④
どうして、運命はかくも残酷なのか?
「・・・そう思わない? 思うだろう? 俺だってそう思うよ。俺達を引き合わせたのは運命なのに、同じように運命が、俺達を引き離そうとしてるんだ。まるで哀しみに嘆く人間を嗤う、神様の悪戯みたいに・・・、あぁっ! どうして俺達人間は、こうも無力なんだろう! どうして神様は、他愛ない人間の幸せすらも、自分達の楽しみの為に残酷に弄ぶんだろう! 一体どうしてなんだ! 酷いだろう?! 酷いと思うだろう!」
「思わないよ」
「うぉっ! えっ? リュウ?」
「追いかけて来ないと思ったら、何を訳の分からん一人劇場開いてるんだよ。通報してやるって言って出てったんだから、せめて人並みに慌てて追いかけて来いよ・・・、どうしてそれすら出来ないで、腕相手に劇場開いちゃってるかなぁ?」
リュウが出て行った後、部屋に残された俺の胸には、張り裂けて色んな中身がぐっちゃりと飛び出そうなほどの哀しみが溢れていた。それこそ、理不尽な主張をして部屋を出て行ったリュウを追いかける気力が沸かないほどに。思わず、抱き締めた恋する腕に頬だけではなく、色んな所を擦りつけて、感じる幸福に全てを忘れようとしてしまうほどに。
勿論、本当は分かっている。リュウが口にしていたように、日本の法律が何をどう、主張するかは。
分かっている、分かってはいるんだ。俺だって、立派な日本国民。日本の法律に従うべきだなんてことくらい、分かっている。そう、日本の法律が・・・、俺と真白の恋を、簡単には認めようとしない、ということは。
分かっているからこそ、駄目だった。哀しみが胸を塞ぎ、どうしても立ち上がれなかったのだ。どうしても、どうしても・・・、真白にこの哀しみを慰めてもらうより他に、術がなかったのだ!
「・・・いや、また劇場開かれても、困るんだけど」
「・・・人生という劇を演じる、これ以外に人間が出来ることなんて、あるのだろうか?」
「あるよ」
「・・・そっか」
再び嘆いていたら、酷く淡々とした声での突っ込みが入った。なんか、感情がごっそり抜け落ちたような声をしているのが、妙に怖い。
・・・が、まぁともかく、そういう悲嘆に暮れていた為、暴挙に走る友を追いかけ、咎めることも出来なかったわけなので、これは仕方がないと思う。
思うのだが、案外物事はなるようになるらしく、何故か唐突に、背後から出て行ったはずの友の声が聞こえてきて、驚きながら振り向いてみれば、当然、声の主である親友のリュウの姿がそこにはあった。
一体、いつの間に戻って来ていたのか、出て行ったはずのドアの前、真白を抱きして頬ずりしている俺の真後ろにぬぼっと突っ立っていたリュウは、不思議なくらい虚ろな目をして、俺を見下ろしていた。俺と、真白を。
一応、さり気なくそのリュウの後ろ、開け放たれたままのドアの先を窺うのだが、俺達の恋を踏み躙りそうな第三者の気配はない。
たった一人で戻ってきたらしい親友に、思い直してくれたか、流石我が友! ・・・と、絶賛の声をかけてやりたい気持ちがあるのだが、しかし見下ろしてくる眼差しのあまりの虚ろさに、その声すら掛けることが出来なかった。まぁ、その親友は、虚ろな目をしているくせに突っ込みだけは忘れないようだが。
「あー・・・、えっとぉ・・・、とりあえず、座ったら?」
「・・・僕はもう、駄目だ」
「どうしたっ?」
「縋るべきものに裏切られた以上、もうこの世に僕が立つ為の支えはない。崩れ落ちるだけだ」
「えーっと・・・、な、なに? 警察に何かされたか? ってか、よく分からんけど、崩れ落ちるくらいなら、とりあえず座ったらどう? なんだか全然分からんけど、お、俺はオマエの味方だぞ!」
「・・・真っ先に僕に反旗を翻して、決死の走りに向かわせた奴が、どの口で言うんだよ、そういうこと」
