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第二十四話 国境線の睨み合い

 呪われているのだろうか、と俺は思わず心の中で毒づく。


 魔王城から出かけると大体何かしらのトラブルに巻き込まれている気がする。


 目の前のエスカージャ殿は大慌てで兵士や大臣に指示を出している。彼にも何の連絡もなかったようである。その大臣からは、「こちらからの呼びかけには全く応答が無い」という有難い報告が入った。エスカージャ王は再び頭を抱えている。俺もだが。何の目的かはわからないが、まともと思える理由はまるで思いつかない。例えば俺を狙ってきたとか、俺と対話しているイージス王国を攻めにきたとか、そういうロクでも無い理由は幾らでも思いつくのだが。


「何か心当たりは?!」


 エスカージャ殿が色々取り繕う事も出来ずにこちらに尋ねてきたが、心当たりは全く無い。そう答える。


 だがやがて、ある考えに行き着いた。この会議の事が先方に伝わり、それが切欠でこのような事態になったのではないか、と。ほぼ同時に、彼も同様の考えに至ったらしい。顔を青くして俺に対して何か言いたげにしていた。


「…私のせいかもしれません。私が先方に会いに行きます。」


「そ、そそそそそそそそ、それは危険すぎる!!いや、その方が、私としてもいいのでは無いかとも思わなくもないが…。いやしかしだな、連中はいきなり攻めてくるような脳筋だぞ!?その真前に立ったら最後、突き刺しにされたり何されてもおかしくは無い!!」


 慌てすぎてもう素が完全に出ている。


「な、ななな、何よりだな!?貴公は我が国の貴賓だ!!それを突き出すような事、出来るわけが無いだろう!!」


 国としての立場もあるのだろうが、彼は俺の事を心配するような、そんな声色で言った。いい人だ。俺はそう思った。同時に、そんな人をこんな訳の分からないことに巻き込んでしまう事を申し訳無く思った。


「ご心配、ありがとうございます。ですが、彼の国は魔王を敵視していると聞きますし、一方で貴国とは戦争に至る程の確執は無いものと認識しております。その点から考えれば、恐らく私が何らかの原因になっている事が考えられます。…私が行かねばなりません。」


 そう言うと、彼は唸り声を上げて考えた挙句、「わかった」と言うと、大臣達に指示した。


「騎馬隊を出し、国境の警備を固めろ。騎馬隊なら一日で国境まで辿り着けるだろう。同時に向こうへの呼びかけも続けろ。理由が分からないまま国境を越えさせるわけにはいかん。」


 そして俺に向き直ると、彼は言った。


「貴公が行く事をこれ以上止めはすまい。だが我が国を勝手に蹂躙させるわけにもいかない。私も準備が出来次第現地へ向かう。貴公は先に行っていてくれ。兵士が訝しむだろうから、これを渡しておく。私に話が通っているという証として使ってくれ。」


 そう言って彼は胸元のペンダントを渡してきた。イージス王国の紋章入りのペンダントだ。俺はそれを受け取ると、しっかりと握り締めた。


「…わかりました。ありがとう、ございます。」


「何、気にしないでくれ。上手く片が着いたら、例の警備の件を頼む。」


 そういって彼は部屋を出ていった。後には俺たち四人だけが残された。


「ねぇ、今こそボクの力の出番じゃない?」


 ティアの言葉に俺は頷いた。ジュゼやトンスケも同じ考えだったようだ。


「そうだな。まず状況を把握する必要がある。現地へ行くまで時間を止めよう。」


 そう言うと俺はタイムルーラーギアを召喚した。



 [時間!!]

 [Vote!!Time-Ruler-Ballot-let!!]

 [Calling!!][停止!!倍速!!巻き戻し!!ターイムルーラー!!][降臨!!]



