第三十話 問題とは降って湧く物
あの一件が落ち着いてから数日後。イレントから喜ばしい連絡が入った。
「ででででで、出来ましたぁぁぁ!!なんだか数年掛かった気分ですが、列車の技術が完成しました!!後はどことどこを結ぶか決めればすぐにでも開発に入れます!!」
目には隈が出来、何やら血走っていたが、その声は極めて明るい物であった。俺は玉座から立ち上がってサムズアップをした。
「よくやったぁっ!!ゆっくり休め!!」
休ませないと色々不味そうな気がした。具体的にはぶっ倒れそうな感じだった。
「はい!!で、次は何を研究していいですか!?」
「休んでる内に考えておくから、まずは寝ろ。」
「はい…。」
俺が冷静に言うと、イレントが肩を落とした。なんでやねん。やはり順調に進んだ事でハイになっていたようだ。あるいはと思いティアの方を向いたが、「そんな事しないよ」という顔をしたので、信用する事にする。
さて。これで輸送手段、つまるところ列車の開発が可能になった。動力は魔力である。魔列車とでも呼ぼうか。
ここで問題となるのは、どことどこを繋ぐかという話だ。まず首都と主要都市、それと辺境に近い街を繋ぐ必要があるが、全てを並行開発する事は出来ない。魔法を使おうと使うまいと、人手というのは限度があるのである。
俺はしばし考えた上で、まず首都と、以前助けた狼族の集落、それと以前断罪した竜族の集落を繋ぐ事にした。結局のところ土地や食料の不足があの諍いを生んだ部分がある。それを再発させないためにも、少なくとも物資を輸送し、住居を増やせるようにせねばなるまい。それに、以前も述べたが、こうした物作りは人々の雇用にも繋がる。彼らに正しい形で金或いは物品を渡せるというわけだ。…色々な因縁もあるので、勿論狼族と竜族の区分けはしないといけないだろうが。
となると次に必要なのは、どのように線路を引くかである。その部分に関してはイレントないしは彼の配下の担当技術者に見てもらう必要がある。
「ジュゼ、悪いが担当者を現地に派遣してくれるか。」
「わかりました。」
そして彼女は転送魔法を使い、担当者と護衛を現地へと派遣し、夕方になると彼女が担当者達を回収した。
翌日。当然そうした調査は一日では終わらない。
「ジュゼ、今日も頼む。」
「わかりました。」
そして彼女は転送魔法を使い、担当者と護衛を現地へと派遣し、夕方になると彼女が担当者達を回収した。
更に翌日。調査はまだまだ終わらない。
「ジュゼ。」
「…わかりました。」
そして彼女は転送魔法を使い、担当者と護衛を現地へと派遣し、夕方になると彼女が担当者達を回収した。
更に翌日。
「…あの、ジュゼ様、「嫌です。」
「だよなぁ。」
転送魔法が使えるのが彼女だけとは言え、流石に四日連続は辛すぎるし、手間を掛けすぎている。ただでさえ複数人転送するのは負担が掛かるのだ。転送機でも渡せればいいのだが、生憎俺の分は流石に渡せない。何かあった時にすぐに使えるようにしておかないとならないからだ。それにこれは一人用。複数人は使えない。だからと言って、転送した後現地にキャンプしろというのも、治安の関係上難しい。
「はぁ、…なぁティア。」
こういう時は先人に聞くのが良い。と思う。俺は試しに聞いてみる事にした。
「ん、なんだい。」
本を読んでいた彼女は、本に目を通したままこちらに返事をしてきた。
「俺も転送魔法使えるようにならないかなぁ。」
「んー、すぐには無理だねぇ。練習するか、誰かからバロットレットの形で力を貰わないとダメじゃないかなぁ。」
「練習ねぇ。時間をとめて頑張ってみるか…?」
「それより誰かから借りた方が楽でしょ。」
「誰からだよ。ジュゼ?」
「私は無理です。多分ですけれど、バロットレットとして託すには、相応の魔力が必要です。私はそこまでではありませんから。」
「それは謙遜だよ。とはいえバロットレットにするのは、まぁ難しいだろうねぇ。ボクもヘルマスターギアの事を調べて準備して、なおかつあの人質騒動が起きたからこそ出来たからね。アレは特殊すぎる。思いとか魔力とか、色んなものが噛み合わないと出来ないよ。」
その時は飄々と取り出したように見えたが、実際は結構苦労かけていたらしい。
「じゃあ誰から借りるんだ?」
「ボクの知り合いに居るんだよ。丁度いいのが。」
「丁度いい?」
「空間移動の魔法を極めたヤツが知り合いにいるのさ。こんな事もあろうかと、この間出かけた時に予め、いざとなったら力を借してくれとお願いしておいたんだ。」
それは有難い。だがそれなら最初からその人に協力を乞えばこんな技術研究に時間を掛ける必要無かったのではないか。俺が初めから言ってくれよという目でティアの方を見ていると、彼女は言った。
「言っとくけど、転送出来るのはキミとその他数人くらいだと思うよ。彼も大量の物の転送は出来ないからね。あくまでキミやキミの関係者の移動がすごーーーく便利になるって話。」
「なるほど。だがそれはそれで有難い。是非会いに行こう。魔界にいるのか?」
「うん。」
「あ、じゃあアタシも行くー。」
ティアのの横で「魔界の名所」という名前の本を読んでいたサリアが割り込んできた。その声色は言ったことのない場所へ行くことへの興味関心で溢れていた。観光気分だろう。だが止める理由もない。俺は許可した。
「…では私は"また"留守番でもしてます。」
ジュゼがつっけんどんな態度で言った。
「あー…えー…。」
そういえば最近ジュゼには事務作業をやってもらいっぱなしだった。どうしたものか。
「ハハン。」
ティアが俺達のやり取りを見て何やら目を光らせた。なんだよその目という気持ちを込めてジトリとそちらを見ると、
「いやいや他意は無いようんうん。そうだね、魔王様も忙しいしね。じゃあボクとサリアで連れてくるよ。」
ティアがニヤニヤしながら言ってきた。何か言いたげである。その顔を知ってか知らずか、サリアがフフンと鼻を鳴らしてふんぞり返りながら言った。
「そうね。この勇者に任せなさい。」
本当に、何と言うか、強いというか図太いというか、凄い勇者だよなコイツ。
分かった、任せると言おうとしたその時、突然一人の男がこの玉座の間に転移してきた。
「何奴!?」
話題に付いていけずボケーっとしていたトンスケがいの一番に反応した。
「あれ、キミ…。」
ティアの顔見知りのようであったが、彼女には目も暮れず、俺の方を見て何やら喚き始めた。
「た、大変だ!!魔王、何とかしてくれ!!」
「へ?誰?」
「隕石だ!!自然界にどでかい隕石が落ちてくる!!あんなものが落ちてきたら魔界もただじゃ済まない!!このままじゃ滅亡だ!!助けてくれ!!」
俺とジュゼは目を合わせた。
「…内政する時間は無いのか。」
「無いようですね。」
俺達は同時に溜息を吐いた。