死にそうな目、というのを通り越し、死んでいる目、もしくは死んでいた方がマシな目になっているリュウに、一応、親友として気遣いの言葉をかけてみたのだが、何かに物凄く絶望しているらしいリュウは、俺の心優しい台詞をバッサリと切りながら、ひたすらに絶望を滲ませるばかりだった。
俺としては、恋を主張していただけで、親友であるリュウを裏切った覚えなんてひと欠片もないのだが、しかしそんな言いがかりのような台詞にも怒りを示せないほど、立ち尽くして座ることも出来ないでいるリュウの様子はおかしくて。
これは流石に心配かもしれない、そう思うのは親友として当然の心の流れだったと思う。そしてとにかく、落ち着かせよう、と思うのもまた、とても自然な判断だっただろう。
・・・ただ、今、俺の腕の中には運命の恋の相手、真白がいる。リュウに言葉だけではなく、行動も伴う動きであれこれしてやるのなら、間違いなく、両手が必要になるだろう。そうなると、今、抱き締めている真白を一度、離さなくてはいけなくなる。
一時でも離したくない、運命の恋を手放す・・・、この行為を躊躇しないなら、それは運命の恋ではないと思う。
当然、迷った。出来ることなら一瞬たりとも離れたくないと願っているのだから、当然、激しく迷った。しかし目の前では、相変わらず捨て置けないと思うほど尋常じゃない空気を垂れ流し、刻一刻と、何か、取り返しのつかない場所へと旅立とうとしている親友が立ち尽くしたままでいるのだ。
板挟みになっていた。気持ちの板挟みだ。
ともすると、このまま双方の気持ちに挟まれて圧死でもするのではないか思われる頃、事態は突然、思わぬ方向で動き始めた。思わぬ方向・・・、腕の、中から。
「真白?」
本当に突然だった。腕の中で大切に抱き締めていた真白が、小さく、けれどはっきりと、まるで何かを主張するかのように身動ぎし始めたのだ。一瞬、何かに震えているのかとも思った。
たとえば、異様な空気を垂れ流して立ち尽くしているリュウに何かを感じ、怯えてか弱く震えているのかもしれないと、そういう可能性を思いついて・・・、しかしすぐさま、違うと気づく。
触れ合わせたままでいる頬の温もりが、そういう震えではないと伝えてきていたのだ。
誰に何を言われずとも感じるそれに確信を抱きながらも、では何が原因で震えているのかと不思議に思い、強く抱き締めていた腕を少しだけ緩めてみる。すると身動ぎしていた真白は、その可憐な指を俺の胸元から離し、代わりに俺の二の腕にそっと添えるようにして、腕の外へとその指先を向けた。
大切に抱き締められている恋人の腕の中から顔を突き出し、少しだけ外の世界を覗くような仕草。可愛らしい悪戯を彷彿とさせる、仕草。柔らかく曲げてある指先が、悪戯な色に染めた、上目遣いを思わせて。
真白のその、あまりに愛らしい仕草に、不思議に思っていた気持ちを全て放り捨て、身悶えしそうになった。こんな可憐な仕草、腕より先の余分な部位がくっついている人間では絶対に不可能だと思うし、たとえその不要部分がなかったとしても、生半可な腕では持ち合わせていない可愛らしさなのだ。
そりゃ、感じていたあらゆるものを放り投げ、身悶えくらいしそうになるだろう。
だから、もし実際に悶える直前に視線が偶々そちらの方向に向かなかったなら、悶えて暫くの間、何も考えられない状態になっていた自信がある。ただ、その実現する可能性がかなり高かった未来が訪れなかったのは、間違いなく、幸福なことだった。何故って、人間、初対面の印象が大事だからだ。
──『パパ』が、いた。
「安心して下さい! お嬢さんは、俺が必ず幸せにします!」
「なんでだよっ!」
「リュウ、パパさんの前なんだから、あんまり大声出すなよ」
「オマエだって今、結構な大声出してただろ! ってか、なんだよパパさんって! 男の腕だからって、いきなり父親認定すんなっ! 他にもっと、することとか言うこととかあるだろ!」
