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第十四話 貴方の一票[Ballot]が・後編

 私ジュゼ・トーン・リマイドが魔王様を転移させた時、はっきり言って彼に勝ち目は無いと思っていました。いくら魔法が少しは使えるようになったと言えど、敵のゴーレムの巨体ぶり、そして魔力の満ち満ちた姿には、打つ手など無い物と思えたのです。


 [降臨!!]


 この音声を聞くまでは。



 ゴーレムの股下には人一人分程度の隙間があり、我々民衆にも何が起きたのかがはっきりと目に映りました。


 初代魔王様の鎧が、黒と赤で染め上げられたそれが光輝きながら魔王様の頭上に現れ、光と共に白・青・黄の線を描き色を変えていく。そしてバラバラに分かれ、鎧の各部位が魔王様の体に合わせて形を変えながら装着されていきました。それは今まで魔界では見たことのない光景でした。初代魔王様の鎧は装着する方を選ぶ鎧として言い伝えられていましたが、そもそもこれを身に付けた方自体、今まで目にしたことが無かったのです。


 今は目の前にありました。その姿が。


 竜族の翼も含めて全身が鎧で固められ、目元だけが半透明なクリアパーツのバイザーで輝くその姿は、ある種の神々しさすらありました。その鎧を纏った姿で彼は、杖をかざし叫びました。


「我は…我は、魔王!!エレグ・ジェイント・ガーヴメンド!!魔界の如何なる者をも等しく守り、如何なる罪人にも等しく罰を下す者!!アリチャード・アウトボウ並びに「混沌の魔界」の構成員ども!!これ以上罪を重ねるならば、我が相手となろう!!」


 唖然としていた様子で身動きしていなかったアリチャードとその部下と思われる人々は、その言葉を聞いてハッとなった様子でした。


「あ、な、え、なななな、何が起きた!?いや、そ、そんなこと言っている場合ではあーりませんね!!ゆ、ユーが武装した所で何するものぞ!!行け行け行け行け!!行きなさい巨大ゴーレム!!」


 巨大ゴーレムの肩の彼が、魔王様に向け指を指した瞬間、ゴーレムはもう片方の腕を振るい魔王様に向けて振り下ろしました。


 ですが武装した魔王様は動じませんでした。


 杖の柄のパーツを外し、四つに分割、一つ一つをタッチパネルの上下左右に接続し、トリガーを弾きました。


 [Mode Shield!!]


 杖の叫びと同時に、魔王様はタッチパネルの風アイコンをタップ。


 [Wind!!]


 そして再びトリガーを弾くと、


 [ヘルマスター!!ウインドシールド!!]


 という音声とともに、魔王様の体が風のバリアで包まれました。ゴーレムの拳はそのまま振り下ろされましたが、その拳は魔王様に届く前に、彼のバリアでズタズタに切り裂かれていきます。


「無駄だ!!」


 一蹴すると魔王様は再びパーツを取り外し、今度は四つともタッチパネルの上部に接続しました。


 [Mode Blade!!]


 すると一番上のパーツの刃が展開し、大剣の様相へと変化しました。次に魔王様は炎アイコンをタップし、トリガーを弾くと、


 [Fire!!][ヘルマスター!!ファイアーブレイド!!]


 という音声とともに、魔王様の手元の杖、いや大剣が炎を帯びました。それを縦に振り下ろすと、魔王様にズタズタにされた拳が見事に切断されました。


「なななな!?魔法を無効化出来るゴーレムなのに!?」


「そんなものが今の我に効くかぁっ!!」


 魔王様はまさしく誰にも止められない状態へと達していました。耐魔力ゴーレムというのは確かに存在し、ある程度の魔力であれば無効化出来る能力を持っています。この巨大さ、そしてゴーレムに込められた魔力は、バリアを破るには十分なものがあったのは間違いありません。


 しかし、今の魔王様に、理屈とかそういうものはもはや何の意味も為しませんでした。迸る魔力は凄まじい威力を産み、耐魔力ゴーレムの有する許容値を遥かに超えていました。


「しししし、召喚術師ども!!高い金払ってるんですから何とかなさい!!」


 召喚術師達が慌ててゴーレムの体を復元させていきます。


「ならばこれだ!!」


 魔王様は今度はパーツをT字状に組み合わせ、上のジョイントにセット。


 [Mode Hammer!!]


 そして炎のアイコンをタップしトリガーを引きました。


 [Fire!!][ヘルマスター!!ファイアーハンマー!!]


