第三十三話 空間の征服者
翌日、魔法研究室にとっては実質一ヶ月後(になるように後でティアに調整してもらった)、一報が届いたので、俺とティア、サリアは部屋へと向かった。スカイルは後を俺に任せて帰った。トンスケは相変わらず外部との調整だ。苦労をかける。
そこにはヘトヘトになったアリチャードと、対照的に飄々としている手伝いの護衛とジュゼがいた。アリチャードの思考・研究分野に関する時間だけを加速させたのだとか何とか。どうやったのか聞いても「企業秘密」と言ってティアは教えてくれない。ケチな奴だ。
「あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、疲れました。なんかもう数ヶ月経った気がするんですが。」
彼にタイムルーラーギアや時間操作の件は伝えていない。信用ならないからである。ジュゼによると、ユート、そして混沌の魔界に対する愚痴をぶつぶつと呟いていたらしいので、恐らく縁は切れているのだろう。だが、だからと言ってそうホイホイと教えて良い事では無い。相手がかつてこちらに牙を剥いてきた奴であれば、何をか言わんやである。
「気のせい気のせい。それで、どうなんだ。」
「はいはいはいはい、えーとですねぇ。実験の結果、大凡属性は特定出来ましたよ。」
そう言ってアリチャードは俺達に説明を始めた。
まず呼吸と気圧制御。これは、特定の風を起こす事で、地上の気圧および空気を再現するという方向が望ましいと考えられた。つまり、風属性の魔法を研究する必要がある。気圧の再現自体は可能である事は立証出来ているので、空気の成分再現のように、細かな調整が必要という事になる。
次に紫外線の遮断。これは特定の波長の光を遮断するという事で、光属性の魔法になる。
最後の無重力状態での移動。これは風属性の飛行魔法フライアと、重さを与える土属性の魔法グラビドを組み合わせれば、無重力空間を自由に移動する事が出来るだろうと考えられた。
「…つまり、風、光、土の属性の魔法に熟知した方をお呼び立てする必要があるという事です。」
と、最後にジュゼがまとめて説明してくれた。ありがとう。俺はともかくサリアがちんぷんかんぷんで頭をクルクル回していたので、総括してくれるのは助かる。
「分かった。立て続けの依頼ですまんが、すぐに手配を頼む。それと。」
そういうと俺はジュゼに手招きをした。彼女は疑問を浮かべながら、俺の元に近寄ってきたので、耳元で囁きながら尋ねた。
「作ってもらった魔法を俺はちゃんと使えるのかな…?」
俺はまだヘルマスターワンドを介してでなければ十分に魔法が使えない。その点考慮して貰わねば、作ってもらった魔法が無駄になってしまう。そんな心配に対し、ジュゼは「ああその事ですか」と言いながら答えた。
「そこはご心配なく。魔法を使うのは私です。魔法を構築する際、今ご説明のあった能力に加えて、対象者の魔力が持続するだけ効果を発揮するよう、効果時間延長の効果も付与するようにしますので、その辺りは問題ございませんよ。」
それを聞いて安心した。いざとなって無駄な努力でした、という結果に行き着く事程申し訳ない事はない。それが俺のせいとなれば尚の事である。
「ただ問題がございます。…風の魔法に関して、適任者がいらっしゃらないのです。」
光、土に関してはそれぞれ転移魔法の権威スカイル、あの魔力の滝を作り出す程の力を持ったティアが担当出来ると思われるが、風の担当者が居ないのだという。
「誰かいないのかね。」
「ボクも当てはないなぁ。ボクがやれなくもないけど、時間がかかるし、それに今回は恐らく風魔法が一番重要になる。そこまでの自信は、正直ないな…。」
