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第十七話 自然界の玄関口にて

 検問所というと、持ち物検査やら何やらで人がいる事が予想されるだろう。俺もそうであった。だが自然界との境界に至りその予想はしっかりと裏切られた。


 それはエレベーターだった。長い長いエレベーター。軌道エレベーターというのがあったらこういう物だろうというのが眼前にあった。その周りに人は居ない。


「なんだよコレ。」


 通信機で問いかけると、ジュゼが答えた。


『それは自然界への直通エレベーターです。見ての通り。』


「いやさ、検問っていうと何かしらチェックとか入るんじゃないの?誰もいないんだが。」


『エレベーター内で展開される魔法で、持ち物や身分、特に魔物で無いかどうかがチェックされます。』


 しっかりしてるんだなあと思わず感心してしまう。


『とりあえず乗れば大丈夫です。魔王様は顔パスですから。』


 そうか、ならとりあえず乗ってみるか。


 エレベーターは幾つかあり、どれも通路やらレバーやらで一人しか乗れないように制御されていた。ドラゴン用のサイズの大きめの物や、魚族用の水路等もある。使う奴いるのか?まあいい。俺は人間用のサイズの物に乗ると、自然界行きと書かれたボタンを押した。


 ドアが閉まり、ウィンウィンと何かが動く音が聞こえる。こちらに光が照らされ、何かがチェックされているようであった。すると『魔王様を確認』という音声が流れ、エレベーターが動き始めた。顔パスというのは本当らしい。


 ゴーという音と共にエレベーターは上がり続ける。何というか本当に魔法のあるファンタジーな世界なのだろうかと悩ましくなってくる。普通にどこぞのタワーやらビルやらを登っている時と大して変わらないように感じるのだ。


 そんな考えで頭がいっぱいになっていくと、やがて耳が遠くなってきた。気圧の問題らしい。俺は口をパクパクして耳を整えた。するとそんなタイミングでエレベーターが止まり、ドアが開いた。



 そこは今までの俺の考えを百八十度回転させるものだった。



 緑に溢れ、風が吹き、綺麗な空気に包まれた世界が眼前に広がっていた。奥には山々があり、雪の冠を頂いている。明るい光に包まれ、自然に満ち溢れた世界、そこを元の世界では見た覚えのない鳥が羽ばたく。


「これだよ!!これが見たかったんだよ!!」


 俺は思わず声に出してしまった。


 正しく見たかった「ファンタジーの世界」がそこにあった。なんだよ今までのアレは。確かに魔界らしいおどろおどろしさはあったが、科学に満ち溢れすぎていて溶け込んでしまった気がするが、違うのだ。これだよこれ。緑に溢れた広大な大地、折角転生したんだ、こういうものを求めていたんだよ!!なんだよタブレットって!!ちくしょう転生詐欺か何かだよ!!もう!!


「あ、あ、あのー。」


 その声を聞いてハッとなった。


「す、すすす、すみません、こちらイージス王国の領地なのですが、何か、ご、御用ですかね?」


 こっち側には人が居るのか。と思いそちらを振り向いたら、思い切り槍をこちらに向けられていた。なんだこれ。

 鎧を着た兵士が、エレベーターの横にあった小屋から出ないように、その小屋の小窓から槍を突きつけてきていた。どうやら検問所の兵士なのは分かるが、この待遇はなんだ。


「あの、この槍は。」


 そういうと鎧を付けた彼はすごすごと槍を収めた。


「あ、いや、大変失礼。ここを通る人なんて最近居ないもんで、焦ってしまってつい。それにこの辺は治安が悪くて。」


 つい槍を向けられても困るのだが、まあいい。確かに人が通らない道を突然通られたら焦るのも分かる。


「で、ですね、一応確認って事で、行先等お願いしとりまして。教えていただけます?」


「あー、失礼。わた…んー、我は魔王エレグ・ジェインド・ガーヴメンド。少々ラバック山脈に野暮用があり、こちらにお邪魔した次第である。」


「ラバック山脈に、えー、魔王様お一人ね。…魔王!?」


 古いリアクションである。


「あ、ああ。ちょいとお忍びで。」


「ひぃ!!殺さないで!!」


 彼は再び槍をこちらに向けてきた。


「誰が殺すか。」


 理由も無くそんな事する奴があるか。…あるか。


「落ち着いてくれ。我は別にそんな取って食ったりはしないし、何か危害を加えるつもりはない。ただちょっと会いたい人がいてラバック山脈に行きたいだけなのだ。」


「え、へぇ。そ、そうですか。わ、分かりました。」


 汗だくで彼は答えた。鎧のせいではないだろう。さっさと通して行かせたいという気持ちがひしひしと伝わってくる。


「ら、ラバック山脈はここから歩いて数日の場所です。ま、魔法は危険なので禁止されております。魔物がいた場合を除き、その、使うと、処罰の対象になる場合が、あったりなかったりしますので、ご、ご注意下さい。」


