第二十六話 希望の光・前編
※今話の内容は「第二十三.五話 挙兵を目にして」の2020/3/18改稿版を前提に執筆しています。お手数ですが、先にそちらをお読み頂く事をお勧め致します。
突然目の前に魔王が現れた。何事かと戸惑っていると、彼は物凄く喜んだ様子で説明をしだした。例の軍勢がイージス王国の国境線まで到達しつつあるらしく、それでアタシを探していたのだという。
「それで、君に説得を頼みたいんだ。」
勇者ならば話を聞いてくれるだろう、そういう話だった。残念ながらそれは叶わないぞと言おうとした時、
「待て、その手はどうした?」
言うより前に手の傷に気付いてくれた。なので事情を一通り説明した。既に一度止めようとした事。アザも見せた事。だがまるで洗脳されているかの如く、聞く耳を持たず、逆に刺されてしまった事。そのせいでもうアザも見せられない事。そして、ここには対抗策になるかもしれない武具を取りに来た事。全て説明し終えた時、彼は考え込み、言った。
「…なるほど。大変だったな。すまん、今のは無かった事にしてくれ。」
「いいのよ。知らなかったわけだし。ところで、あの連中が洗脳されているとして、魔法ならアンタ解いたり出来ないの?」
「うーん、ちょっと待ってくれ。」
言うと彼は懐から変な箱を取り出した。この間も見た気がする。
そして彼は、杖の[スタート!!]という音声と共に、その箱に対し何やら独り言をぶつぶつと溢し始めた。見てて不気味である。その間、アタシは周りの不可解な状況に気がついた。木々のさえずりや小川のせせらぎが全く聞こえない。彼の話す声以外は無音の世界。何やら気味が悪くなってきた。やがてそれが終わると、こちらに向き直り首を横に振った。
「深く掛かっている魔法はすぐには解除が難しいらしい。解除対象の魔法の研究から必要になる、とさ。」
「え、今誰かと会話してたの?」
「そうだが、まぁそれは一旦置いといてくれ。」
「それはいいけど…、ていうかこの状況なに?音がなんにも聞こえなくて怖いんだけど。」
「時が止まっているからだ。敵の軍勢に進攻されないようにね。」
「なる…ほど…?」
良く分からないけどそういう事が魔法なら出来るらしい。便利だな魔法。
「しかし…ユートの名前が出るとは…。」
先程説明した時の、街の人々の溢したセリフにあった人名を彼が上げたので、アタシは尋ねた。
「知ってるの?前の勇者らしいけど。」
「ああ。この間君を襲った奴ら居ただろ?」
「うん。」
「あれの首魁らしい。」
「え!?勇者がなんで!?」
アタシは予想外の関係性に驚きの声を上げた。混沌の…魔界だっけ?勇者がなんで魔界を混沌に落とす必要があるの?
「それが分かれば苦労はしない。…本当になんでだ?…いやもしかすると…。」
魔王が何やら考え出した。だがアタシは止めた。
「止め止め。今は考えても仕方ないでしょ。まずは武器取りに行きましょ。アンタの杖みたいに何か役立つ能力あるかもしれないし。」
「あ、ああ。まぁ、そうだな…。それくらいしか今出来る事は無いか…。」
アタシの声に同調するように、彼は考える事をいったん止めた。そう、考える事なんて、この騒動が落ち着くか、どうにもならなくなってからでもいい。どうせ時間操作出来るなら、十分時間はあるはずだ。アタシは立ち止まっている事が嫌いだ。とにかく何かしなければ気が済まないのだ。という事でちゃっちゃと初代勇者の墓に向かうことにした。
深い森を奥へと進む。木々のささめきや川のせせらぎ、そういったものが全く停止した世界で、アタシ達の足音だけが響いていく。そしてやがて、開けた場所に出た。そこには一面の花が植えられており、そしてその花壇の中央に石と何やら剣やらが置いてあった。
アタシ達は花壇の細い歩道を歩き、石を見る。
『初代勇者の墓』
そう書かれていた。
ここが目的地である事は明白であった。であれば。
その横に目をやると、剣が地面に刺さっていて、その横に立て看板が一枚。「希望の光にこれを与えん」。
アタシ達は目配せをし、それぞれ動きだした。魔王はこの辺りだけ時を動かし始めた。風が吹き始め、花が風に揺れた。そしてアタシは剣に手をやり、それを持ち上げようと試みた。
「んぐぐぐぐぐ…うぎぎぎぎぎぃ…!!」
動かない。腕力にはあまり自信が無いが、だとしてもおかしいのでは無いかと言いたくなるくらい微動だにしなかった。その様子を見て、魔王が看板を指差しながら言った。
「この看板の、『希望の光』ってのが何か関係してるんじゃないか?」
「…なるほど?」
そう言ってみたが、どう関係していて、どうすれば抜けるのか分からなかった。
その時。
『…めせ。』
何かの声が聞こえ、アタシは言った。
『…しき時、「いやあ、何も聞こえないぞ。」
魔王の声で後半が聞こえなかった。アタシは思わず拳を振るった。それは彼の顔面に拳の形の凹みを作った。
「黙っててっつってんの!!」
「あ゛い゛。」
彼は腫れた唇でそう言った。そしてようやく静かになったので、アタシは耳を欹てた。
『…心を示せ。その心が正しき時、我はそれに応じよう。』
声の内容は全部でこんな感じだった。その事を共有するが、彼には最後まで風の音くらいしか聞こえてなかったようだった。剣を持っている人間にだけ聞こえるとか、そういう話だろうか。
「心ねぇ。なんでこの剣が欲しいか叫べとかそういう事か?」
「なるほど。やってみるわ。」
そう言ってアタシは、「そう決まったわけじゃないぞ」とか言う彼を無視して、剣を両手に持って力を込めながら叫んだ。
「アタシはサリア・カーレッジ!!勇者って呼ばれた女!!」
「うるせぇ。」
無視した。
「でもね、いい!?アタシがこの剣を欲しいのはね!!勇者になりたいとかそーいう話じゃないの!!」
アタシはガニ股になる事も気にせず、どんどん剣に力を込めていった。物理的に。
「アタシはあのふざけた連中を止めたい!!アタシは!!勇者かもしれない!!でも!!勇者だからアレをしないとコレをしないととか、そういうのはどーでも良い!!勇者はね!!皆の希望なの!!」
アタシは続けた。魔王は黙って聞いていた。
「魔王を倒す?それで平和になる?そんなのどうだっていい!!アタシはアタシがすべきだと思う事をする!!アタシは!!アタシが間違っていると思う事を正す!!それがきっと皆の幸せに、希望に繋がると信じて!!だから!!」
更に力を込めていく。
「とっとと、力を、よこせぇぇぇぇぇっ!!」
瞬間、剣が土から離れた。
「あ。」
魔王が言った。
「お。」
アタシが言った。
そして剣から光が溢れ、アタシの視界を遮り、そして耳に今までに聞いたことのない電子音声が聞こえてきた。
[O-O-OOOOOOOOVERRRRRRRRRRRRRRRRRRIIIIIIIIIIIDE!!!!!!!!!!!!!!!!]