 その音声と共に魔王様はハンマー状に変形させたそれを橋に叩きつけました。すると橋の表面を炎が走り、ゴーレムの足を焼き払いました。


「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!?」


 仰天するアリチャード。更に炎はその足元に隠れていた召喚術師達へと襲い掛かり、炎で出来た紐で彼らを縛り上げました。熱さと痛みで彼らはゴーレムの維持が出来ない様です。


「ゲゲゲゲ!?」


 ゴーレムの足が崩れたせいでアリチャードがバランスを崩し、ゴーレムの肩に捕まりました。そこをトンスケが自前の物取り棒で捕まえ、こちらに引き寄せました。


「アギャー!?」


 召喚術師達も、兵士達が炎の紐をそのまま引き寄せ、捕らえています。


「よくやった!!」


 魔王様のお褒めの言葉に、兵士達は気分を高揚させていました。


「と、とにかくやっちまいなさい!!」


 無様な叫び声を上げていたアリチャードが叫ぶと、残っていた力を振り絞るように、ゴーレムが無傷の拳を振るいました。


「もう無駄なのは分かってるんだよ!!」


 魔王様はそう叫ぶと、バリアを敢えて解きました。私は悲鳴を上げそうになり、手で口を押さえました。


 ブォンという音を立てて、それはそのまま魔王様の体に命中しました。


 ですが魔王様は、鎧を纏った彼は、全くの無傷のまま、そこに立ち続けていました。むしろ拳を振るった方のゴーレムのそれが砕け、もはやゴーレムは土塊同然です。


「な…。」


 絶句するアリチャードを余所に、魔王様は叫びました。


「これで終わりだ!!」


 [Mode Blade!!]


 彼は大剣モードへと武器を切り替えると、炎アイコンを二回タップしました。すると杖は音声を鳴らしました。


 [Fire!!][Fire-Finish!!]


 魔王様はその音声を確かめてから、トリガーを弾き、大剣を振りかぶりました。鎧や大剣の重さを感じさせない、軽快な動きでした。


 [ヘルマスター!!ファイアーブレイドフィニッシュ!!]


「喰らえぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 杖の音声と共に彼の絶叫が轟き、そしてゴーレムの体は巨大な炎と共に横に真っ二つに裂かれ、ゴーレムを生み出した土塊はマグマの底へと落下していきました。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!?…あ、あー…。」


 アリチャードは唖然とし、そして意気消沈し、トンスケの手元でガクリと首を落とし項垂れておりました。捕まった召喚術師達も同様でありました。


「念のためだ。」


 すると魔王様は再び杖をシールドモードにすると、光のアイコンを二回タップ。


 [Shine!!][Shine-Finish!!][ヘルマスター!!シャインシールドフィニッシュ!!]


 その音声と共に、魔界システムの周囲に更に強力なシールドが生成されました。


「これで壊されないだろう。」


 そう言うと彼は杖の手元のボタンを押し、アウェイクニングバロットレットを取り出しました。すると身に纏っていた鎧は消え、元の魔王様の姿へと戻っていきました。



 何が起きていたのか半ば理解出来ず呆然としていた人々が、ようやく事態を理解し、歓声を上げました。魔王様を讃えるように。


 魔王様は少しはにかみながら、さりとて揚々と橋を渡り、私達の元へと戻ってきました。


「あー、皆、その、投票、ありがとう。」


 最後の言葉には万感の思いが込められているように感じられました。


「特にジュゼ、ありがとう。お前のおかげで、何とか魔王としてやっていけそうだよ。」


「いえ、私は大したことはしていません。」


 本当に、大したことはしていません。


 今、魔王様が、エレグ様が魔王様足り得るのは、他の何よりも、貴方自身のお力ですから。



*********



「さて、詳しく聞かせてもらおうか。」


 場所は変わり、魔王執務室。俺はヘルマスターワンドを突きつけながら、捕らえたアリチャードに対し尋問を行おうとしていた。


「金は!!どこにやりましたか!!全部は使っていないでしょうね!?」


 さっきまでの冷静さは何処へやら、ジュゼは徹底的に取り乱し、今にも文字通り取って食わんとする勢いでアリチャードに喚き散らしていた。


「まぁ落ち着け。で、どうなんだ。」


「い、いや、その、み、ミーは…。」


 その時突然、魔通のベルが鳴り響いた。俺達はギョッとした。アリチャードなど白目を剥いて顔を真っ青にしていたと思う。何故ならそのベルの音源は普通の魔通ではなく、例の直通回線だったからだ。


 アリチャードは此処にいる。では掛けているのは誰だ?


 アリチャードを向くと、ガクガクと歯を鳴らして何も言えないようだった。仕方ない。俺は意を決して受話器を取った。


「もしもし。」


『あーもしもしぃ?いやあお見事でした。まさかここに来て裏切りとは。』


 聞いた事の無い声だった。俺は思い切って尋ねてみた。


「…お前は誰だ。」


『いやいや、ご存知のはずでしょう。もしや心変わりした際に記憶でも失いましたか?』


 …元魔王が何かやり取りしていた相手という事か?