「魔物がいた場合は自己防衛という事で使っても良いか?」


「は、はい!!だから!!今は使わないで下さいね!?」


「使わない、使わないから安心してくれ。」


 まぁ魔王と聞いたら恐れるのは仕方ないのかもしれない。


「いいかね、我は庶民派で有名なのだ。最近の魔界は徐々に治安も良くなり、我も君達のような人々と仲良く過ごしているのだよ。」


 嘘である。正確には嘘ではないが、全員とでは無い。


「へ、へぇ、そうなんですか。」


「うむ。なので恐れる事はない。むしろ魔界の住人が何か粗相をするようであれば我に連絡して欲しい。何とかしようではないか。」


 これは嘘ではない。一応。何とかしようという気はある。


「は、はあ。分かりました。」


「で、ラバック山脈はどっち?」


「あっちです。」


 彼は東の方を指差して言った。先程雪を被って見えた山々である。


「分かった。ありがとう。」


 そう言って俺は検問の兵士に別れを告げて、足を進める事にした。思わぬ妙な出会いで出足を挫かれた感はあるが、気を取り直して進むとしよう。道は長そうである。



 と思った瞬間、空から何かが降りてきた。


「シギャアアアアアアア!!」


 けたたましい殺意に満ちた叫び声が天に響く。


「ど、ドラゴンだぁ!!」


 兵士が叫んだ。それは確かにドラゴンであった。おまけに知能もなさそうで、涎を垂らしながら口を開け、まっすぐこちらに向かってきている。


「この辺に住みついてる凶暴なやつです!!」


 だからこの兵士は小屋から出なかったのか。何と無く理解出来た。


「村の住人とか、私の弁当とか、同僚を食っちまうんです!!何とかして下さい!!」


 村の住人と弁当と同僚を同列に扱っていいのだろうか。まあそこは言うまい。どちらも大切だ。


「今は自己防衛って事で魔法は使っていいのか?」


 俺が尋ねると彼はヒィヒィ言いながら答えた。


「使っていいです!!だから助けて!!」


「分かった。何とかしよう。刮目せよ!!」


 俺はアウェイクニングバロットレットを取り出し、折りたたんだ。


 [覚醒!!]


 それをスロットに挿入、グリップ部分のトリガーを弾いた。


 [Vote!!Awakening-Ballot-let!!][Calling!!][目覚めたる魔界の王!!ヘル・マス・ター!!]


 鎧が装着され、目元のバイザーが輝き、俺の視界がハッキリする。そしてそのバイザーには、ドラゴンが魔物認定されている事をハッキリと写していた。


 [降臨!!]


 その音声と同時にヘルマスターワンドを振るう。


 [Ice!!]


 氷の属性を纏った杖が、餌つまり俺に向けて急降下するドラゴンの頭を直撃した。その一撃はドラゴンの目元を凍らせ、ドラゴンの視界を奪うことに成功した。


「グギャア!?」


 驚愕と共にドラゴンが落下した。


「す、すごい!?」


 兵士もまた同時に驚愕している。


 一気に終わらせるとしよう。俺はヘルマスターワンドのパーツを外し、下部にジョイント用パーツ、その中央・左右に他パーツを取り付け、トリガー部分を九十度回転させた。


 [Mode Buster!!三・銃・連!!]


 それは三つの銃口を持つキャノン砲のように変形した。俺はその状態で氷のアイコンを二回タップした。


 [Ice!!][Ice-Finish!!]


 そして音声と共に叫びながらトリガーを引いた。


「人々に悪さをするドラゴンよ!!去るがいい!!」


 [ヘルマスター!!アイスバスターフィニッシュ!!三銃連!!]


 瞬間、三つの銃口から同時に吐き出された氷の奔流がドラゴンを包み込み、その体を氷漬けにし、そして砕いた。


「ふぅ。」


 俺は一息ついてバロットレットを取り出し、鎧を外した。すると兵士が小屋から出てきて言った。


「あ、ありがとうございます!!助かりました!!この礼は何とすればよいか…。」


「いや、気にしないでくれ。むしろ、うちの不始末だ。申し訳ない。」


 実際のところ、自然界の魔物は魔界の生物が野生化した結果だ。魔界に責任がある。俺が出来る限り何とかすべき問題である。


「いやいやそんな!!」


 だが彼はそれ以上は何も追求するつもりはなさそうだった。ありがたい。


「また何かあれば言ってくれ。では先を急ぐので。」


「は、はい!!ありがとうございました!!」


 兵士に見送られながら、俺はラバック山脈へと足を進めた。少し人助けもできて気分は良かったが、道のりはまだ長そうではある。あまり浮かれず、体力を温存しながら進むことにしよう。俺は杖をつきながら、自分のペースで歩き続けて行った。

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