 現実には一切の時間差が無く、会議室からイージス王国-ブレドール王国間国境線へと辿り着いた。実際にも時間は掛かっていない。ジュゼにいって転送魔法を使ったからだ。「一人百マール」なんて寝言を言ったのでアウェイクニングバロットレットを起動しそうになったが、それは一旦置いておく。


 兵士にペンダントを見せて話を通し、国境警備用の見張り台に登り、ブレドール王国の方を眺める。地平線の向こうに蠢く何かが見える。ブレドール王国の騎士達だった。確かにあの勢いなら明日には到着するだろう。


「向こうからはやはり何も?」


「ええ。伝令を出しても剣で脅され突き返されるばかりです。」


「むぅ。」


 先方は蛮族か何かか。蛮族の方がまだ話が通るんじゃないだろうか。いくら何でも話にならなすぎる。


「仕方ない。私が行こう。」


「えっ、魔王…様が?」


 イージス王国の兵士が目を見開いて驚いていた。


「私が行けば何も喋らないわけにはいかないだろう。ジュゼ達はここで待っていてくれ。」


「わかりました。お気をつけて。」


「無理せずボクの力使ってね。」


 勿論だ。俺はタイムルーラーギアのまま向こうへ文字通り飛んで行った。時を止めた状態で。



 時を止めていても、騎士達の熱意とは伝わるもので、前進の姿勢で停止した騎士達は迫力に満ち溢れていた。最初はその目の前で時を動かそうとも思ったが、気づかず踏み荒らされる危険性すらあったので、少し距離を置いてから時間停止を解除した。


 [スタート!!]


 ヘルマスターワンドが告げると、騎士達の歩みが再開された。だがそれはすぐに止まった。俺の姿を見とめたからだ。


「誰だ!!」


 先頭の騎士が叫んだ。


 …こいつら魔王がどんな風体かも知らずに来たのか?と思ったがタイムルーラーギアを装着していた事に気づいた。俺はいったんギアを解除し、一応名乗った。


「我は魔界の王、エレグ・ジェインド・ガーヴメント。汝らに問う。何故イージス王国へ攻め入ろうとしているのか。」


 すると先頭の騎士が鼻で笑った。


「おお貴様が魔王か!!手間が省けるとはまさにこの事!!何故攻め入るか?知れた事!!悪の権化たる貴様を討ち、貴様を匿う悪の王国も滅ぼすためよ!!」


「イージス王国は我と会議を開いただけに過ぎぬ。匿うとは何をもっての発言か。」


「貴様のような醜悪なゴミ虫と会議を開いた、それだけで万死に値するというものだ!!」


 おお凄い。蛮族以下の思考だ。話にならない気がしてきた。まだ魔物と会話した方がマシだし、いっそ言語が通じない方が良かった気すらしてくる。言葉は通じるのに思考がまったく理解できない。


「あー、その、なんだ。会議を開いただけで王国ごと滅ぼすというのはやり過ぎなのではないか?そもそも国民には何の罪もないだろう。」


「害悪なる魔王と会話した王を戴く国は、その民もまた悪である!!我ら神聖なるブレドール王国騎士団は、我が国と勇者様のため、敢然と悪に立ち向かう!!それが我らと我らの偉大なる王の意思である!!」


 悪ってなんだ。悪人ならなんでもしていいのか。というかそれが悪って誰が決めたんだ。こっちから見たら、というか、普通に考えたらここまで無茶苦茶な決めつけをするお前らが悪だろ。


「…話にならんな。」


 IQが違うと会話が成立しないと生前聞いた事があるが、それだろうか。まぁ、状況は理解出来た。だがこの会話をあった事にすると、変に挑発したような形になってしまう。無かったことにした方がいいだろう。俺は諦めて時を戻した。


 俺はヘルマスターワンドの巻き戻しボタンを、世界に対し思い浮かべながら起動した。



 [リバース!!]



「。なんらなに話…」

「!!るあで思意の王るな大偉のら我とら我がれそ!!うか向ち立に悪と然敢、めたの様者勇と国が我、は団士騎国王ルードレブるな聖神ら我!!るあで悪たまも民のそ、は国く戴を王たし話会と王魔るな悪害」