『まぁいいでしょう。改めてご挨拶のつもりでしたしね。私はユート・デスピリア。「混沌の魔界」の党首をしております。』


「おーおー、わざわざご丁寧にどうも。一体何の用だ。」


『いえね?こういう裏切りしてくれた貴方に一応宣戦布告しておこうと思いまして。私どもを裏切ってただで済むとは思わない事です。魔王の座こそお譲りしましたが、我々は諦めておりません。来期もどうぞよろしくお願いします。…それでは失礼。あ、そこの能無しのクズはどうしてくれても結構です。』


 ガチャリと音を立てて一方的に切られてしまった。


「ユート・デスピリア…聞いた事ない名ですな。調べてみます。」


 トンスケが言った。頼むと答え、問題の能無しのクズの方を向いた。


「で、お前はどうする?」


「…いやいやいやいや、その、まだ死にたくないんですが…。」


 もう死んでるじゃねぇか一回。まぁいい。なら仕方がない。


「じゃあ洗いざらい話してもらおうか。」


「いや、その、ミーもあの人が上に居る事しか知りませんで…金も食糧も大半はユート様にお送りしておりまして、その…今期は魔王様も仲間だから楽勝だろうと最低限の予算しか貰えてませんで…。」


「え!?じゃあ金は!?」


 ジュゼが目を見開いて尋ねると、アリチャードは申し訳なさそうに答えた。


「…ミーの持っていたのは全部召喚術師の手配に使いました。」


「殺す。」


 ジュゼが魔法で生成した氷柱を手にアリチャードに突き立てようとしたので、俺がワンドで押さえた。


「待て待て待て!!殺すのは流石にまずい!!」


「離して下さい私の金を他の人に渡すなど許す事が出来ましょうかいや出来ませんここで無残な死体にしなければなりますまいさあ離してください」


「お前の金じゃないだろうが!!トンスケ!!とりあえずそこのバカリッチを牢屋にぶち込んでくれ!!俺が抑えている間に!!」


「わ、わかりましたぞ!!」


 こうなっては尋問もクソもない。アリチャードは抵抗する様子も無く大人しくしていたーーーというかジュゼの勢いとユートの宣言に呆然としていたので、トンスケに言われるがまま連れて行かれた。


「…私の金…。」


 ジュゼは涙を流しながら遠くを見つめていた。


「もう寝ろ。忘れろ。」


 そういうと彼女は黙って肯くと、部屋へ向かっていった。だからお前の金じゃあないだろうと言いたかったが、多分言っても耳を擦り抜けて風に吹かれて飛んで行っていただろう。とりあえずつまづいて転ばないように気を付けてほしい。



 ドタバタが終わり、執務室は静寂に包まれた。忌々しい魔通は引き出しの奥にしまうと、俺はアウェイクニングバロットレットとヘルマスターワンドを机に置いて腕を組んだ。武器が進化する前に心の中に響いた声、さっきの声はこいつらなのだろうか。


『そうだ。正確には我、魔王の鎧(ヘルマスター・ギア)と呼ばれている物だ。』


 アウェイクニングバロットレットが輝き、声が聞こえてきた。


『我は魔王たる素質がある者を求めていた。貴公こそ新たなる我が主人に相応しいと認めたのだ。我を纏いて貴公の眠りし力を覚醒めさせるが良い。』


 眠りし力ねえ。眠っているというか、持て余しているというか。


『そう自嘲するでない。その肉体が貴公のそれでないことは知っている。だが貴公の思いこそが我を呼び、貴公の武器を進化させた。自信を持て。それは貴公の力。貴公こそ魔王だ。』


 …そうだな。俺は心から笑みを浮かべた。


 これからよろしく頼むぞ。魔王の鎧(ヘルマスター・ギア)


 それと、魔界の皆。


 次は二期目だ。期間は延び、出来る事は増える。俺は窓の外を見た。前と変わらぬ魔界の姿がそこにはあった。これを必ず変えてみせる。俺はそう心に誓った。





<アイテム解説>

■ヘルマスターワンド

エレグの想いに応え、エレグの力を更に開放出来るように武器が進化した姿。

バロットレットをロードすることで、バロットレットに秘められた力を呼び出すことが出来る。

八属性の魔法をタッチパネルから呼び出すことが出来る他、二回タップすることで更に強力なフィニッシュマジックを放つことが出来る。

更に柄となる四つのパーツを組み合わせることで、様々な形態へと変形させることが出来る。

パロットレットと属性アイコン、そしてヘルマスターワンドそのものの形態の組み合わせにより、無数のパターンの魔法を発動させることが出来る。



■アウェイクニングバロットレット

『覚醒』の力を秘めたバロットレット。魔王の鎧(ヘルマスター・ギア)が、エレグの心に応え変化した姿。ヘルマスターワンドにセット(vote)することで、魔王の鎧を召喚、装着することが出来る。

エレグの肉体に宿る魔力を操り、全ての属性の力を強化することが出来る。

コールは[ヘルマスター!!]。

お読み頂きありがとうございました。

少々駆け足になりましたが、1期目が終わり、次回からは2期目となります。

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