ティアが悔しそうに溢した。俺は当然のように心当たりが無い。サリアもである。…お前何しに来た。そんなこんなで三人で悩んでいると、アリチャードが声をかけてきた。
「ふっふっふっふっ、お困りのようですね。」
「なんだよその思わせぶりな顔。まぁ、困ってるのは確かだけど。」
「ミーを信頼して頂くチャンスという事でお教えしましょう。ミーには心当たりがあります。風魔法のスペシャリストがね。」
俺達は一斉に飛びついた。餌に群がる飢えた鯉のようであっただろう。
「誰だ!?」
「教えて下さい!!」
「誰々?」
「吐けコラ!!」
俺達の名誉のため、最後のセリフはサリアの物である事をここに断っておく。そして今彼の服の襟元を掴んでいるのも彼女である事を断っておきたい。
「ぐぇ…教えますって!!教えますから!!」
それを聞くとサリアはポイと服を離した。
「無茶苦茶な人ですな…。誰ですかこれ。」
「それは追々。で、誰なんだ?」
「鳥族の長、ハルピーのセラエノ・ハイスカーさんです。私も前にご挨拶しただけなんですけどね、あの時名刺を出したらそれはそれは天高く吹き飛ばされまして。あれは間違いなく高位の風魔法の使い手ですよ。」
「それは単にお前が胡散臭いから吹っ飛ばしただけじゃねぇの?」
「いやいやいやいや、吹っ飛ばされた後地面に叩きつけられる前にふんわり着地したんですよ。もし地面の叩きつけられていたら今頃死んでますって。」
まぁ確かに、それはそうである。
「だからあれは魔法ですよ。」
「それは飛躍してないかなぁ。」
俺とティアは訝しんだが、とはいえジュゼに当てが無いなら恐らくこの情報に頼るしか無い。
「ダメ元だ。当たってみようか。」
俺がいうと、ジュゼ、ティア、サリアがそれぞれ頷いた。
「じゃあボクは研究の方を進めておく。スカイルもボクが連れてきておくよ。今から始めておけば、最悪、ボクがやるってなった時にも、手が回せるかもしれないからね。」
「ああ、頼む。」
そんなわけで、俺とジュゼ、サリアは出かける事になった。トンスケにはお土産でも買っていってやろう。
鳥族の集落は風の未開拓領域の近くにある。早速だ。あれを使ってみよう。俺は研究室を出て、アリチャードが連れて行かれるのを確認してから、ディメンジョンコンキュラーバロットレットを取り出した。
[空間!!]
折り畳まれたディメンジョンコンキュラーバロットレットが叫ぶ。それを俺はスロットへ装填、
[Vote!!][Dimension-Conquerer-Ballot-ler!!]
そしてトリガーを引く。
[Calling!!][天・地・自・在!!ディ・メ・ン・ジョ・ン・コンキュラー!!]
真ん中に一本の白い線が入った黒い鎧ーーーギアが装着される。そして、背中の翼も鎧が覆い、そこに何かがくっつく感触が伝わってきた。
[降臨!!]
振り向くと、そこにはジェット機のエンジンのようなブースターのような、そんなものがくっついていた。だが不思議と重くはない。むしろこのギアを装着した事で全身が軽く、まるで宙を浮くような気分になった。
そしてヘルマスターワンドのタッチパネル部分の表示がまた変わり、今度は[分断][圧縮]などの漢字二文字が表示された。俺はその中の[転移]をタップした。
[空・間・転・移!!ディメンジョントランスファー!!]
すると、ヘルマスターワンドは今までとは異なる無機質な機械音声をあげ、俺の周りが輝き始め、光が溢れ出てきた。
「おお?おお。」
どうやらこれで転移出来るようである。
「みんな、俺に掴まれ。」
そういうとジュゼ、サリアは俺の腕に引っ付いた。その、柔らかい部分が当たったりして、ちょっと気持ちが高揚したりした。
そして光が収まると同時に俺達の体は消え、景色が変わった。
そこは風が荒れすさぶ地、目的地たる風の未開拓領域の前であった。