「すること? 言うことって、なに?」
「なんでこんな所にもう一本腕がっ! ・・・とか叫んで驚くことだよ!」
「いや、別に驚くようなことじゃないし。だってパパさんだろ?」
「だからっ、パパさんって何なんだよぉー!」
何故か、リュウの絶叫が響き渡った。理由は、ちょっとよく分からない。でも、まぁ、たぶん・・・、俺だけが幸せになっていくことに対する、ちょっとした哀しみが原因なんじゃないかと思う。
その点は俺も申し訳なく思わないでもないのだが、幸せが訪れてしまったのだから仕方がないだろう。俺に出来ることは、一刻も早く、リュウの恋が訪れるようにと祈ることくらいしかない。
・・・まぁ、それはともかくとして。
視界の先には、『パパさん』がいた。
真白が覗くような仕草を見せた先、俺のすぐ右側に、大人の男らしく節の大きな、いかにも頼りになる男、という感じを受ける、手首の太さそのものが子供である俺達とは比べものにならないくらい太く、逞しい腕。
真白の、『パパ』さん。つまり、お父さん。
将来の俺の義父となるその人がすぐ隣にいることにどうしてすぐに気づけなかったのかが不思議だし、不甲斐ないと思う。真白に出会った時も、すぐには気づけなかったし・・・、もしかして俺は自分の運命にすらなかなか気づけないほど鈍いのだろうかと、ちょっと自分に幻滅しそうになる。
でも、たとえすぐに気づけずとも、手遅れになる前に気づけた。これが運命の真価なのだとしたら、俺はこの運命を授けてくれた誰かに命を捧げるほど感謝しなくてはいけないのだろう。
神様なんて信じていなかったのにな、なんて胸の内だけで小さな苦笑を浮かべながら、顔には大人の受けが良さそうな、出来る限り爽やかな感じの印象の良い笑みを浮かべてパパさんへその顔を向ける。
パパさんは俺のすぐ傍まで近寄って来ていて、肘を床についた状態で手を持ち上げ、俺の二の腕からパパさんへ向かって出されている真白の細く可憐な指先を、その、パパさんの太く、艶を失った代わりに逞しさを備えた指先で、優しく、穏やかに撫でていた。
幼子の頭を、自分の大きな手を持て余すように不器用に撫でる父、そのものの姿で。
「包容力のある、大人の男って格好良いよな・・・、俺も将来は、パパさんみたいな腕になりたい・・・」
「・・・せめて、パパさんみたいな人になりたいって言えよ。なんだよ、腕になりたいって。オマエは将来、腕のみの生き物になる予定でもあるのかよ」
「え? そりゃ・・・」
「いやっ、いい! 聞いた僕が間違ってたから、答えなくていい!」
「そう?」
これから年を重ねるにあたって目指すべき姿を目の当たりにし、感動しながら洩らす呟きに、少々存在を忘れかけていたリュウが何故か酷く苦しげな口調で、分かりきっている問いを向けてくる。
どうしてそんな、問うまでもない問いを向けてくるのかと思いつつも、他の誰でもない、親友の問いだからと思って口にしかけたせっかくの答えは、口から出す直前、やっぱり俺には理由の分からない、リュウ自身の酷く焦った口調で遮られてしまった。
どんなつまらない問いでも、リュウが問うのであれば答える意思はあるので問いかけてくれて構わないのだが、俺の答えを聞く意思がある問いなのかどうかを一度、口に出す前に自問しておいてくれればいいのに、と思わないでもない。
何かをとても焦っているらしい今のリュウに、そんな要求を突きつける気はないだが。
まぁ、正直、いつもの俺だったら一応、申し出るだけ申し出ていたかもしれない。問いを向けてきて答えを聞かないなんてちょっと理不尽だから、ちゃんと答えを聞く意思がある問いを発してくれ、と。
いくら親友とはいえ、理不尽な態度を受けたという、多少納得のいかない怒りめいたものを抱いたが故の、一言を。
