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第二十二話 玉座の間の一時

 魔王城、玉座の間。数日ぶりに帰ってきたそこには、三つの影があった。


 一つはジュゼ。何やら困惑している。


 一つはトンスケ。同じく困惑している。


 そして三つ目。それを見て俺は、先の二人と同様に困惑した。



「やぁ、お先に来てるよ。」



 消えたはずのティアがそこに居た。


「お、おま、おまえ、なんで?」


 俺は言葉を紡ごうとしたが、呂律が廻らず何も出てこなかった。疑問の一言を発するだけで精一杯だった。その疑問に答えたのはジュゼだった。


「急に飛んで来たんです。追い出そうにも何故か触れられなくて困っているのです。この人どなたですか?魔王様の隠し子か何かですか?仕込んだにしては早すぎませんか?」


「んなわきゃあるか!!」


 俺は突っ込んだ。誰かと会う暇すらこの二、三ヶ月無かったというのに。大体ーーー


「そうそう。魔王様が隠し子なら分かるけどね、年齢的に。」


 こいつの年齢からすればそうなる。だがお前が言うな。


「やかましい。なんでお前がここに居るんだよ。さっき消えたはずだろ。」


 彼女はニヤリと笑みを浮かべて言った。


「ああ見せておけばキミはやる気になるかなと思って。誰も"死ぬ"とは言ってないだろ?消えてここに来ただけ。嘘は言ってない。」


 まぁ有りがちといえば有りがちかもしれんが、それは詐欺に近くはないだろうか。だが彼女が生きていてくれた事には素直に安堵した。


「それに、まだ死ぬわけには行かない。キミには大事な事を伝え忘れていたからね。」


「大事な事?」


「ああ。…とその前に、ポカンとしてるそこの二人に事情を説明しなくてはいけないね。」


 そう言うと彼女はジュゼとトンスケに一通りの出来事を話した。彼女が探していた時の賢者である事、俺が彼女からその力を与えられた事。


「で、何故ボクがこの力を分け与えたのか、そこの説明が不足していたと思ってね。」


「何故って、俺を魔王として認めてくれたからじゃないのか?」


「勿論それも大きな要因の一つではある。でももう一つ、こちらも大きな要因があってね。」


 彼女は勿体ぶらせるように手を大きく広げながら言った。


「近いうち、この世界に大きな事件が起こる未来が見えたんだ。それも自然界や魔界を巻き込むような大惨事がね。」


 俺とジュゼ、トンスケは息を飲んだ。大惨事。


「何が起きるのかは、残念ながら具体的には分からない。未来は常に変化している。ボクはその一片を垣間見ただけさ。ただ、もし起きた場合、多くの犠牲が出るであろう事は間違いない。…それを見て黙っているわけにはいかないよね。」


 彼女は続けた。


「でもボク一人で出来る事は限られている。時の魔法の力はあくまで何かを為すための力添えにしかならない。キミも知っているだろう?」


 俺は魔力の滝での一件を思い返し、肯いた。時の魔法は万能ではない。何かをやり直すために巻き戻しをしたとしても、その"何か"を変えるためには、時の魔法は役には立たない。あくまでやり直す機会を与えてくれるだけだ。


「そう。何かを為すためには、どうしても他の力が必要だ。だからキミに託したのさ。魔王という魔界で恐らく最も強い力を持った立場に居て、尚且つその力を悪用する気配の無いキミに。」


「なる…ほど…。」


 随分と買われているものである。だが悪い気はしない。…調子にも乗らない。何せこの先何か、相当に面倒くさい出来事が起きる事が予想されるのだ。


「かと言って力を渡して後よろしくっていうのも無責任じゃない?だからボクも付いてあげようと思ってね。アドバイザーと思ってくれたまえよ。」


 そう言うと彼女はちっこく薄っぺらい体を強調した。まぁ、心強い…のだろうか。時の魔法を使える人間が他にも居るのはありがたいが。


「分かった。まぁ、ありがとう。よろしく頼む。」


「こちらこそよろしく。そちらのジュゼさん、トンスケさんもよろしく。これからお世話になるよ。」


「なんだか勝手に話が進んでいるような気がしますが…。致し方ありません。よろしくお願いいたします。」


「よろしくお願いしますぞ。」


 ジュゼはいまいち納得しがたいという顔をしながら、トンスケはいつもの調子で、それぞれ挨拶をした。



「で、その事件で具体的に分かっている事ってあるのか?」


 俺がティアに問うと、彼女は首を横に振った。


「なんか魔界も自然界も燃えている風景しか見えなかったんだよね。」


「魔王様もギアを装着すれば見られるのでは?」


「未来を見られたのは別の魔法との組み合わせ、しかも魔力の滝みたいな魔力に満ち溢れているところだけだったからね。難しいんじゃないかな。」


「別の魔法って?」


「それを覚えてないんだよねぇ。」


 肝心なところで使えない、大した賢者様である。


「顔に出てるよ。」


 殴られた。


「いや色々実験してた時に急に変なもんが目に映るものだから慌てちゃってさ。どうしようって考えてたらどうやったのか忘れちゃって、だから何時起きるのかとかもよく分からないんだよね。」


