第四十七話 囚われの時の賢者
「出せー!出してくれー!」
ティアが檻を持ってガンガンと騒いでいる。アタシはそれを外から眺めている。
「一万年もあって重要な事を忘れていた罰である。少しここで頭を冷やすが良い。」
手にカマキリのカマがついている、鋭い目つきの人間が、冷淡な女性の声で告げた。女性物のドレスを着込んでいるあたり、女性のようだ。
「勇者よ、先程は失礼した。まさかあの聖剣を抜ける者が来ているとは思わなかったのだ。部下のご無礼お許し願いたい。…というか、勇者にはこの程度の檻、無駄だったようだな。」
その女性が頭を下げた。その目の先にはアタシと、アタシの背後にある、ひしゃげた枠があった。
時間を少し戻そう。数刻前の事だ。
私が目を覚ますと、冷たい牢獄の中だった。幸い兵士たちはシャコウバンを外さないでおいてくれたので、目が潰れなくてすんだが、チラとそれを外すとピカピカと床や壁が光り輝いていた。ただこれは触っても大丈夫だったらしい。先程の石のようにジュッと溶けるような事はなかった。
「出せー!出してくれよぉ!ボクが何をしたって言うんだぁ!」
先に目覚めていたらしいティアが、向かいの檻で何やら騒いでいた。
「あ、サリア。目が覚めた?キミも訴えてくれよ。こんな事される謂れは無いよ。」
ティアがこちらに振って来た。一応確認してみる。
「本当に、何にも心当たりがないの?」
問答無用で拘束されるとか、何か理由があってもおかしくなさそうだ。それにさっき中庭でファーラ=フラーモと何やら言い争いをしていた。あの時エレグは誤魔化していたが、実際にはティアが何かを忘れていたところから聞いていた。そして此処はファーラ=フラーモと同じ地位にある神?が居る場所のはずだ。ティアが忘れていた事が、この待遇と何か関係しているのではないか?という予想は、幾ら脳筋呼ばわりされるアタシでも少しは想像出来るというもんである。
するとティアは明後日の方を向いて「…無いよ。」と言った。微妙な沈黙の後に。
嘘だ。
アタシは直感した。何かしら隠している。アタシにすら分かる態度であった。
「嘘付くんじゃ無いわよ!!この状況で誤魔化していい事なんてないわよ!?いいから吐きなさい!!」
「いいいいいいいいや、何も隠してなんていないよ!!本当にさ!!ボクの…えっと…食べかけのドーナツを賭けてもいいよ。」
「おい。」
幾ら何でも分かり易すぎる。
「アンタ誤魔化す気あるの?そこは魂くらいちゃんとしたもん賭けるべきでしょ!!隠してるのがバレバレよ!!」
「いや隠しているというかねまぁ言っちゃうとボクが色々忘れている事が原因だとは思うんだけどボクも結構な人生経験を積んでいるわけでね?色々忘れてしまう事っていうのはあるんだようん世の中ってそういう事あるじゃない?で今そういうのを責められているわけなんだけどそれを責めても仕方ないと思うんだ時間というのは流れていき記憶というのはその時間という川に漂う木船のようなものさ流れに流され引っかかり残るものもあれば流されてどこかへ消えていくものもあるそういうものだとは思わないかい思うだろうだからボクは悪くないんだそうさ悪いのは時間さ時間が全て悪いのさ一日が二十四時間でなければ一年が三百六十五日でなければもう少し記憶が保持出来るそう思わないかねキミ。」
「うるさあぁぁぁあああああい!!もう少しゆっくり話しなさいよぉ!!」
イライラして腕に力が篭ってしまい、同時に怒鳴ってしまった。一息で色々言われたが、何を言っているのか分からない。とりあえず、やはりティアが何かを忘れていたのが原因のようだ。
と気づくと、目の前にあった枠がぐにゃりと曲がっているのに気がついた。力を込めた結果のようだ。随分脆い金属を使っているものだ。
「お、ラッキー。」
アタシはそのひしゃげた合間を潜って牢屋の外へと出た。
「ちょ、ちょっと!!ボクも出してよ!!」
「理由を説明したら出してあげる。」
アタシがそういうと、横から「その必要は無い。」という声が掛かった。
そちらを向くと、前述の女性が立っていた。
そして先程のやり取りが始まり、現在へと至るというわけである。
アタシは女性に手を振って言った。女性の顔は普通の人間に近かったが、カマキリの目と触覚のような装飾なのか何なのか、そういうものを頭に付けていた。
「いやいやいや、いいのよ分かってくれれば。なんかアンタ達の方でもいろいろ理由あるみたいだし。」
すると彼女は言った。
「うむ。それについては追って話そう。その前にこのボケをどうすべきか。」
そう言って女性は、冷たい視線をボケ…ティアへと向けた。
「いや理由が!理由があるんだ!ボクの方も大変だったんだよ!」
「ならばそれを申し立てして貰おう。まず我が問いたいのは、あの怪物への対処をどうして怠ったのかという点だ。」
怪物というのは、先日アタシとエレグで倒した、例のデアーラとか言う怪獣だろうか。
「それは、その、後三年くらいあるかなって思って、時間魔法の活用とか、バロットレットの研究とか、そっちの方に時間を割いちゃってだね…?」
「ほぉーう。ならば次に問おう。四年前、あの魔王が就任して、何故何も手を打たなかった?今でこそなぜかマシになったが、部下達の話ではロクでもない暴君だったと言うではないか。そもそも魔王という重要な立場を選挙で決めるなどという二代目の決定を通したのは何故だ、答えてみよ。」
「…えーと、その頃は勇者の手伝いしててね…。」
「四年前もか?」
「その頃は…その…まぁ…ギリギリどうにでもなるかなって…。」
多分嘘は付いていないのだろう。だがあまりにもその回答はいい加減すぎた。
「…よし、ワシがそっ首切り落としてやろう。感謝するが良い。」
「待て待て待て待て待って!!待ってくれアウローロ!!流石に殺すのは勘弁してくれ!!」
アウローロと聞いて驚いた。この人が?そんな目線を向けると、女性は溜息を吐いた後、こちらを向いて言った。
「すまん、紹介が遅れてしもうた。ワシはアウローロ。この光の聖域の神である。」