しかし今は、何の怒りも抱いていない。心はひたすら穏やかで満たされていて、小さな理不尽くらいでは何かを口にする気も起きなかったのだ。
・・・そう、今、俺は限りなく満たされている。満たされて、満たされ過ぎていて、もう俺の中では収まりきれず、溢れかえって零れそうになるほど、満たされていた。
幸せ、だった。一言で言えば、そういうことだった。
だって、俺は理想の恋人だけじゃなく、理想の父親も手に入れたのだから。
「俺・・・、昔から、こういう人がお父さんならどれだけいいだろうって思ってたんだよ・・・」
「おっ、おじさんだって、結構良いお父さんだろ! ってか、こういう人って言ったって腕なんだって!」
「そりゃさ、実の父親なんだから、悪くなんて言いたくないけど・・・、うちの親父、ちょっと色が白いし、太さも足りないし・・・、やっぱ、父親に必要なのは、包容力を感じる適度な逞しさっていうか・・・」
「僕は腕評価なんて聞いてない! そうじゃなくてっ、腕しかないのに理想の父親像も何もないだろうって言ってるんだよ! ってか、そもそもこの腕はなんだって話になんでならないんだよっ!」
「腕しかないのにって言われても・・・、むしろ俺的には、理想の父親に腕から先は要らないっていうか・・・」
「あっ?」
「つーか、この腕は何って言われても、真白のパパだってさっきから言ってるんだけど・・・?」
「だから、なんで突然、父親認定しているんだって話なんだって!」
「何でも何も、見れば分かるじゃん」
「はぁ?」
リュウは、先ほどまでの虚ろな様をどこかに放り出して、雄叫びを上げていた。しかも、よく分からない雄叫びを。もう少し正確に言えば、何故そんな、物心ついたばかりの子供ですら分かりそうなことが分からない様子で騒ぎ立てているのだ。
幸せすぎる俺を見て、もしかするとどこかが壊れてしまったのかもしれないが、それにしたってこれはないだろうという壊れ方をしているような気もする。
あまりに雄叫びを上げているので、か弱い少女の身である真白が怯えていないか心配して見下ろせば、大切に抱き締める俺と、パパさんまで傍らにいるおかげか、怯えることなく、落ち着いてその麗しい姿を保っている。
そして時折、パパさんの指先に撫でられて、嬉しげに身を震わせたり、まるで俺に甘えるように胸に寄りかかったりしてくる。
・・・可愛いわ、マジで。
脳が崩れ去るほどの幸せに俺の方がおかしくなりかけながらも、とりあえず真白は大丈夫そうなので、視線を大丈夫じゃなさそうな親友に戻す。すると俺が少し目を離しているうちに何があったのか、立ち尽くしていたはずのリュウが、崩れ落ちるようにして座り込んでいた。
しかも、何故か両手を床につき、気の所為でなければ先ほど以上に虚ろな目を向けてきている。何か、とても大事なモノが抜け出てしまったかのような目を。
「えーっとぉ・・・、マジ、どうかしたの?」
「それは僕の方が言いたいよ・・・。っていうか、見れば分かるって・・・、冗談抜きに、この男の腕がその女の子の腕の父親の腕だって言っているわけ?」
「冗談抜きもなにも、見れば分かるじゃん。どう見たって、パパだろ」
「・・・わっかんないよ! 見れば分かるって、何をどう見たら分かるんだよっ!」
「分かるだろっ! え? 分かんないの? 分かるだろ? 分かるよっ!」
「分かんないよっ! どこ見りゃ、分かるんだよ!」
叫びが、聞こえた。力ない瞳に俺からしてみたらよく分からない涙を滲ませ、床についた両手で握り拳を作り、全身を小刻みに震わせているリュウからの叫びが。
魂の叫び、というヤツだったのかもしれない。もしそうならば、親友として、本当なら俺は気遣ってやるべき叫びだったのだろう。