「。うろだいなも罪の何はに民国もそもそ?かいなはでのなぎ過りやはのういとすぼ滅とご国王でけだたい開を議会。だんな、のそ、ーあ」



 ヘルマスターワンドの音声と共に、一連の行動全てが巻き戻っていく。



「!!だのもういとるす値に死万でけだれそ、たい開を議会と虫ミゴな悪醜なうよの様貴」

「。か言発のてっもを何はとう匿。ぬぎ過にけだたい開を議会と我は国王スジーイ」

「!!よめたすぼ滅も国王の悪う匿を様貴、ち討を様貴るた化権の悪!!事たれ知?かる入め攻故何!!事のこにさまはとるけ省が間手!!か王魔が様貴おお」

「。かのるいてしとうろ入め攻へ国王スジーイ故何。う問にら汝。トンメヴーガ・ドンイェジ・グレエ、王の界魔は我」

「!!だ誰」



 そして俺は、見張り台の下へと戻ってきた。


「わかりました。お気をつけて。」


「無理せずボクの力使ってね。」


 出かける前のジュゼとティアの言葉が再び再生される。


「使ったよ。」


 俺がそう返すと、ジュゼとトンスケはきょとんとしていたが、ティアは普通に受け入れていたようだった。


「どうだった?」


「話にならん。蛮族以下だ。魔物以下かもしれん。思考レベルが低すぎる。」


 俺は率直な意見を述べた後、先程無かった事になった一連の会話を報告した。


「無茶苦茶ですね。」


 ジュゼが冷静に、だがどこか怒りを込めて言った。


「そーいう国、という話ではあるんだけどね。価値観が違うというか。」


「とはいえ、いきなり暴力に打って出るのは無茶苦茶だ。ましてや他国に侵攻なんて。」


「全くですな。しかし、価値観に関してどうこう言っている余裕は、残念ながらありませんぞ。まずはこの状況をなんとかせねば。」


「勿論ですね。ですが…ふむ…どうしたものでしょうか…。」


 全員が黙って考え込んだ。この場は一時、イージス王国兵士のバタバタとした準備の音だけが響くのみとなった。


 やがて俺は口を開いた。


「例の国は勇者信仰の国だろ?勇者に説得してもらうとかは…無理かな。」


「それはアリだね。君の話だと、あの騎士達も勇者のためって言ってたんだろ?なら彼女の言う事ならきっと聞くんじゃないかな。…それで聞かなかったらどうにもならないかな。」


 ティアにジュゼも賛同した。


「彼の国は勇者という称号を半ば神の如く信仰しています。余程の事がない限り、勇者が指示すればそれを聞くでしょう。問題は、勇者が今何処で何をしているかという点と、その勇者が私達に協力してくれるかどうかでしょうか。」


「その点は…後の方については、多分心配はいらないと思う。」


 少しの時間であったが、彼女は少なくとも俺が、魔王が絶対悪という訳ではないと理解してくれたと思う。ならばこのような状況を良くは思わないのではないだろうか。多分ではあるが。


「ただ問題は今何処で何をしているかだな。あの時はさっさと別れちまったからなあ。」


「時を止めて探すしかないね。そーいう地道な作業のための足元のタイムボードだから。」


 あれはそういう名前だったのか。初めて知ったぞ。


「だが当ても無く彷徨うのは流石に辛いな…。」


「転送機を使ってください。」


 そう言ってジュゼはこの間旅立った時に使ったものを渡してきた。


「念のために持ってきておきました。これがあれば、今まで行った事のある場所はすぐに移動出来るでしょう。」


「おおグッドだよグッド!!彼女はキミの足取りを追ってきたようだったし、キミの行った場所を周れば何か見つかるはずだ!!」


「一応、今からブレドール王国に一度飛ばします。彼女の出身国、でしたよね?」


「ああ、でかしたぞジュゼ。ありがとう。」


「これくらい当然です。…トンスケ、貴方は魔王城に飛ばしますので、出兵の準備を。場合によっては魔界にあの軍勢が攻めてくる可能性があります。移動用エレベータは一人用ですので、各個撃破出来るとは思いますが、念のため。」


「承知しましたぞ。既に部下には連絡を入れてありますので、滞りなく進むと思います。ご安心くだされ。」


「ええ。魔王様は勇者捜索に注力してください。では飛ばします。…ご武運を。」


 ジュゼが真面目な顔で言った。トンスケといい部下を持ったものだ。まぁ、俺を巻き込んだのもこいつらなんだが。


「わかった。任せてくれ。」


 そう言うと俺は光に包まれ、ブレドール王国の入り口と思われる、城壁の前へと飛ばされた。そして俺はすかさずヘルマスターワンドの一時停止アイコンをタップした。


 [ストップ!!]


 音声と共に、世界の時間が停止した。


 この停止時間の間に、勇者を探さねばならない。戦争を止めるためにも。

 

 世界から見ればほんの一瞬だが、俺にとっては長い一瞬の始まりである。

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