 俺の頭にはある言葉が浮かんでいた。年齢からいってそれはボケなのではないかと。


「だから顔に出てるって。」


 また殴られた。


「そういうわけであやふやではあるんだけど…確か、旗が見えた。あれは…魔界の旗では無かったね。」


「ふむ、どれでしょうか。」


 そういうとジュゼは幾つかの旗を取り出した。ティアがその内の一つを指差すと、ジュゼはなるほどと得心した様子であった。


「ブレドール王国。この旗はブレドール王国のものです。」


「…なるほど。そういう事かい。」


 全く理解出来ない。トンスケもポカンとしている。おい外交担当。


「どういう事だ?」


「ブレドール王国は唯一魔界と友好条約を締結していない国なのです。先日魔通で会話したイージス王国等とは、先代の魔王様は友好的な関係を保ち、領土不可侵の原則も含めた友好条約を締結しているのですが、彼の国とは一切の連絡が取れない状況です。」


「それに、さっきキミは会っただろう?勇者にさ。あそこは勇者信仰が古くから根付いている国でね、数十年に一度生まれる勇者が魔王を倒すって本気で信じている連中が殆どと聞くよ。」


「そのせいもありまして、一方的に敵視されている状況です。そうした点から考えても、恐らくティア様の見た未来というのは、ブレドール王国が侵攻してくる未来か何かではないでしょうか。」


「可能性は高いね。…とはいえ、幾ら数十年に一度の勇者誕生とはいえ、それがキッカケで攻め入るなんて事あるかな?前から勇者は生まれていたようだし。」


「…何か止めになるような事件でも起きるんだろうか?」


「そこまでは全くの未知数ですね…。」


 備えるしか無いらしい。となるとブレドール王国について情報を得る必要がある。どうしたものだろうか。


「…自然界のことは自然界に聞くのが一番かなぁ。」


「と申しますと?」


 俺はとある考えを彼女らに説明した。


「なるほど。それはいいかもね。」


「丁度挨拶にもなるし、いい考えだろ。」


「ふむ、確かに。では私は持ち物を用意致します。」


「我輩は日程を調整致しますぞ。」


「ああ、頼む。」


 そうしてジュゼとトンスケは玉座の間を後にした。


「じゃあボクは科学者達の手伝いしてくるよ。キミがやりたかった事だろ?代わりにやっといてあげるよ。」


「え、いいの?」


 俺が自分でやるつもりだった。だがティアはまた笑みを浮かべて言った。


「単純に研究室内の時間を早送りするとどうなると思う?」


 室内だけの時間が早まった場合…?


「…作業速度は上昇するが、食糧の消費も早まる?」


「当たり。例えば単純に三倍の速度で研究を進めると、三倍の速度で彼らが飢える。それはこの貧乏魔王城では困っちゃうだろ?」


 嫌味ったらしいがその通りである。我々の飯にも困るくらいなのだ。三倍の速度で消費されたら洒落にならん。なお先程確認した結果、ジュゼが見覚えのない綺麗なドレスを着ていて、国庫から少し金が減っていた。残念ながらトンスケは抑止力にはならなかったらしい。後で煮て出汁でも取ってやろうか。…話がズレた。重要なのは、食糧を節約しないと国庫が足りなくなる恐れがあるという事だ。


「そうならないように微調整する必要がある。精神部分だけ早送りしたりとかね。キミはまだそこまで時間の操作慣れてないだろ?人で実験させるのはボクの望む所ではないからね。そこは任せてくれたまえ。」


 またまた嫌味ったらしい言い方ではあったが、まぁ言う事は理解出来るし納得も出来る。


「んじゃ頼む。俺は文言考えとく。」


「オッケー。」


 そう言うとティアは部屋を後にした。一人頼れる?ヤツが増えた事で、より魔界の統治も進む事になりそうだ。数日間ではあったが、この冒険も無駄にならなくて良かったと安堵しながら、俺は次の手を打つために必要なとある文言を頭を唸らせながら考える事にした。


 と同時に、ふと彼女の事が気になった。さっき会った"勇者"サリア・カーレッジ。別に恋だのそういう話ではない。ブレドール王国、勇者信仰、そういうキーワードの恐らく中心にいるだろう人物だからだ。彼女は一応、魔王、少なくとも俺が(自分で言うのもなんだが)悪い人間ではないというのは理解してくれたように思う。だがそれでも、今後何かしらの形で関わってくるのだろうか。だとしたらどのような形で?


 …いや、今は考えても仕方ない。俺は本来の仕事に集中する事にした。





<アイテム解説>

■タイムルーラーバロットレット

『時間』の力を秘めたバロットレット。時の賢者ティア・リピートの力が具現化したもの。ヘルマスターワンドにセット(vote)することで、時を操るタイムルーラー・ギアを召喚、装着することが出来る。

一時停止、早送り、巻き戻しの他、自身の動作を記録し同時再生するダビング等の効果を有する。

足元には巨大なアナログ時計があり、ヘルマスターワンドのタッチパネル操作と連動し動く。攻撃時にはブーメランのように飛ぶ事もある。

このバロットレットをセットした場合、ヘルマスターワンドの機能は時間操作に集中するため、他属性の魔法は使用出来ない。そのため、大ダメージを与えるためには、別のギアへチェンジする必要がある。

コールは[タイムルーラー!!]。

2020/3/18

・一部キャラクターの名称を変更しました。

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