しかし俺には出来なかった。親友だからこそ、出来なかった。何故ならその叫びは全く同意出来ない内容だったし、同意出来ない叫びを上げてしまう親友の、開いていない目を開かせてやるのが俺の役目だと、そうも思ったから。
だから俺は真白を改めて左手で胸に抱きかかえる。リュウに、その姿がよく見えるように。そして同時に、失礼のないように気をつけながら、右手でパパさんの二の腕辺りに触れて、俺の前、つまりリュウと俺の間に移動してくれるように促した。
人間が出来ているパパさんは、若輩者の俺の要望を広い心で受け入れてくれ、真白を撫でていた力強い指で床を掻き、俺とリュウの間にその身を移してくれる。
床に肘をつき、同じく床についた五本の指でしっかりとその場に立つ、大人の男らしいパパさんと、俺の左腕に抱かれ、その優美な曲線を描く白い二の腕を頬を押し当てるように持たれ掛けさせている、真白。
パパさんに場所を移ってもらい、空いた俺の右手。その右手を人差し指だけ突き出す形に変えて、最初にパパさんの二の腕の内側をそっと撫でる。それから抱き締めている左手を少し緩め、真白の同じ部分をゆっくりとなぞって・・・。
「この、ここのラインだ」
「・・・は?」
「このラインが、血縁者・・・、しかも一親等特有の相似性を見せている! つまり、真白とパパさんは実の親子だっ!」
「じっ、自信満々に気持ちの悪い断言するなー!」
丁寧に場所まで示して教えてやったのだが、何故かその途端、リュウの今までで一番の絶叫が響き渡った。・・・何故だ?
リュウがいまいち理解不能な反応を示したので、俺は理解不能で、首を傾げる。パパさんはその姿に相応しい父親らしいどっしりとした構えで動揺することなく佇み、真白は俺の腕の中に間違いなく信頼を見つけているのだろう、全く怯えることなく可憐な仕草で時折指を動かしている。
リュウだけが何故か一人取り乱し、頭を搔き毟っては唸っている。
一体何故、そんな唸り声を上げているのかは分からないが、その唸り声の合間に・・・、
「ってか、何で着いて来るのかと思ってたら、娘の腕があるからかよ・・・」とか、
「どうして俺の後を着いて来れば娘の腕、見つけられるって分かったんだよ」とか、
「つーか、何で腕だけがこんなに何本もあるんだよ」とか、
「僕はどうしてここに戻って来ちゃったんだ? この腕連れて、交番に行けばよかったじゃん」とか、
「まさかと思うけど、僕も軽犯罪者の仲間入り扱いになるんじゃないよな?」とか、
・・・そういえばどうしてなんだろう? と思うような諸々の疑問がすっきりとする呟きを洩らしている。
パパさんが突然現れた理由や、どうして交番に行くと言い出していたリュウが戻ってきたのかは、リュウ本人としても理解不能なようだが、とにかく、今のこの状況がどうして発生しているのかは大体分かった。
不思議に思う暇もなく幸せを感じまくっていたのだが、よく考えると不思議な現在がある程度すっきりして、俺としては結構満足だった。
いや、結構なんてものじゃないかもしれない。パパさんの、真白に対する深い愛情が感じられて、それがまた、俺のパパさんに対する憧れと、真白に対する愛情を深める効果を生み・・・。
「真白・・・、一緒に、幸せになろうな」
「ハル!」
「パパさん、俺、パパさんのような人なら、同居、全然オーケィなんで」
「オーケイなわけあるか! 拙いんだって、これ、思いっきり拙いんだってぇー!」
俺のような幸せを掴めなかったリュウが、頭を抱えて雄叫びを上げている。
真白はそんなリュウを気にしているわけでもなさそうだが、何故か再び、身動ぎを始めている。
そしてパパさんは、真白のそんな様子を気にしているのか、俺の膝に乗り上げるようにして、真白に寄り添おうとしている。
──幸せ、だった。幸せでしか、なかった。だって、俺のこの十四年余りの人生の全てがようやく、報われたのだから。