと内心期待していたのだが、転生扱いだから当たり前か。

『お前さんの魂は完全にあの体に溶け込んじまったからな。形もそうなっちまうのSA』

 コスマーロの声が魂に響く。

『魂は他の奴らには見えない。だから安心して寛いでいきNA!!ここでゆっくりしながら、心とは何かを探すといいZE!!』

 そういって声は聞こえなくなった。気軽に言ってくれる。俺は今にも死にそうだと言うのに。そもそもなんでこんな馬鹿騒ぎが起きてるんだ?…うむ、何はともあれそこから探っていく事にしよう。それがその…えっと…心の力の源だっけ?それに繋がるのかもしれない。


 俺はとりあえずライブ会場…もうそうとしか形容出来ない建物へと向かった。


「死者のみんなぁぁぁぁぁっ!!元気かぁぁぁぁぁぁっ!?」

「「「YEAHHHHHHHHHHHHHHH!!」」」

 壇上のアーティストらしき死霊族が観客に叫ぶと、観客はそれに声援で返す。そんな光景が至るところで繰り広げられていた。壇上の種族はゾンビ、リッチ、スケルトン、その他諸々。姿形も、人型から獣型まで様々であった。

 ううん、まぁ外見から予想は出来たものの、なんだこれとしか言いようがない。これから何を掴めと言うんだろう。

「今日はアタシからぁ!!言いたい事があるぅ!!」

「「「WHAAAAAAAAAAAAAAAAT!!」」」

「この世界は腐ってるぅぅぅぅぅぅぅっ!!」

「「「YEAHHHHHHHHHHHHHHH!!」」」

 お前も腐ってるだろう。俺はその壇上で叫んでいた女性ゾンビに心の中でツッコミを入れた。

「魔王はアタシ達の事何も考えちゃくれなぁぁぁぁぁい!!だから!!この怒り!!怒り!!怒り!!この歌に載せて歌うぜ!!みんな聞いてくれ!!『自然界なんてぶっ飛ばせ!!』だ!!」

「「「YEAHHHHHHHHHHHHHHH!!」」」

 うわぁすげぇ物騒な歌を歌っている。歌詞を聞くと恐ろしくなりそうだ。俺はそそくさと建物を後にした。建物からは「人間なんて食い尽くせ」「魔法で蹴散らせ」みたいなシャウトが遠くに離れても聞こえてきていた。流石にその意見は聞けない。聞かなかったことにしよう。

 しかし一軒行って見た限り、結局何も分からなかった。このままでなんとかなるのだろうか。俺は建物についている時計で経過した時間を確認した。


 残された時間は後二十三時間。

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